25話 2人の安否

 グリフィンの群れが切り裂かれた状態で、息絶えている。

 「そういえば大道に入る前に剣技を展開していたな、すっかり忘れていたな。さすがに大道にいきなり引き込まれるとは思わなんだ。」

 ガランッ…

 「…?」

 振り返ると一本の剣が落ちていた。なぜだ?そんなことを考えているアドリウスが、巨大な影に覆われた。どうもその影となる原因のものは、ガチャガチャ音を立てているようだった。わかったぞ…。顔を上げずともその正体がわかった。そうだった、剣の大道を扱うと剣は…大道の剣使いに反応してその方向に飛んでいく。その影響範囲は大道をどれほど使いこなしているかによって変わる…つまり、俺ほどの使い手になれば…!

 ガシャガシャガシャガシャ!!!!!!!!!!!!!!!!

 「チッ!仏業金身!」

 ガシャガシャガキンガシャガシャガキガキガキン!!!!!!!!!! 

 危なかったな…、別に剣に刺されたぐらいでどうってことないが、痛みは普通に感じるからな。金身を発動させていなかったら多くの剣に串刺しにされていただろうな。そんなことになれば、ミラとコーネリアのもとに戻るのが遅れ…

 「!まずい!あの二人のことをすっかり失念していた!」

 大道にいた時間はほぼ現実世界で時間は経過していないはず…だがあれらの剣がどれほど遠くから飛んできたのかわからないが、俺のいる場所まで飛んできた時間は経ってしまっている!俺が2人の場から離れる時、もうかなりの時間戦っていたはずだ…無事でいてくれよ2人とも!俺は急いで歩法を展開した。


 「ハアッハアッ!コーネリア!大丈夫?!」

 「え、ええ…ハーッハーッ、でももう限界よ。魔力はとっくに残ってないし、ハアハア…短剣は飛んで行ってしまったしね。ハアハア…」

 「私ももう限界…さすがに…疲れた…」

 「ハアハア…でもミラの剣がうまい具合に飛んで行ってくれてよかったわ。それがなかったらもう私たち2人とも死んでるわ。」

 「そうね…あれは奇跡のようなものね…」

 実はコーネリアの短剣が飛んで行ったあと、ミラの剣も反応し、アドリウスのほうへと飛んで行ってしまったのだ。しかし、アドリウスの位置とミラの位置の間にちょうどグリフィンがいたことがあり、飛んでいく際にその剣がグリフィンの片翼を切り落としていってくれたのだ。実際に2人の腕前では、グリフィンの体のどこかを切り落とす、なんて芸当はまだ不可能であったため、大いに2人を助ける結果となった。だがさすがに時間が経ちすぎており、もう2人は片翼を切られて怒り心頭のグリフィンの攻撃をよけることはできなくなっていた。

 「あー…ほんとに師父、どこ行っちゃったんだろう…。このままじゃ私たち2人とも死んじゃうって…」

 「…ミラからみて、天老君はどんな人物?こういった場面で私たちを見捨てるような人?」

 「いや…それはないと思う。なんだかんだいってあの人は私が辛かったりしたら、手心を加えてくれたり、私じゃ対処できないような危機を事前に排除してくれたりするから…」

 「そう…私も家族を助けたいって言われて手伝ってくれるような人だから…そんなことをしないとは思ってるわ…」

 コーネリアはそう言いながらも、もしかしたらアドリウスも兄さま以外の男どもと同じ、自己中心的な屑なのではないか?と頭をよぎっていた。

 「いくら師父が見捨てない人でも…今この場にいないなら…私たちを助けるのは無理だね…」

 グリフィンが近くににじり寄ってきているのを見てそんなことを言うミラ。

 「あーあ、師父の顔もまだ見てないし…ママに恩返しできてないんだけどなあ…」

 「ミラ!早くよけて!」

 グリフィンの凶爪がミラに振り落とされたその刹那、

 「古家伝空萬功、空照暗星!」

 グリフィンの周りに黒い点が無数に生まれ、グリフィンを虚空へと飲み込んだ。アドリウスの放った功法は、その名の通り空を照らす暗い星を生み出すものだった。暗い星とはすなわち虚空、その虚空に飲み込まれたものは一瞬で体が凝縮され、破裂してしまう。この恐ろしい功法は、かつて数万人を虐殺した強者の使っていたものであった。

 「2人とも無事か!」

 また戻ってきてくれたアドリウスを見て、2人は号泣したのであった。

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