目的!!
「やっぱり!」
晴歌が教室の、今は割烹料理屋となった入口からひょこっと顔を出した。
「待っててよかった! よくここ見つけたね。偶然?」
やっぱり!
普通は「いた!」とかでしょ。
やっぱり、晴歌も一緒だ。
自分の音を持ってて、絶対の自信がある。
「ううん、案内してもらって。ここの生徒の先輩に」
「そうなんだ。んで、その人は?」
「自分のクラスに戻ったのかな? じゃ、また。って行っちゃった」
じゃ、またっ!!
あの人もそういった。
揺らぎのない、デフォルトな声で。
「ん? またっ、てどゆこと?」
「ん? ああ……そうだ!」
「なに!? どうした急に」
晴歌の驚いた顔を見て、自分の出した「そうだ」の声の大きさを自認した。
だから急いで、いまさら無駄だと分かっていても、自分の口を両手で塞ぐ格好をとった。
子供の頃はこれをよくした。
自分の声が好きで、自信があって、だからこの耳が教えてくれて。
「ねえ、今日どうしてここに来たんだっけ?」
「はあ? それは吹奏……あれ?」
「でしょ! そうでしょ! 別にそれじゃないでしょ!」
「ちょっと! 大きい! 大きいって、声!」
多分興奮してる、いま、私。
『確認』もしてる。
分かってはいる。間違ってないとも。
でも確認したい。
一緒なのかどうか。
聴けるだけ聴きたい。この耳に入れるだけ入れたい、自分の声を!
「行きたいとこあるの!」
「じゃ、そこ行こ!」
刹那に晴歌が答える。
「うん!」
「でも、その前にゴハン!」
一向に教室から顔下半分を出す気配のないことに気づく。
「もーう、わかったわよ!」
こんなになるまで嫌いだった音の世界……ん? だった?
「なにする? ここスゴイよ! 割烹って書いてあるだけあって和食だけなんだけど」
晴歌はどうなんだろう?
自分の歌っている歌を聴きながら登校してるくらいだから好きなはず。
自分の声に自信があって、そこには嘘がない。
だとしたら今の私は……。
嘘をつき続けてきたの? 自分に。
イヤーマフでの抵抗は、逃げていたの? 音から。
「私はコレ! 刺し身定食!」
「ぶっ! なにそれ? いいのそんなメニュー!? 学園祭で!」
「なにが?」
私は晴歌から奪うようにして、初めてこの店のメニューを確認した。
一番上にそれはあった。
太字で、割烹料理専門というだけあって明朝体で、一番大きく。
多分入口にあった看板を書いた人が書いたんだろう。
あまりの非常識さを微塵も感じることのない堂々とした、電光石火の達筆さで。
「そうだ! 私もここの生徒に会ったよ!」
「なにそれ、どういうこと?」
言いながら私はメニューの『刺し身定食』の文字から目を離せずにいた。
「雷だった」
聴いた瞬間顔を上げる。
晴歌の言葉があまりにもこの刺し身定食に当て嵌まっていたからだ。
「どんな人?」
つい、キツイ言い方と目線をくれてしまう。
「だから、雷!」
「だから!なにが?」
なにを言いたいのかが分かる。
だから、聞き返す必要はなかった。
急に目の前が真っ白になる。
「あ! あの声」
声だ。
雷の声。
ただ堂々と、瞬間に輝いて。
一瞬だった白い世界は今は晴れている。だから私はその音だけを見つめることができた。
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