騒音、雑音……整音。
裏門であーだこーだしてるうちに、私たちがクラス展を見て回り始めた時にはすでに時刻はもう少しで正午。
「お腹へった、なにか食べようよ~」
「なにかってなによ。さっきだって喫茶店やってたクラスあったじゃない」
晴歌が私の肩に寄りかかって、いかにもそうですという体勢でダラダラした音を出している。
「えぇ~、せっかくなんだからもっと変な、他には絶対ないようなとこがいい~」
「そんなとこあるの? 学園祭なんだから、そこはみんなベタなやつをやりたがるんじゃないの?」
「ちっちっち、その考えは古いよ、あかちゃん」
そうしてやった仕草、一度禁止だと注意した呼び方、私は気軽な殺意を込めて晴歌を睨む。
「ああー! うそうそっ! 探す、自分で探すから!」
さっきまでの演技をピタっとやめて、あっけらかんとして、颯爽と私の前に出て走り去っていった。
「ちょっと! どこいくのよ!」
「良さそうなとこ探してくるー!」
その音は最後まで私のところまで届いてこなかった。
やっぱり……きつい。
無造作な音は、毒だ。
晴歌の
でも、今は相当だ。
窓に反射して写る、青白い顔で、ユラユラと左右に体を揺らしてしまってるもの。
こうやって認識して、他人の体のようだとでも思わなければやってられない。
血管が萎縮して、視界が揺らぐ。
量も多い。
最近はこの格好を晴歌に見られたくなくてしなくなった。
だからといって、それを常備している私はなんなんだろう……。
嘘をついてしまっているのだろうか、晴歌に、自分に。
ねえ、みて。あの子。
あんなとこに突っ立って、ジャマだな。
こえかけたほうがいいかな
ヘンなやつ。
私の体が、勝手に、そこに手を伸ばしていく。
「あなた、どうかしたの?」
その声は頭上からだった。
私は廊下の天井を見上げる。
「どこ見てるの? こっち」
変だと思って、少ししてから振り返る。
「見ない制服ね。ひとりで来たの?」
「いえ……友達と」
その声が自分のものだと気づくのに少し時間がかかった。
「はぐれたの?」
「いえ……その……どっか行っちゃって」
ちらっとだけその声の持ち主に悟られないように表情を盗み見る。
「!」
見開いた目、ポカンと大きく開けた口。
驚いているようで、でも、半分は違った感じ。
「ぶっ!!」
「え?」
「あははっ! なにそれ! それじゃまるで」
そこまで言いかけて、突然表情を真顔に変える。
「……あの」
「ああ、ごめんなさい。私ここの生徒なの、だから、もしあなたがそのどっかに行っちゃった友達が行きそうな場所に見当がつくのならそこまで案内するけれど」
「いえ、そこまでしていただくには」
「……丁寧ね」
「え?」
「あなたの言葉遣い。丁寧というか、慎重に言葉を選んでるって感じね」
「別に……そんなことは」
「なにかないの? 思い当たる場所とか」
「……お腹減ってるってダレてたから、多分食事ができるようなクラス展だと思います」
「それならここまで来る間にだっていくつかあったでしょ?」
「はい。でも晴歌、あ、友達のことですけど、学園祭なんだから普通じゃない、変な店があるだろうってゴネて……」
「ぷぷぷっ!」
「あの、私さっきから変なこと言ってますか?」
「ううん、ちがうの。ごめんね。あまりにも似てて、私の…友達に」
私の…その後の一瞬の間で、くだけた笑顔だったのが、優しい、ほころんだ、ちゃんとした表情に変わった。
「あるわよ。ひとつだけ当てはまるとこ。行ってみる?」
「はい。お願いします」
「じゃ、ついてきて」といわれ、私はこの人の後を黙ってついていく。
そうしているうちに、あることに気づいた。
消えてる。
この人の声以外の音がすべて。
階段を上がっていくにつれて体の調子が良くなっていく。
「あ、まだ言ってなかったわね。この高校の二年で、
「あ、雨宮朱音です」
振り返りながらいったその人の名前が、あまりにもそのままなことに、私は吹き出しそうになってしまった。
「良くなったみたいね、気分」
気分。
晴歌とは違った方法で、私を大丈夫なようにしてくれたその
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