第9話 天帝、絡まれる

 「登録したいのだが…いいかな?」

 とりあえず仮面をつけ、さらに声に功力をこめて威圧感を出してみたが…、これなら男だとも思われないだろうし、強者感がにじみ出て舐められるということもない…と思う。それよりも受付の女性が固まったまま反応をしてくれないが、何かあったのか?それとも…身長がそのままだから子供の遊びだと思われている、とかか?

 「あー、かまわないかな?受付のお嬢さん?」

 「あ、は、はい!冒険者としてのご登録でよろしかったですね!ただいま準備しますので少々お待ちください!」

 走って奥に行ってしまった。ふむ、何も問題はなかったようだな!それにしても相変わらず私の言葉遣いが定まらないな、主に心の中だけだが。そろそろ言葉遣いを統一したほうがいいか、気にし始めたらモヤモヤしてきたし、ちょうどいい機会だろう。私、僕、俺…今のところはこの一人称に対応した言葉をつかっているが…、私は天帝だったころの名残…。貴族として表に出るなら私でも問題ないと思うが、如何せん天帝だったころは頂点だったからな、尊大な言い方になってしまう。これは普段使いとしては没だな。次は僕だが、私はそんなキャラではないし、俺、でいくか。冒険者として活動するならこれぐらいがちょうどいいだろう。よし、オレオレオレオレ…オレオレ詐欺かな?んんっ!とりあえずは俺で固定しよう。それに、言葉遣いを定着させたほうが、第四の壁を越えた諸君もなにかと受け入れやすいだろうからな…。余計なことを言ったな…。…?

 「聞いてるのかよ!おいっ!仮面女!」

 仮面女…、周りには俺しか仮面をつけている人はいないし、俺のことだろう。なんの用だろうか?まあ少なくとも女と思われているようで幸いだな。

 「なんだろうか?オレに何か用か?」

 「やっと反応したな!仮面女!お前はどう見ても子供だろ!ガキがお遊びで冒険者登録だなんて言ってんじゃねーよ!どうせその声もなんかしらのアイテムかアーティファクトので変えてんだろ?」

 ふむ、俺が子供に見える(実際に子供)からお遊びでやっていると思われているのか。

 「遊びじゃない、俺はいたってまじめだよ。それにあんたにそんなことを言われる筋合いはないと思うけど?」

 やばいな…、言葉遣い的に男だとばれないか心配になってきた。いまから女の使う言葉に寄せたほうがいいか?

 「おまえ…生意気言いやがって!いたってまじめだと?こっちは善意で忠告してやってるってのに、冒険者の厳しさをお前には教えてやるよ。この建物の横にある立ち合い室までこい!」

 よかった…。男の口調でも問題なさそうだ。俺はまだあったことはないが、おそらく前世での男の口調を普段使いしている女性もいるんだろうな。それにしても…善意だと?

 「善意といったか?お前からは最初から敵対的な感情しか感じなかったが、俺の気のせいか?」

 「君、やめといたほうがいいよ。あの女の言う通り、ここは子供のの遊び場じゃないから」

 後ろを振り向くと俺と同じ、か少し上くらいであろう少女がたっていた。 

「そういう貴女は?」

 「私はここのギルドマスターの娘だよ。」

 「なるほどな。だが貴女も間違っている。俺は君たちよりも強いからな。」

 そう言って俺はギルドマスターの娘の横を通り過ぎた。

 「その証拠にいまからさっきの女を叩き潰す、よく見ておくといい。」

 後ろからあきれたようなため息が聞こえたが、こっちは事実を言ったまでだ。

 「ああ、せっかく冒険者になりたいという子が来たのに、あの若さで潰さすわけにはいかない。危なくなったら止めないと~!」

 「お待たせしました~。こちらが登録書類です!あれ?どこ行ったんですか~?」

 「エミリー、さっきの仮面をつけた子とアンドレアスが戦うわ。」

 「え、え?!なんでですか?!」

 「あなたも見たからわかると思うけど、あの子はまだ間違いなく幼い。まだ冒険者になるべき時期じゃないわ。いまから私はあの二人の間に割って入ってくるから、エミリーはママに報告しておいて」

 「わ、わかりましたあ!」(お嬢様も変わらないぐらい幼いと思うけど…)



 「私の名前はアンドレアスだ!お前をつぶす相手をよく覚えておけ!」

 「俺の名前は「あーいい、いい!これからボコボコにする相手の名前を憶えて何になるってんだ?」…そうかい、じゃあ名前もわからない相手に負けても泣くなよ?」

 絶対この女は泣かす!

 そうアドリウスは強く心に決めた。

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