7 「完治は難しい」


「帰るわ」


「は?」


「帰る」



頼んでいたラーメンが席に運ばれるが、俺は立ち上がった。



「もやしラーメンは?」


「俺の食べていいよ」



テーブルには俺が注文したもやしラーメン定食と、聖也が頼んだチャーハン&半ラーメンセットが並んでいる。



「食えるか、この量!」



確かに、一人でこの量はきつい。


俺は座り直して、ラーメンを食べた。



「俺が笑ったこと、怒ってんのか? それとも、内面に問題あるって言ったことを怒ってんのか?」



聖也が気を遣って聞いてくる。



「いや、怒ってない。今日はもう帰りたい」


「小学生の頃から皆勤賞のお前が早退って珍しいな? 体調悪いのか?」



早退して初恋の人に会いに行きたい、とは言えない。



「実は十年前から患ってる」



優しい聖也は俺の言葉を信じてしまったのか、箸を床に落とした。


嘘ではない、俺は病気だ。


病名は恋の病。



「な、なんの病気なんだ?」



正直に「初恋の人に連絡先渡しに行きたいから早退する」と言ってしまったら、聖也は呆れて社長にチクるだろう。


社長ならまだいい、聖也は俺の父さんにも言いつけてしまうかも。


社長より父さんの方が怖い。



「聖也、それは言えない。言えない病気なんだ」



そう言ってラーメンを大急ぎで食べた。


聖也はショックを受けたようで、言葉が出ない。


店員から新しい箸をもらうが、全く食事が進んでいない。



「じゃ、俺帰るから。早退するって皆に伝えといて」



ラーメン定食を食べ終えた俺は、呆然とする聖也を置いて店を出た。

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