第46話 時を超えた筆談

「おしゃぶりさんは、日本のどこにお住まいでしたか?」



 ――カキカキ。



「東京ご出身でしたか、私と同じですね。私は2088年の東京から来ました!」



 おお、かなり未来から来たんだ。

 未来の日本ってどうなっているんだろう。

 やばい、また気になってきた……アニメとか、ゲームとか、推しとか諸々気になるよね……。

 けど、いきなりそんなこと聞いたら、引かれるし。

 よし、ここは無難に私も年代を書くか。



 ――カキカキ。



「あ、そうなんですね! 2025年の東京からですか! では、お名前を伺っても宜しいですか?」



 な、名前! 確かにまずは名前だよね!



 ――カキカキ。



 シャルル王女は、私の名前を目にした瞬間、机に置かれた紙と私を交互に見つめた。


「えっ!? 加藤和世さんと仰るのですか?!」


 なんだろう? そんなに珍しい名前なのかな?

 隣に立っているコンラッドさんとも、顔を見合わせているよー。


 いや、違うか……古臭い系かな?


 てか、「祖母と同じ名前ですー!」的な流れだよね。


 うんうん。


 ん? でも、なんでコンラッドさんが、驚くの?

 日本の名前なんて知らないでしょうよ。


 えーっと、珍しかったですか? っと。



 ――カキカキ。



「わわっ、すみません! 私のお知り合いにもですね。加藤和世さんという方がいらっしゃいまして、少し驚いてしまいました」


 ほーらー、やっぱりこのパターンだよー。

 まぁ? おばあちゃん世代には人気あったっぽいもんね! おばあちゃんとおじいちゃん曰く。


 大きな声を出したのが恥ずかしいのか、王女様は顔を赤らめている。その隣にいるコンラッドさんも、バツの悪そうな表情をしている。


 コンラッドさんに関しては、きっと私が女子だったってことを知って申し訳ない気持ちにでもなったのかも。


 こういう紳士っぽいイケメンは、そういうところを気にするのがテンプレだもんね。


 まぁ、私を女子だって認識しているかわからないけど。


 えーっと、次は名前の由来でも書くかー。



 ――カキカキ。



「えっ!? お婆様のお友達のお友達から頂いた名前なのですか?! 本当に不思議なお話ですね。私のお知り合いの方も全く同じことを話しておりました」


 ん? そんなことってあるのかな?

 いやー、まさか……ね。


 けど、聞いてみる価値はあるかも。

 私は核心へ迫ることにした。



 ――カキカキ。



「はい! 私の名前は鈴木留実です」


 私は耳を疑った。

 その名前は私の大好きな親友の名前。

 もう聞くことはないと思っていた忘れもしない名前だ。


《えっ――?》


 驚きのあまり、自然と声が出る。


 気が付いたら、再び万能触手ちゃんでペンを握り、ペンを走らせていた。



 ――カキカキ。



「よくご存知ですね! 兄と弟もいますし、○○高校出身ですし、○○大学では音楽サークルに入っていましたよ」


 いや……いやいや! これだけじゃ確信を持てないでしょうよ。


 だって、しかも、私が生きていた時代の八十年後の日本から来た上、日本には1億人以上人がいるんだから。


 そんなことを思いながらも、私は無心でペンを走らせていた。淡い期待を抱いて。



 ――カキカキ。



「はい、そのお知り合いの方は、私の生涯で一番の親友です!」



 ――カキカキ……ポタ、ポタ。



 私を伝った涙のようなものは、書き殴られた文字を滲ませていく。


 あれ、涙が……私、おしゃぶりなのに……。


「和世さん、どうかされたのですか?」


 王女様は優しく声を掛けてきた。

 私はその顔を見つめる。


 すると、何故だろう。

 金髪碧眼の整った顔に、懐かしい顔が重なって見えた。

 何度も目にした、大好きなズッ友の親友。

 どんな時も、傍にいた大切な存在。



 ――カキカキ……。



 私は書いた、全てを。

 間違っていてもいい。勘違いでもいい。

 けど、書かずには入れなかった。


 私の思いの丈を、会いたかったという気持ちを。


 ルーミーとの思い出が支えになっていたということを。


「えっ――かずっちなの? な、なんで? どうして……もう何十年も前のことなのに……」


 王女様の言葉遣いが、聞き慣れた言葉遣いに変わる。そして、隣にいるコンラッドさんへ涙を流しながら何かを話している。


 この部屋に王女様だけではなく、コンラッドさんがいるということで、何となく察してはいたけど。


 王女様は、いや、ルーミーはこの人に全てを話せているようだ。


 さみしい気持ち、羨ましい気持ち、推しと激似が相手っていうのには複雑な気持ちある。

 けど、幸せな気持ちがおしゃぶりわたし満たすのを感じた。


 心友の幸せな姿を見られてよかった。




 ☆☆☆




 その後。


 私たちは、語り合った。


 私が亡くなったあとのことを。


 お母さんとお父さん、おばあちゃんにおじいちゃんが棺に三日三晩泣きついて離れなかったこと。


 葬儀には、たくさんの陳列者がいたこと。


 加藤家の皆はちゃんと立ち上がり、ルーミーのことを娘のように可愛がってくれたということ。


 最後まで、笑顔咲かせていた最高の家族だったということ。


【負けるな踏ん張り続けろ!】通称【マケフリ】の最終話の話や、現金が無くなり電子マネーとなったこと。


 仕事が大変だったこと。


 変な男に言い寄られることが多かったこと。


 ルーミーに旦那さんや、子供さん、お孫さんができたこと。


 幸せな生涯を送れたことを。


 異世界でのイチャラブ人生も。


 一緒に共有できなかったことを全て、パズルを埋め合わせるかのように。

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