第10話 その名は天老君

 「泣く…?そんなことになるわけないだろ?え?お嬢さんよお?」


 「余裕そうなところ悪いが、お前は何もできずにオレに敗北するだけだ。以気御剣術、破天式流武剣!」


 俺が以気御剣術を使うと、立ち合い室にあった木剣がすべて浮かび上がり、アンドレアスに向けてすさまじいスピードで突撃していった。


 「ぐッ?!なんだこりゃあ!魔力でこんなこともできんのか?!」

 

 相手はどう見ても斧使い、ということはオーラを使っているだろうから魔法に関しては造詣が深くないのか?まあなんでもいいか。


 「どうした?ガキ相手に何もできていないようだが?それにまだこの剣術はここからだぞ?」


 ただでさえ猛スピードで動いており、防ぐのも大変な状況ではあるが手を緩めはしない。空を飛ぶ剣が、ただの突撃ではなく一本一本がまるで達人が扱っているかのような剣術を各々が展開し始めた。360度前後左右からくる達人剣、まさに武がそこかしこに流れているような景色だ。


 「終わりだ。さよならだ」


 アンドレアスは何かを悟ったのか、抵抗する気力が残ってないようにも見える。だがここで手は止めない、当たっても木剣だ、最悪全治数年程度で済むだろう。決着をつけようとした瞬間、すべての木剣が朽ちた。


 !なんだ?これは…魔法か!魔力の出所のほうを向くとそこには、とてつもない魔力を保有した女性がたっていた。


 「アンドレアスも仮面の君ももうやめなさい、いいね?」


 「わ、わかっ…た。」


 アンドレアスが先に承諾すると、


 「おい!ギルマスに止められたからっておじけづいたか?!続きをやれよ!」


 「「「そうだそうだ!」」」


 観戦していた人がみんなではやしはじめた。


 「貴様ら…!」


 ギルマス?が今にも怒り出しそうだ。仕方ない…


 (天帝の威圧)


 「「「!!」」」


 みんなが一斉に口をつぐんだ。


 「…?仮面の君、何かしたね?」


 「いや?気のせいだ。」


 「ふむ…まあともかく!今回の立ち合いの結果は仮面の少女の勝利だ!もし不満があるやつがいるなら今言え!」


 さっきまで口をそろえて続けろコールをしていたが、誰も口を開こうとはしなかった。先ほどの戦いで数十本という木剣がそれぞれ異なる動きをしながら四方八方から飛んできたのを視れば当たり前か…。いや、それよりは今俺が出している天帝特有の強大な威圧のほうが原因かもな?少し力を込めて威圧すればそれだけでショック死してしまうだろうから口を開けない程度にとどめてはいるのだがな。ちなみにアンドレアスとギルドマスターには放っていない。近いからと言って威圧する必要のないものにまで圧力をかけるのは二、いや三流以下だからな。それにアンドレアスはほんのり涙目だし、泣かすと決めていたのに実際にみると少しかわいそうだな…。


 「よし、今回の立ち合いは公式的に記録される!今後意義を唱えないように!さて…仮面の君は私についてきてくれるかな?」


 「了解した、ついていこう」


 「ありがとう、それと先ほどは娘が申し訳なかったね。君の実力を見抜けなかった娘の落ち度だ。それと…娘を責めないでやってくれ。私も君が立ち合い室についたころから見ていたが、無数の剣を浮かばすまでは娘と同じように考えていたから。それほど君の実力を隠す力はすさまじい。魔力かオーラかどちらを使ったか全くわからないほど、君の魔力もオーラも動きがなかったからな。魔力とオーラ以外の何かを使っ

ているといわれたほうがしっくりくるぐらいだ。」


 この人はセシリア母様とも変わらない、いやひょっとしたらそれを上回る魔力を持っているかもしれない。つまりは大賢者に近しい、もしくは匹敵する存在ということだ。だがそんな人でも功力を使っていた技はどうやっているのかも見抜けていない。おかげで俺は魔力かオーラを完璧に隠せる人間だと認識されているな。実際はギルドマスターの予想通り、第三の力を使っているにすぎないが。


 「大丈夫だ、俺もそのような些細なことで人を責めたりはしない。俺自身、力を隠すのが上手な自覚はあるしな」


 「ハハハ!そうか、君が理解ある子でうれしいよ。ところで…君の名前をうかがってもいいかな?」


 名前、名前か…。アドリウスと馬鹿正直に本名を使うことはできない…。どうするか…。


 「そうだな…、私の、私の名前は…天老君、天老君だ。」

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