5 「綺麗な箱」
「ちょっと煙草買いにコンビニ寄っていいか?」
俺の返事を待たずに聖也はコンビニに入る。
聖也がレジで並んでる間、俺は店内をうろついた。
何か買おうかと思ったが、特に欲しいものはない。
商品棚を見ていると、ある物が目に止まった。
なんだ、これ?
蝶の絵が描かれていて、ギャルが好きそうな配色。
「なあ、聖也。この綺麗な箱はなんだ? カラコン? 俺こういうデザイン好きだわ」
ちょうどレジの順番がきて、店員が煙草を探しているのを待っている聖也に箱を見せた。
「とりあえずそれ棚に戻してこいよ」
聖也はその箱に一瞥した後、俺の顔を見ずに前を向いた。
「え? まあ、買わないけど...これ何?」
「今会計してるから後にしてくんない? 早く戻してこい」
さっきまでニコニコしていたのに、突然冷たい態度をとられた。
俺は何か気に障ることをしてしまったのだろうか?
しぶしぶ商品を棚に戻した。
セブンスターを二箱買った聖也はコンビニを出る。
俺は追って店を出た。
しばらく無言が続いた。
機嫌が悪い聖也は珍しいから話しかけづらい。
コンビニから少し離れたところで聖也は立ち止まって振り向いた。
「童貞にもほどがあるだろ」
聖也は笑いながら言った。
機嫌が悪いと思ったのは勘違いだったみたいで、俺は安心した。
「あの箱、コンドームだぞ! 帝翔がレジでしつこく聞くからめっちゃ恥ずかしかったわ!」
俺も笑ってしまった。
自分の無知より、あの時の聖也の心情を考えてしまうと笑える。
「お前って奴は本当面白いよなぁ! この歳になってあんな恥ずかしいことはなかなかねぇ!」
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