21話 剣の大道

 展開した功法によって、群れの中央にいるグリフィンたちが一刀両断される。

 「よしよし、全員止まったな。お前らにはこのまま俺の相手をしてもらうぞ?この先には俺の仲間がいるからな、進めさせるわけにはいかないんだ。極・鬼仙門開放、残仙功法凌空蒼、絶言指剣」

 手から発した剣気が、剣意が、剣の大道と共鳴し始めた。


 「え?!な、なにこれは?!」

 「くっ!どーしたのコーネリア!集中して!」

 「い、いやそれが!私の短剣が震えてるの!なにもいじってないのに!」

 「それでなんか戦闘に支障はあるの?!」

 「それはッ!ヒートウェーブ!全然ないけど!」

 「じゃあ集中して!いくらピンチになったら師父が助けてくれるからって、万が一ってこともあるでしょ!!」

 「わ、わかってるわよっ!あっ?!短剣がとんでったわ!」

 「多分だけどっ!師父が何かしてるんだとッ…思うっ!コールドヘッジ!ハアハアっ…そうですよね師父?!あ、あれ…?師父がいない?!」

 「え?!嘘でしょう?!」


 その頃、少し離れた街…

 「おい!これはどうなってるんだ?!こ、こんな、町中の剣がある方向を向きながら浮くなんて!!」

 「わ、わからないわよそんなこと!」

 「おい!鍛冶屋のばあさん!これは一体なんだってんだ?!」

 「知らんわいそんなこと!儂だって剣を打ってる途中でその剣が飛び始めたから!外に出てきたんじゃ!」


 ある魔法使いの集まる都市にて…

 「ちょっとなにこれ?!包丁とかの刃物が全部浮かんでるんだけど?!だれか刃物をたくさん浮かばせる魔法でも開発したの?!」

 「よく感じてみろ馬鹿!あの刃物たちの周りに魔力を感じるか?!何も感じないだろう?!つまり魔法使いのせいじゃないってことでしょ!」

 「わからなでしょ?!どこかの高名な魔法使いが魔力を隠蔽しながらこの魔法を使ってるのかもしれないし?!」

 「こんな刃物を浮かばせる魔法を使って何になるっていうの?!それに高名な魔法使いならこんなはた迷惑なことしないでしょ!」

「そうよ!どーせ剣使いのばかどもがオーラかなんかで何かしてるんじゃないの?!」

 「それこそありえないでしょ!魔法とは違ってオーラは外に大きな影響を与えるものじゃないでしょ!」

 「皆のもの落ち着け!!!」

 魔法都市全体に声が響き渡った。

 「此度の騒動にかんしては今調査中じゃ!少なくとも今わかっているのは悪意や敵意は感じられないということじゃ。それと魔法ではないと儂は思って居る。もしかすると儂よりも実力のある魔法使いが魔力を隠蔽して使って居る可能性もあるが…」

 魔法都市全体に声を届けられるその老人は、街の人間の反応からしてかなり高位の魔法使いだとわかる。だがそんな人物でも、今起きている街中の刃物が浮かんでいる原因がわからないというのだ。しかも自分より高位の魔法使いかもしれないと…。そのことを聞いた魔法使いたちは沈黙した。いつもは魔法の実験などで騒がしい魔法都市も、この時だけは風の切る音しか聞こえなかったのであった…。


 ある剣使いが多く集まる里にて…

 「くそっ…!なんなんだこれは!あたしの愛剣が空を飛んだままずっと戻ってこない!」

 「そんなにキレるなよ!そんなことは私たちも一緒なんだから!すぐ隣でそんなにキレられるとこっちもキレ散らかしたくなる!」

 「だー!もう!こんな剣ばっかり浮かぶのは魔法使いどもの仕業か?!こんな魔法聞いたことがないぞ!」

 「静まれいッ!邪推はほどほどにしろッッ!!!」

 一目見ただけで実力があると分かる女が、オーラで肉体強化をして場を収めようとした。

 「な、なんであんたの剣は飛んでってないんだ?!」

 「あんた、今のこれになんか関係があるのか?!」

 「スーーッ…静まれと言っとるのが!わからんのかッ!!!」

 二度目の大声で、今度こそ静かになった剣士たち。

 「私の剣が飛んで行ってないのは!今もこうして全力で剣を抑えているからだ!」

 そう聞き街中の剣士たちがその女の剣に注目すると、オーラを余すことなく全力で使いながら、剣を抑えている手が見えた。あまりにも力を込めている腕を見て、絶句した剣士たち。

 「私とパーティーを組んでいる魔法使いに聞いたが!魔力は一切感じられないそうだ!つまり魔法使いの仕業ではないということ!」

 「じゃ、じゃあなんだっていうんだよ!」

 「そんなことは知らん!!だが!剣士たるものこの程度でうろたえてどうする?!常に堂々とした構えでいることこそが剣士ではないのか?!」

 「その通りだ…彼女のいうことは正しい…」

 「「「ちょ、長老様!」」」

 大声を上げていた女も、ほかの剣士たちもみな、その長老と呼ばれた人物に敬意を表した。

 「此度の騒動…何なのかは検討がつかぬが、剣士たるもの不測の事態にこそ冷静でおらんと、緊急時に対処できないぞ?なあ我が孫よ。」

 「うむ、拙者もそう思う。」

 「お嬢…」

 みなその長老と、その孫だという娘のいうことに同調した。

 「うーむ、それにしてもこれは一体何なのか…。この世に生まれて百と数十、こんなことは経験したことないというのに。」

 「この空飛ぶ剣から感じるもの…拙者の発せるあの気に似ている…それも拙者よりもはるかに強い…!この里の誰もが、おばあ様でもこの気については理解してもらえなかった…。なんとしてでも、この気の正体を知るために今回の騒動の犯人に会いに行かなくては…!」

 この少女の発した声は誰にも届くことはなかった。アドリウスの発した剣気を感じ取れるこの剣使いの天才は、数日後里の誰にも告げずにこの里を出ていったのであった…。


 世間を騒がせたアドリウスは、いまだグリフィンを消し去ってはいなかった。

 「ほう?グリフィンども、俺の剣意に怖気づいているのか?それともとびかかったら死ぬという本能ゆえか…。ただの馬鹿だったなら、指先から出る剣なんて、と馬鹿にしてとびかかってきて今頃死んでいるんだがな。すくなくともそんなバカどもよりは…いいな。たとえ言葉の通じない獣でも、正しく死を感じ取っていることは尊敬に値する。ただただ切り刻んで終わりにしようと思っていたんだが…褒美に剣の大道使いとしての技で、貴様らを殺してやる。」

 この世界の剣の大道の大きさがわからないからな…、上界にいたころと比べると威力が上がるか下がるか…。まあ、そんなことはどうでもいいか。

 「剣術剣典、大道共鳴、剣意悟道穹剣、第四訣!蒼穹天涯剣!!!」

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