第4話 ズル

 ちょくちょく家を抜け出して功法の確認をしている洞窟にやってきた。洞窟というかなんというか、功法の確認で技を繰り出したら深い渓谷のようなものができてしまったというか…。母様たちが調べた結果、地割れが起きたということでおさまりはしたが、どことなく二人に怪しまれていた気がする。でも功力を使っていたから二人は感知することができず、最終的に疑いをなくしてくれたと思う。二人とも冒険者として活動していた時期もあって、最高峰であるSランクに限りなく近いAランクだったため、私が何かするとすぐに感知されていた。でもやはりこの世界にはなかったものだからか、功力に関してはいくら母様たちでもわからなくても仕方ないと思う。

 「さて…、女神も言っていたし、私の魂は天帝だったころと同じ強さのはず。養魂術で魂の強さを上げ、さらに魂そのものに功法や特殊な武具などを刻んでおいたから、あることができる。この世界で築基境まで境界をあげたのも、おそらく今までこの世界になかったであろう修仙修行をこの世界でも続けることができるのかを確認するためだしな。よし!」

 そのある事というのは、魂に刻まれた強さをそのまま取り戻すというものだ。魂に刻む理由としては、例えば邪術などで体を乗っ取られたとしても、その体では元の体の持ち主の強さを引き出せず、乗っ取られた本人は強さをそのまま発揮できるということだ。魂を基準とする、という方法をとっているからこそできる方法だ。現に今も生まれ変わってもかつての力を手にすることができるという、大きなメリットがある。

 「パーティーに出る前に力を取り戻しておいたほうがいい…。母様たちはああ言ってたが、もし仮に大人の女性に目をつけられたりなんかしたらどうしようもないからな。それに、この世界には1km越えのモンスターや精霊なんていう、とんでもないスケールの存在もいるみたいだし、いざそんな存在に遭遇したら天帝としての力がないとただただ殺されるだけだ…。」

 そして力を取り戻すために、私は自身に心の目を向け、心象世界に入った。心象世界で昔の自身と対峙し、認められることで、その力が戻ってくるようになっている。

「心象世界なんていつぶりだろうか…」

 『来たか…。見たところ、二回ほど輪廻の道に入っているようだな。』

 「ああ、そうだよ○○帝よ…。自分自身だとしても礼儀はわきまえたほうがいいかな?」

 『別にどちらでもいい。新たに生を受け、性格や考えが多少変化しようとも、その本質は同じものであり記憶も全く同じなのだから。それで、なぜ天帝だった頃の力を取り戻したいのだ?』

 「別に大した理由じゃない。二度目の輪廻に入る前に、決めたんだよ。力のない生活は自分に合ってない、一度絶対者として生きたものが、普通の生活などできるはずがないと悟ってね。」

 『フン…、なるほどな。まあいいだろう。そもそも私自身がそう決めたことだ。力を取り戻すと決めたことに対して反論なんてない。私は、修練をし天帝まで上り詰めた自分を信じているからな。それにお前が力を取り戻さないかぎり、残魂である自分はずっとここで一人でいなくてはならない。こんなにつまらないことを続けるくらいなら、早くお前が力をとり戻し、本体であるお前に私も合流したほうがいいからな。』

 「そうか、感謝する。自分に感謝するというのも変な気分だがな…。」

 『これから力を取り戻したらどうするんだ?天帝としての力があれば自力で次元や世界を渡ることなどとるに足らないことのはずだ。また上界にもどるのか?』

 「さあな…、だが、弟子やまだ生きているほかの十大天帝がいるなら会いたいものだ。」

 『まあ、そこらへんはゆっくり考えるといい。では…力を取り戻す時だ。』

 「ああ…久しぶりだ。」

 次の瞬間私は光に包まれ、元の渓谷に立っていた。

 「きた…!懐かしい感覚だ。まるで世界の法則が目の前に…!」

 戻ってきた天帝としての力をかみしめていると…

 「!なにか…猛スピードで向かってきている!」

 まずい、相手がどんな存在かは知らないが、まだ私が力を持っていることを知られるわけにはいかない。

 「鬼魂仏魔功!仏魔像降臨!魂絶鬼斬!」

 そうアドリウスが叫んだ瞬間、アドリウスの背後に身長100Mはあるであろう魔の漂う仏身が現れた。そしてその仏身は手にもつ禍々しい刀で空を切りつけ、遠くの存在めがけて斬撃がまっすぐ飛んで行った。

 「?!なんだこれは?!まずいっ!!」

 直後、轟音が鳴り響いた。

 「よし!残穏符!発!」

 私は魂に刻んでいた空間法器から逃走用の呪符を取り出し、自身の力の放出を完璧に消し、母様たちのいる屋敷へと一瞬にして移動した。

 「はあはあ…、力が完璧になじんでない状況だったから、いきなりばれるかと焦ったが、なんとかなったな。あいつを殺すこともできたが…そうなったら力の放出に合わせてあたり一帯は消し飛んでいただろうな。たとえ数パーセントだとしても出したら被害は甚大だからな…」

 一方、斬撃を食らった相手は…

 「はあっはあっ!一体何なんだ!ぐっ!!!これは…魂そのものがダメージを食らっている?!絶対に見つけてやる…!魔力もオーラも感じなかったが、未知の力の波動は覚えた…待っていろよ!!!」

 アドリウスを絶対に見つけると誓った存在は、はたから見て美少女のように見えた。そして不思議とその顔には憎悪の様相は見えなかった。はたしてこの少女がアドリウスをみつけたらどうなるのか…。それはまたこの二人が再開する数年後にわかることになるのであった。

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