王女視点
第47話 時を超えた再会
王宮内、自室。
私は今、おしゃぶりさんと筆談をしている。
とはいっても、私は日本語で話しおしゃぶりさんは触手を器用に使って筆談といった感じだ。
そうなんです。
まさかの意気投合してしまったのです。
種族が物であるに加えて、精霊獣を従えている摩訶不思議おしゃぶりさんと。
コンラッド様の見立て通り、同郷の方、日本人だったので会話に花が咲いてしまいまして。
気が付けば、自室に連れ込んでしまいました。
ただ、コンラッド様と話し合った結果、父である国王にはおしゃぶりさんのことを報告してはいません。
とはいえ、その異常過ぎるステータスとスキル数はそれだけで、十分な脅威となり得る。
なので、念の為に厳重警戒態勢は敷いてはいます。
扉の前には、ガイアス様。私の隣にはコンラッド様。
王宮内にも、その動向を逐一確認できる索敵特化の団員を配置し、王宮外には攻撃魔法スキルに特化した団員の方々がもしもに備えて配置されているといった感じに。
そして、王国のルールに則り、みーとんちゃんを王宮内では出現させないことを約束してもらった。
不自由を強いるようで、おしゃぶりさんには、大変申し訳ないのだけれど。
こうでもしないと、依然としてエンペラーゴウルの絵柄が描かれたおしゃぶりを不審がっているガイアス様を納得させられないからだ。
もしかすると、私がおしゃぶりさんのことを精霊獣の宿るおしゃぶりと無理やりこじつけたのにも、原因があるのかも知れませんが……。
「もし、急に精霊獣が出てきたらどうするんだ?!」と、真剣な顔でコンラッド様に食ってかかるガイアス様の顔が浮かんだ。
ガイアス様、心配をかける説明になってしまいすみません。
この埋め合わせはいつか致しますので。
えーっと、まずは住まいですよね……。
「おしゃぶりさんは、日本のどこにお住まいでしたか?」
――カキカキ。
「東京ご出身でしたか、私と同じですね。私は2088年の東京から来ました!」
――カキカキ。
「あ、そうなんですね! 2025年の東京からですか! では、お名前を伺っても宜しいですか?」
私は、書き出された名前を目にした瞬間、自然と言葉を発していた。
「えっ!? 加藤和世さんと仰るのですか?!」
――カキカキ。
「わわっ、すみません! 私のお知り合いにもですね。加藤和世さんという方がいらっしゃいまして、少し驚いてしまいました」
まさか、この異世界でかずっちの名前を目にすることが来るなんて……偶然でも嬉しいですね。
――カキカキ。
「えっ!? お婆様のお友達のお友達から頂いた名前なのですか?! 本当に不思議なお話ですね。私のお知り合いの方も全く同じことを話しておりました」
まさかのエピソードまで、一緒なのですか……もしかしたら……いえ、そんなことはありえませんよね。
――カキカキ。
「はい! 私の名前は鈴木留実です」
私は目を疑った。
その名前は、前世の名前。
もう目にすることはないと思っていた懐かしい名前だ。
私が返事をすると、おしゃぶりさんは物凄い勢いで次から次へと質問を投げ掛けてきた。
兄や弟の名前、出身校に、大学時代に入っていたサークル。かずっちしか知り得ないエピソードの数々を。
――カキカキ。
そして、聞いてきた。
その知り合いの方は、鈴木留実にとってなんですか? と。
私は笑顔で答えた。
「はい、そのお知り合いの方は、私の生涯で一番の親友です!」と。
すると、おしゃぶりさんから、涙のようなものが流れて紙を濡らしインクを滲ませていく。
私はその姿に何故か親友かずっちの姿が重ねて見えた気がした。
だから、名前を呼んでみた。
「和世さん、どうかされたのですか?」
――カキカキ。
おしゃぶりさんは、その呼びかけに体全体を震わせながら、ペンを走らせる。
「えっ――かずっちなの? な、なんで? どうして……もう何十年も前のことなのに……」
私は自然と昔の口調に戻っていた。
「コンラッド様……彼女が、私の親友です……こんな奇跡が……起こるなんて……信じられない」
「うん、僕も途中から何となくだけど、聞き取れていたよ……良かったね。シャル……」
「はい!」
私はコンラッド様に抱きついた。
☆☆☆
その後。
私たちは、語り合った。
かずっちが亡くなったあとのことを。
彼女の葬儀では、お母さんとお父さん、おばあちゃんにおじいちゃんが棺に三日三晩泣きついて離れなかったこと。
葬儀には、たくさんの陳列者がいたこと。
加藤家の皆さんはちゃんと立ち上がり、私のことを娘のように可愛がってくれたということ。
最後まで、笑顔咲かせていた最高の家族だったということ。
【負けるな踏ん張り続けろ!】通称【マケフリ】の最終話の話や、現金が無くなり電子マネーとなったこと。
仕事が大変だったこと。
変な男に言い寄られることが多かったこと。
私に旦那さんや、子供、孫ができたこと。
幸せな生涯を送れたことを。
異世界での日々も。
一緒に共有できなかったことを全て、パズルを埋め合わせるかのように。
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