ON!!
三曲目が終わった。
これで終わり。
イヤだなぁ。
まだ聴いていたい。
できればもう一度はじめから。
だって、そうすれば今度は一緒になって歌える。
今日ここにくる時朱音がいってた。
『他力本願ぐらいで丁度いいのよ、とくにあんたみたいなのは』
何気なくいったんだろう朱音の言葉に、思わず絶句しそうになった私はそこから、ごまかすように饒舌になっていることを自覚しながらもそうし続けた。
歌が好きで、歌うことが好きで。
でも、それだけだった。
聴いてほしいのにこうしてこなかった。
いつか聴かせて欲しいと言われたり、想われると思ってた。
”欺瞞”だった。
あの頃のあの気持ちに合いそうな言葉を辞書でさがして、この言葉を見つけた。
そうした理由は、勇気とか、奮起だとか、反発じゃなかった。
納得したかった。
納得しなくちゃ先にいけないと、この言葉を呑み込んだ。
今日どうしてここに来たのかなんて多分一生分かんない。
でもいい! 分からくてもいい!
今ここにいる。それだけで十分!
だって、ここまで三曲には、これまでの自分を見せさせてもらえたから。
もし、四曲目があったら……この二人はどんな未来を私に見せてくれるんだろう。
それって、ズルいかな?
ううん、きっと大丈夫。
私と朱音。嵐のような二人。同じだけど違う。同じだから分かる。
「アンコール」
聴かせてほしい。
そう言う。
こうなりたい。
そう思う。
できないわけがない。
だって、私には朱音がいるから。
朱音の横顔を見る。
気づいてない。
だからじーっと、いつまでも見ていることができた。
晴歌。って、私のことを呼ぶ時のあの顔をしてる。
興奮してる。
朱みがかった顔で二人の演奏を見てる。
「アンコール!」
さっきよりもはっきり発声する。
私の声に気づいて朱音がこっちを見る。
すでに笑っていた口元をさらに綻ばせる。
何も言わないけれど、そんな顔が言ってる。
一緒ね、と。
『一緒』だと感じ合える人といれば、その等号から、世界は小さく縮んでく。
けれど、だとしても。
その小さく縮んだ、まるで、しぼんでしまった風船のように見えてしまったとしても。
もう一度天高くまで、だけじゃなくて、その中の空気が弾けるほど強力に発散できほどのなにかを生み出せるとしたら……それは、同じように『一緒』だと、等号によってできた世界に干渉できる。
もちろん、そのほとんどが拒絶を生じさせてしまうことも分かってる。
あまりにも『自由』なものを見せられ、感じさせられれば、嫌でも否定し、反発したくなる。
だからこそ何かが生まれる。
新しい何かが。
カチッ!!
なにかの音が頭の中に突然響いた。
弾ける音にしては小さく、乾いた音。
「ねえ、晴歌」
朱音の呼びかけに、表情だけで答える。
「この間いってた名前だけど……」
あー、やっぱり。でもそれは私が言いたかったなぁ。
「いいよ、あれで」
なにかを待ってる顔だ。
「しししっ! 決定だね! 『スイッチ』で!!」
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