第8話 登録

 「やっっっっと!冒険者になれる!」

 「半年はかかると思っていたのだけど…呑み込みが早いわね。」

 「でもこれで帰ってきたらマナー全部忘れてました、じゃ話にならないからな」

 「わかってるよ母様達」

 「それと冒険者をするにあたっての注意だけど、絶対に!男だとばれないようにするのよ!」

 「わかってるよ」

 そういえば、女神も言っていたが…男の少なさを実感することがないな。基本修練で人のいないところにいるし、前回のパーティーの時も男の数よりも奇異の目のほうが気になったしな。よくよく思い返してみれば…男、いたか…?いや、一人くらいはいたはず…だ。でもあの奇異の目から男だとばれないほうがいいことは、ちゃんと理解している。

 「大丈夫だよ、ちゃんと性別はわからないように工夫するし。だからアリア母様はその女物の服は仕舞ってきてくれる?」

 「うー、これならアドリウスも完璧な女の子になれる…ぞ???」

 「ごめん、そーれ…は、なにか心に来る気がするからやめておくよ。」

 「じゃあアドリウス、どうするのかはわからないけれど、性別もちゃんとごまかして、そそして無事に帰ってきてね。ここはいつでもあなたの家だから、しんどかったりしたらいつでも帰ってこれるから。」

 「私たちはいつもアドリウスのことを思っているからな。」

 「母様達…ありがとう。行ってきます!!」

 不覚にも涙が出たな…これぐらい普通のことなんだが…。おそらく今の年齢と…親という愛情を注いでくれる存在に触れたことが原因だろう。懐かしいものだ…もう一度目の人生の親はすでに輪廻に組み込まれ、また新たな生命としてどこかで生きているはずだ。元気で生きているといいのだが…。

 

 さて、かつての親に思いをはせるのも、ここまでにしておこう。もうだいぶ屋敷からも離れた。そろそろ力を使うか。だが一体どれを…今は外の世界をしっくりと見たいし、虚空徒歩にしよう。これなら歩くスピードのまま上空から景色を見れるしな。

 「ふっ!!!」

 高度60Mもあれば十分か…。

 「素晴らしい…!二度目の人生では見ることがなかった景色だ…とてつもない広さの森に、あれは、ドラゴンか?それに…向こう側には天空の城が見える。いや、城というよりは都市?いや国家並みの大きさに感じる。視てみるか…。遠夢眼、発!」

 かつての強者が作った特殊な眼の一つであり、まるで夢を見ているかのようにどこまでも遠くまで見れるという眼。殺した強者のうち一人がその伝承を持っており、十大天帝も私を含めて4人が習得した。まあこれ以外にも遠くを見渡す方法はいくつかはあるが。如何せん派手すぎる。遠夢眼以外の方法を使えば、私はここにいます!という自己主張をしているようなものだしな。それはできれば避けたいところだ…。あの天空都市は…不思議だな、一度目の人生でいうところの羽人族が多く住んでいるように見える。それとも天使、とかいう存在か…。

 「ふむ、時間は6年もあるわけだし、一回は立ち寄ってみてもいいか…も…!逆にみられている?!どこから?!あの城の一番上か!あれは…ドラゴン?!くっ!御剣飛行術!」

 すぐさま私はアリアからもらった剣を浮かべ、それに乗り全速力でその場を離れた。家の外に出て初手がドラゴンと戦闘、なんてことになったらさすがに縁起が悪すぎる。それにあれに勝つには1割は力を出さねばならないだろう。…だいぶ速いスピードで移動してしまったし、冒険者ギルドを探して登録をするか。それにしてもどうやって性別を隠すか…、別に女性全員が男に対して嫌悪感だったりを覚えているわけではないだろうが…。そんな人がたまたまギルドの受付嬢、なんてことも可能性としては薄いだろうしな。ウーム、本気でどうするか。お、あれがギルドではないか?!…よし!隠し方も決まったし早速行くか!

 

 受付嬢SIDE

 今日もいつもと同じようにクエストの受付ばっかり。たまーに登録に来る方もいるけど、その数はとてつもなく少ない。この世界で冒険者をするということは、自分から地獄の扉を叩いているようなものだからかしらね。確立としてはそこまで高くなくとも、1Kmを超える怪物だったり(言葉の通じるのもいる)、そこまでいかずとも5,600mの怪物と遭遇することもそれなりにあるし。いくら人間の中にもオーラ使いや魔法使いがいるといっても、そんな超常的な存在に対抗できるのはほんの一握りだ。

 「エミリー、しっかりしなさい!今がお昼時でそこまで人は来ないといっても受付嬢のあなたはうちのギルドの看板なのよ?!」

 「は、はい、すみません!しっかりします!」

 怒られてしまった…、今の人は昔受付嬢をやっていた人で、すごく仕事はできるんだけど仕事に重きを置きすぎて優しさがないのよね~。それにさっき言ってた通りお昼時なんだからどうせ人なんて来ないっての!

 そんなふうに心の中で悪態をついている時、一人の仮面をかぶった人がギルドに入ってきた。身長が小さい…まだそんなに年いってない子供、かしら?と考えていると…

 「冒険者として登録したいがいいかな?」

 とても子供とは思えない、おそらく魔法か何かで変えているであろう重低音の声が頭に響いた。

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