雷!のち、風!!

「ここだ! ここしかない!! って、あ!!」

思いつきだけで走ってきてしまっていた。

「しまったー!」

かなりの音量で、私は独り言をぶちかました。


まわりにいる様々な制服姿の人たち、一般のお客さんたちが全員、私に視線を向けてしまっている。


「すいませんっ! なんでもありません! おさわがせしました!」

あまりの恥ずかしさに、顔を伏せるようにお辞儀をして、せっかく見つけたそこからまたしても、思いつきで適当に走りだしてしまった。


「あー、恥ずかし。って、どこだろ、ここ」

あたりを見回すと、学園祭中の校内が、ここまで似通ってしまうものなのかと生まれて初めて知った。

「もしかして迷子……これって……高校生にもなって……」


高校生。

そう。少しまえ、私は高校生になった。

朝、いつもの海で歌って、初めての登校日なのに遅れそうになって電車に駆け込んだ。

学校に着いて、自分がどこのクラスになったのかと確認した。

そして、そこにいた一人の女の子に出会った。

真っ白な快晴に吹く風に耳を傾けることなく、まるで世界と自分を遮断しようと、その両耳にはヘッドホンがはめられていた。


けれど、その姿を見て、一緒だと思った。


この子も世界を相手にしている。

自分があって、その対象に世界がある。

私の場合、世界に干渉する方法が『歌』だった。


「どうしよう……朱音おいてきちゃったし」

独り言で段々と落ち着けてきた。


自分の声の使い方を私は信じている。

だから、この子もきっと同じだと勝手に決めつけた。

私がしてしまってことが、良かったのか、そうじゃなかったのか。合っているのか、間違っているのか。その答えはまだ分からない。


「いたっ!」

「おーい!」


前から突然大声で、誰かに呼びかけるようにして、ここの生徒だろうか、二人の女の子が走ってきた。

このまま廊下のど真ん中でぼーっと突っ立っていたらジャマになってしまうと、私はその二人の進路から素早く自分の体をどかす。


「ごめんね!」

「ありがとうございます」


二人のこえが空気を心地よく揺らした。


「いえ」

そういった時にはすでに二人は私のことを横切ったあとだった。

だから私は、その届けることができなかった声の代わりに、目線を二人に向けるようにして振り返ることにした。


二人は、見つけた相手に詰め寄っていた。

焦っているのか、まくしたてるように話合っている。


「ん? あれって……」


話し合いが済んだのか。二人が、相手の女の子の手をほとんど無理やりに引いてこちらにもどってきた。


「やるわよーーー!」


その声は、さっき私のお礼をいって横切っていった声とは違った。

誰かな?

そう思って確認しようとした。

でもダメだった。


真っ白な視界。

眩んだ目にその姿は捉えられるはずがなかったから。


せめて、どこに行ったのか知りたくて耳を澄ませた。

けど、それも叶わなかった。


やるわよーーー!

その雷鳴のような大声に私の耳はその機能を麻痺させられてたから。


「すごい声だったなぁ!」

多分、この私の声は独り言では済まされなくなってるだろうな。

でもいい。

こうやって、思ったことを、感情そのままに声に出すのは私が一番得意なことだから。

もしかしたら、負けたくない。そんな感情も強く含んでたかもしれない。

でも、だからこそ、揺らした声帯が唯一いま私が感じられる音の感触ならば、なのさらのことだ。


眩んだ視界はすぐに晴れた。


「ここの生徒かなぁ? なんだろう。まるで雷みたい」


すると一瞬、ふっと風が私の横を通り過ぎた。

恐ろしく静かなその風は、どんな形にもなれてしまうような、そんな正体不明な余裕があった。


「なに……なんだったの……」


雷と風。


「しししっ! なにがなんだかだけど――すごいっ!」

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