2-3※: カノジョの部屋にて


 ――デケぇ。何だこれ、マジでデケえ。


 二階堂邸を見た俺の感想がコレだ。


 まさに『邸』を付けるのが的確だろう。二階堂さん家ではなくて、二階堂邸。それ以外にはあり得ない。それくらいの規模感。下世話な言い方になるが、きっと儲かっているお仕事をしているのだろうなと確信するレベルの邸宅だった。


「どうぞ」


「……どうも」


 ガチャリとかいう玄関扉の開く音すら高級感がある。佇まいからして如何にも高いドアだぞ然としていて、一般庶民からしてみれば非日常だった。


 ――広っ、と思わず口から漏れそうになる。下世話すぎるので精神ポイントをこれでもかと消費することで持ちこたえる。この時点でほとんどスッカラカンだ。果たしてこの後、俺は快感に耐えられるのだろうか。前回よりは耐えなければオトコが廃るというモノだが。


 しかし、俺がそんなしょうもないことを考えている間にも、二階堂は早々に靴を脱いで此方を見ている。


「洗面所とかはこっちだから」


「……えっ、っとー?」


 これは……?


「手とか洗うなら、ってことだけど」


「あっ」


 ――これは、恥ずかしいヤツ。俺の恥ずかしい勘違いというヤツ。


「……別に良いけど? 深沢くんが先にシたいなら」


 察しの良すぎる二階堂――ということではない。洗面所、脱衣所、風呂場とかいう勝手なひとり連想ゲームで俺のアレがのを、二階堂がしっかりと見つけただけの話だ。




    ○




 今回は淡い水色の下着だった。前回よりも装飾はシンプル。


「その……脱がしてもイイっすか」


「じゃあ、ハイ」


「……はい」


 自分がまるで音声認識で動くロボットのようだと思ってしまう。


 シャワーを浴びさせてもらい二階堂の自室へと移動する際に、バックハグをして胸を揉ませてほしい――的なことをやんわりと告げたが、無表情のままに承諾された。せっかくなので二階堂の服を脱がさせたいということも調子に乗って言ってみたが、これも呆気なく快諾される。


 その結果がコレ。


 ブラもイマイチすんなりと外せなかったので、結局大抵の動作を二階堂の介助込みでやるという情けなさ。今回もやっぱり前回と同じで、二階堂のおんぶに抱っことなるのだろうかとちょっとだけゲンナリはするが、哀しいことに俺のは元気なままだった。


「し、鎮まれ俺の右手」


「左手もじゃない?」


「……ハイ」


 緊張で手先の神経にまで血が通っていない感じがしている。まだ皮膚にすら触れていないのにこのザマだ。こんな状態なのに、マジでよく勃起したままで居られるな俺。


「2回目でしょ」


「だからだよ」


「同じ相手でしょ」


「……だからだよ」


「……ふぅん」


 何を言ってるんだ――みたいな反応をされる。


 それはこっちの反応だ。二階堂だから、なんだよ。たぶん。


「……ぉ」


 肩越しに見るのは初めてだが、やはり大きい方だと思う。


 でも、ほわんと柔らかいのにハリがある感じ。


 気持ちいい。――俺は、触っていて気持ち良さを覚える。


 二階堂はどうかと言えば、恐らくそうではないのだろうけど。


 あくまでも俺が言ったからヤらせているだけ。オマケにもなりやしない無駄な時間なのだろう。


 俺の自己満足時間をこれ以上長くしても仕方が無い。この後にやるべきことは残っているのだから。


「……ありがと」


「ん」


 礼を言えば直ぐさま二階堂は俺から離れていき、予めタオルも敷いていたベッドへと横たわる。汚れても対処が楽だからということで、引き出物とかで余っていた大きめのタオルを彼女は持って来ていた。


「じゃあ、今度は……」


「別に私は良いんだけど」


 俺が二階堂の秘所へと顔を寄せれば、案の定の反応が返ってきた。もちろんこちらも少し押させてもらう。


「俺がシたいだけ」


「そ」


 俺がシたいと言えばヤらせてくれる。それは単純に性行為全般の話でもあるし、先ほどの愛撫みたいにひとつひとつのプレイであってもそうだ。ただ、それは――どういう感情からなのだろうか。どうしてもこの疑問が湧いてきてしまう。


 何も考えないヤツなら、何でもかんでもヤらせてしまうのだろうか。


 俺もその程度にまで考えることを放棄してしまえば良いのだろうか。


 もちろん、そんなことはしたくなかった。


「……」


 指でほんの少しだけ押し広げて、その桃色の領域を静かに舐めてみる。大袈裟に啜ったりしているのはそういうモノで見聞きしたことはあるが、何か違う気がするのでやらなかった。


 甘やかな果実が少しだけ熟れてきたような気はするが――。


「……ん」


 一瞬だけ視界に入れた二階堂は、やはりというか、ほぼ無表情。


 でも別に構わない。俺の判断基準は彼女の顔色ではない。


「もう、良いけど」


「……」


 言うと思った。だから無視。二階堂も即諦めてくれたようなので引き続き。


 ローションでもあるならそれでも良いかもしれないが、今俺の手元にそんなモノはない。だったら、天然のモノでしっかりと濡れてもらうしかない。そうなれば、彼女の秘部に訊ねるしかないのだ。


「……ええっと」


「ハイ、どーぞ」


「…………いただきます」


 その言い回しがイマイチ正しくないことは分かっているが、出てきてしまったのだから仕方ない。彼女が俺を受け入れてくれるというのだから、甘んじてそれを受け入れる他あるまい。


「……っ」


「……」


 薄膜コンドームを仲介した粘膜の擦れ合う音と、少し荒くなった俺の呼吸音だけが、二階堂の部屋に広がっていく。きっとそれがこの部屋に染まりきることは、無いのかもしれないけれど。


 ただ、それでも――と期待してしまうのは、俺が童貞を脱し切れていないだけなのだろうか。


「ゆっくりだね」


「……そうね」


 きっとバレている。


 この後やるべきことがあるというのに、俺はこの時間を、この感触を、少しでも長く味わっていたいと思っている。


「がんばってる」


「ありがと」


「前回よりは」


「そうな」


「変な顔してるけど」


「うそ」


「我慢してるんだな、って」


 完全にバレていた。


 まぁ、前回のこすはんとかいうレベルにもなってなかったのと比べれば、幾分かはマシなのかもしれないけど。


「……その、恥ずいから、体勢変えさせてもらって良いっすか」


「どうぞ」


 見られて恥ずかしい顔はしてないと思いたいが、見られて恥ずかしい表情はやっぱり見られたくはない。素直に白状して背中越しに二階堂を抱きしめさせてもらうような恰好になる。――もちろんしっかりとは抱かない。さすがに。


「前にも言ったでしょ。シたかったらいつでも連絡しなよ、って」


「……まぁ、そうだけどもさ」


 誰しも見栄を張りたいときっていうのはある。それに――。


「俺だけまた早く終わるのは、何か、……ヤだし」


「ワガママ」


「意地です」


「そ」


 二階堂にしてみれば、その区別は存在しないようなモンだろうけど。


 俺だけヤらせてもらっている感じを少しでも無くしたいと思うことは、たぶん当然のことだと思うのだ。


 もちろん二階堂はそれすらも必要ないと言うのだろうし、今は意地の張り合いみたいなところはあるかもしれないが。


 それでも、してもらったことに対して、何かを返したくなるのはきっと当然だろう。


 二階堂菜那という女の子には、とくに。


 今はわずかなお釣りのようなモノしか上げられていないと思うけれど、いつかは――なんてことは少なからず感じるのだ。


「……っ」


 俺が堪えられるのも限界が近い。


 前回よりは、前回よりは――と初体験をいつまでも基準値にはしたくないので、今後はコレが新しいボーダーラインになる。あんまり変わらないだろ言われれば首を縦に振るしかないが、それでも少しだけ成長はした気がする。


「……ぅっ、くっ」


 不意に腕に力が入ってしまい、彼女の身体をぐっと抱き寄せるような恰好になる。


「…………っ」


 一瞬の、重だるい多幸感。


 少なくとも、独りのときには感じてはいない感覚。


 そして、それを直ぐさま涼やかな申し訳なさが上塗りしていく。


「出た……?」


「……ぅん」


 思わずそのまま倒れ込みそうになる。もちろん両腕でしっかりと留まる。


「…………ぁりがと」


「ん」


 ゴメン――と口を突いて出て行きそうになった言葉もついでに押しとどめて、俺は二階堂から離れた。



 

 

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