第5話 パーティー

 「魔功の運用も問題なくできるな。」

 さっき展開した功法は破戒僧が作り出したもので、ある機縁を得て私も修行することとなったものだ。この功法は魔功だったため、今まで習得した功法とは性質が異なっており、魔気を体に順応させるのにかなりの時間を要した。それに魔気を体内に宿していると、正道の者らからは糾弾されるため完璧に隠蔽するのにも時間が多くかかった。さらには魔気の影響で暴力的な面が増幅されたり、残虐性が現れたりと、精神面にも大きく影響が出ていた。しかしこれは…

 「太極を理解していたから調和をとることができたんだったな…。」

 天帝として世界の理を理解していた私は、普段の冷静な面と暴力的で残虐な面を太極としてとらえ、コントロールをしていた。それにより私は、様々な魔功を覚えることができるようになり、正魔両道の功法を数多く習得していった。

 「さっき思ったが…、取り込んだエネルギーは魔力に振り分けたりしないで功力に全振りしたほうがいいかもな…」

 実力のある魔法使いにはどの程度の魔力量があるか、そしてソードマスターなんかにはどれほどのオーラを保持しているかが一目見ただけで見破られてしまうらしいからな。恐怖の対象にならないためにも、いったんは魔力とオーラは増やさず功力にのみ集中するか…。

 


 「アドリウス、もう準備はできた?」

 「はい!準備万端です!」

 「セシリア、アドリウスはよくできた子だ。そんなに心配することはないと思うぞ。」

 「それはそうなんだけどぉ」

 「ま、とにかくいじめられたりだけしないように気を付けるんだぞ!暴力には頼らず、理知的に対応するんだ。」

 「わかってるよ、アリア母様」

 ここでわたしは、今後長い間付き合っていくこととなる人物と出会うことになるのだが…

私の感は面白いことが起きる、とだけを感じ取ることだけができたのであった。



 「バスキア侯爵家のご入場です!」

 あ、バスキアというのはうちの家名らしい。前世の感覚から家名にあんまりこだわりというかなんというか、あんまりそういうのがないな。

 「あれね、野蛮な男が生まれたという家は…」

 「ご両親のお二人は尊敬されている魔法使いにソードマスターなのに…」

 「残念ねえ…」 ヒソヒソ…

 全部聞こえてるんだよなあ…。こんなちょうしじゃあそもそも印象をよくするなんて不可能かな…?

 「あんたね!男っていうのは!」

 「やめといたほうがいいよ、カーラ…」

 「もう!いつまでもそんなこと言ってないのピア!それに…聞いていたような暴力的な感じはしないわよ…?」

 「本性を隠しているだけかもしれないし…」

 「えーっと…、私の名前はアドリウス・バスキアですよろしくお願いします。お二方」

 おそらく私と同じく6歳の女の子2人が話しかけてきたため、世間一般の男らしさを出さず、理知的であるようにふるまった。

 「ふうん…、よろしくね私はカーラ・シュリンガーよ」

 「わ、私はピア・ローレンスです…。」

 「よろしくお願いします、カーラ嬢、ピア嬢。」

 「あんた…、粗暴な感じがしないのね。男なのに。」

 「ハハハ…、母様方の教育のおかげですよ。」

 「そーなのね!やっぱりセシリア様とアリア様は素晴らしい方たちね!」

 「セシリア様最高…アリア様最高…」

 「あはは…ありがとうございます。」

 「そんなお二人の子供なんだからあなたも…魔法や剣を扱えるのかしら…?」

 「まあ…それなりといったところです。」

 「フーン、ま、それは後々わかることね。あんたも学園に通うのでしょう?」

 「………はい!そうなると思います。」

 学園って…何のことか全くわからないな…。

 「あんたは今まで男ってこともあってかどこにも顔を出してなかったし、今後も変わらなそうだから、今度会うのはおそらく学園になるでしょうね。その時にお二人の子供であるあんたの実力、しっかり見させてもらうわ。またその時に会いましょう。」

 「あ、また今度会いましょう…。カーラ待ってよ~。」

 フム…、行ってしまったな…。しかし学園か…、それに剣と魔法の腕を見たいとも言ってたな。剣はいつでも大丈夫だが魔法に関してはまたその時期が近付いたら魔力をため始めないとな。……………それにしてもあの二人以外は話しかけてこないし、近づいても避けられてしまうな。…とりあえず顔は出したわけだし、母様たちに断って帰るか。

 

 「一緒に帰りましょうと言われたけど…私の退屈さを知って許可してくれてよかった。」

 現在馬車に乗って帰っているが、御者はセシリア母様が作った魔力の塊が人の形をしたものだ。屋敷の使用人の人たちはフレンドリーだが屋敷の外勤めの人だとあまり関わらないから、やはり男という部分が先行して避けられてしまうからだ…。悲しいなぁ・・・

 !これは!嫌な予感がした私は馬車から瞬時に飛び降りた。その判断は正しかったらしく、次の瞬間には馬車は半壊していた。

 「なかなか動けるな…、さすがAランク冒険者の子供といったところか。」

 「あなたたちは…?」

 「答える義理などないが、どうせ死ぬんだから答えてやるよ。我々はあるお貴族様の私設部隊さ。それも暗殺用の…ね。」

 「暗殺…?なぜ私を狙うので?」

 「簡単さ、自分勝手な男たちがようやくいなくなってきたっていうのに、また男が入ってきた…それも貴族のお嬢様の集まるところにな。自分の娘やその周囲に被害が出る前に消そうと考える、貴族様が出てきてもおかしくないってことさ。」

 「なるほど…。わかりました、答えてくれてありがとう。」

 「随分と冷静だな、これから死ぬというのに。まあ騒がれるよりはましか。」

 「…あなたたちは、こんなことをするぐらいだから自分たちが逆にやられるかもしれないってことを、想定しているんですよね?」

 「なんだその質問は…まさかお前が我々をヤるというのか?」

 「その通りだ。容赦はしないぞ。紫微極崩神功!」

 叫んだ瞬間、夜空に北極星が強く輝き、アドリウスから信じれないほどの圧力が放たれた。

 「た、ただのガキじゃない!総員、攻撃しろ!」

 「もう遅い、北斗中天星光掌!紫微の神が天誅を下す!」

 光輝く北極星より巨大な手が降り、物凄い勢いで暗殺者集団を押しつぶした。地面には見事な赤い花が十数輪咲き、さきほどとは異なり静寂が流れた。

 「天帝に対して暗殺を試みるなど無駄なことを…、こんなことは八大魔皇や殺神と呼ばれた男でさえやろうとしなかったのに。それに…こいつらに命令した人間にも頭を覗いて知ることができた…、ついでに思念を送っておくか。邪霊功、瘟疫侵穴!…これで大丈夫だろう。」

 この世界における二度目の天帝降臨、その刃は先入観にとらわれた愚かな貴族と暗殺部隊に振るわれたのであった。そして一度目の刃を受けた者も、それを感知していた…。

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