それなら……他力本願。

私たちの近所の高校のほとんどは、文化の日、つまり10月あたりに催されるところが多く、私なりに調べたところによると、学園祭と音楽が強く結びつくような学校は皆無で、そのほとんどが運動部の招待試合や、文化部であればそこは芸術系な、写真展や絵画展が主体なところばかりだった。


「芸術って感じじゃないしね、音楽は!」

「いや、普通に考えたらそっちの類でしょ」

言っておいて私も晴歌の意見には頭の中では大きく頷いていた。


「……」

「なに?」

「最近気づいたんだけど」

「だから、なに!?」

らしくないもったいぶった物言いに苛立つ。

「怒りっぽいよね、朱音」

「そんなわけないでしょ」

「ええー! そうだってー!」

「そうじゃないでしょ? 最初に言いたかったことって」


どうしていっつもバレるんだろう?

ちょっとだけ怖い。

朱音って、本当に音をよく聴く。


「しししっ! まあねぇ」

「ごまかすな。何だったの? 気づいたことって?」

こういった、妙に細かいところはかわいい!

「嘘下手だなって思って!」

「はあ!? 言っとくけど私嘘ついたことなんてないわよ!」

「ほらー! いまだってぇ!」


こいつと初めて会って、もう二ヶ月が過ぎようとしていた。

あれ? もう……って。


「で、どうすんの? 下調べできないじゃない、これじゃ」

「ねー、どうしよっかー」

能天気という言葉はそのまま晴歌のためにあるようなものだとしか思えない。


あれから。

ゲリラライブを自分から提案してしまったこともあって私なりに考えたのだが、あまりものその見切り発車ぶりに、あとになってみてただ頭を抱えるしかなかった。

その結果、かろうじて浮かんだのが、逃げの一手。他力本願だった。

けれど、どうしても納得できなくて、うっかり『他力本願』という意味を検索していた。

それが仏教用語であり、常用の他力本願とは比喩表現らしく、本当の意味としては、他力という部分が人ではなく、仏の慈悲を当てにして、それを受け入れる姿勢のことをいうらしかった。

なので、私はここぞとばかりに、「ああ、そんなだったらまあいっか」的なノリで、絶対にそんなとこまで調べないであろう晴歌に、ある提案をした。


「他校の学園祭のライブ観てみよう」と。


けれどそれには遠出する必要があった。

「あ! ここは? なんか前夜祭でプロのバンドが来るんだって!」

「プロ? ふーん」

「あれ? 興味ない」

「だってプロってごまんといるでしょ。そんなの聴いたところで私たちには意味ないでしょ」

「まぁねー。でも、そのくらいこの高校は音楽に力を入れてるってことじゃない? なんてったって吹奏楽が全国大会常連の強豪校らしいし」

「そういうもんかねぇ。まあいいや、そこ行ってみる?」

「うんっ! よっしゃ! けってーーい!!」

そういうと同時に、晴歌はなぜかガッツポーズを決めた。


よくよく考えてみたら、この決定にはなんの根拠も確信もなかった。

晴歌がなんでかこの高校をみつけ、私はプロというワードに惹かれず、ただなんとなく行くと決めたのか……。

偶然?

予感?

期待?

どれにも当て嵌まっているようでそうでないような……。


「いつなの? そこの学園祭」

「ええっとねぇ……今週――今週だ!?」

「んじゃ、日曜。行ってみますか」


ただ、ドキドキしていた。ワクワクともいう。


学園祭に行くということよりも、他の何かに対して。

強いて理由を挙げるのなら、それだけだった。

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