23話 天帝と二つの大道

 『先ほど君を呼んだ、といっただろう?私はここを出られないが、ここに長くいるからある程度この大いなる場所と共鳴できるようになった。そう終着点についたことにより、私の剣はさらに強くなったんだ!』

「…それで?」

『だが残念なことにこの剣を試す相手がいない…、だが!この大いなる場所を感じ取りこの場所まで来れる存在がようやく見つかった!君だ!』

 「つまり…俺をあんたの相手として呼んだ、ということか?」

 『そうだ、きみには私の相手となってもらいたい。この場所を感じ取れる君には期待しているよ。』

 「どれくらいここにいるのか知らないが、その尊大な物言いはもとからなのか?」

『ハハッ!これで尊大か、私からすれば君のほうが尊大な物言いをしていると思うがね。』

 「俺は実際に仰ぎ見られる存在だからな、自分で言うのもあれだが」

 『ほう?まだ齢10にも到達していないように見えるが、それで仰ぎ見られると?』

 「複雑な事情があるんだ。だが紛れもない事実だと言っておこう。それにさっきから俺があんたより後にこの場所に来れるようになったと思ってるみたいだが…それは間違いだ。俺はこの剣の大道を使いこなせるようになってから、すでに数十万年たっているからな。」

 『…?君は…何を言ってるんだ?君の年は一体いくつだい?』

 「今年7になるが、まだ誕生日は来てないから6だな。」

 『そうだろう?今年7になるという子が、数十万年というのはどう考えてもあり得ないだろう?それとも君は妄想の激しい子なのかな?』

 「さらっと失礼なことを言うな、ふむ、そうだな。この大道の本源は現実世界じゃない…いわば心象世界に近いものだ…ならば私の思い描く姿に変えられるはずだ。」

 『君が何を言っているかなんとなくわかるが、姿を変えるというのはまあ可能なことではある。だがかなり難しいぞ?魔法などの外部の力ではなく、自身の有り様そのものを全く今と異なると思い込まなくてはならないのだからな。個人としての自我があるのに、自身を全く異なる人間へと精神性を変えるのはほぼ不可能だ。』

 「いや、異なる人間じゃない。ただただ昔の姿に戻るだけだ。かつての姿を思い描くだけさ…」

 その瞬間アドリウスは光に包まれ、その光は徐々に大きくなり、見るものすべてを敬服させるような気すらした。そして光が晴れ、アドリウスとは全く異なる姿をした成人男性が現れた。

 『その姿は…?』

 「これが私のかつての姿…すなわち天帝の姿さ。さて改めて自己紹介をしよう、私の名前はアドリウス。かつての名は……■■■だ。ちなみに年は…二十万歳以降は数えていない。」

 『こんなことが可能なのか…?年齢が二十万歳以上で…それに、っ…?名前が口にできない?!』

 「まだ君は私の名前を呼べるほどではないということだ。」

 『は、ハハハハハ!どういった原理かはわからないが、この私が名前を呼ぶ資格すらない、か。まだこの場所を認識できたばかりのヒヨッコかと思って呼んだのだが、とてつもない存在だったらしいな。』

 「さて、君の望みをかなえてあげよう。思い切り剣を振るってこい。大道にとらわれている者よ。」

 『そうだな、せっかくこんな相手がいるのだ。全力でかからずして何になるというのだ。行くぞ!』

 その強者は全力を出し、剣の大道と共鳴させた。

 「素晴らしい…!大道の才無きものがここまで大道を使いこなすとは!」

 『クラーザ流、星光斬!』

 「玄階高級武技、流星剣訣!」

 相手の繰り出す剣技が星に関係してそうだったから、こちらも似たようなものを繰り出す。天帝ともなればこのような遊び心を持っていないとな。あ、いや本当に遊べというわけではなく、そのぐらいの余裕を…という意味だ。そして遊んだ結果…私は無傷だった。

 『ここまでこの大いなる場所の力を使っているのに埃すらつかないとは…』

 「それは俺も同じだけ共鳴させてるからだ。わかってるんだろう?」

 『ああ、あなたが手加減して私に合わせている、というのはわかる。そして私があなたには勝てないことも。』

 「そうか、もう悟ったのか。なら君に敬意を表して君よりも上の次元を見せてやろう。」

 『上の次元だと…?』

 「ああ、こうするのさ。」

 そう言った私は、今いるこの大道と上界の大道を同時に共鳴させ始めた。

 『なっ?!これは…なぜこの大いなる力が2つ感じられるのだ?!』 

 同じ大道を2つ同時に共鳴させる、これはどちらかが大きかったり、強かったりしたら不可能なことで、小さいほうが抑制されてしまうからだ。だがこの世界の大道が上界とほぼ変わらない大きさだからこそ、初めて可能になったことだ。そしてたった今、2つの大道を利用した剣技を作った。さあ、試し切りといこう。

 「大道剣意、双共意意空剣!」

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