第34話 ゲキカワみーとんと推し現る

 私は美豚がいた場所を見る。


「ぷひぃ!」


 そこには、産毛が生えた2本の足でしっかり立つ、小さな豚さんがいた。


 いうなれば、3匹の子豚さんの三男だ。


 子豚さんは、蹄で挨拶をするような仕草をしている。


《美豚……?》


《ぷひぃ! みーとんですぷひぃ》


 はわわっ、なんじゃそれむっちゃ可愛い!

 声もやばい……天使ですか?! いや、天使ですよね!



 抱きつきたい、抱き締めたい、吸いたい!



 ――ニュル。



 私の考えに応じるように万能触手ちゃんが、美豚改めて、みーとんへと伸びていき、なでなでやむにむになど、願望の限りを尽くす。


「ぷひひー、くすぐったいぷひぃ!」


 はあぁぁん、悶絶級の尊さぁぁぁー!


 人間ってゲンキンダヨネー、可愛くなったちゃえば、大体のことはおっけーになるんだから。


 うんうん。


 にしても、スキル【寄生】の謎が深まったかも。


 いや、そもそももう疑問だらけだから、どうでもよくなっている部分もある。


 けど、今になって思った。


 スキル【鑑定】選んでおけばよかったのではないかと……。


 い、いや! でーも、ほら! もし選んでたらこういう未知の? 刺激的な? おしゃぶり探検隊はできていなかったわけだし……ね。


 ね?


 私が岩の上でウネウネし、過去の自分の選択を悔いていると、みーとんが温泉から上がり、犬のようにふるふると体についた水分を飛ばしてテクテク歩いてきた。


「あるじさん、あるじさん、なんかきましたぷひぃ」


《えっ!?》


 私は蹄で指された方向に視線を向ける。


 なんと! その先には、加琉羅ルイと瓜二つのイケメソ……いや、イケてるマジモン! イケマジの加琉羅ルイ君が立っていた。


 しかも、異世界ふう騎士というマシマシのマシというコスで。


 あー、とうとうだー。

 精神的な疲れがピーク過ぎて、幻想が見えているんだー。

 はぁー、おしゃぶりだからって言っても、所詮は元人間……精神の方にガタが来ちゃったようです。


 皆、今まで本当にありがとう。


 おやすみなさい。


 って、死んでられるかぁぁぁーい!


 夢でもええやん! 推しとの再会やぞ!

 しっかりせい! ○○先生も諦めたらここで試合終了って言ってたやん!


 立ち上がれ和世! 全てはDon't Think.Feelだ!


 私は背筋をピンとする。


 そして、イケマジ加琉羅ルイ君の元へと近づいていった。


 が、忘れていたのだ。


 今の自分の姿を。




 ☆☆☆




「〇×△□!?」


 距離にして、10メートル前後。


 加琉羅ルイ、いや、加琉羅ルイ君(仮)は目を丸くし私とみーとんを交互に視線を移し動きを止めていた。


 いやー、そりゃそうですよねー!


 神目線で見たら、もう全部怖いもん。


 てか、当然ながら何を言っているのか、全く聞き取れないわー。


 英語? でもないし、フランス語でもない。


 もちろん、日本語でもない。


 なんかよくわからない感じかも。


《あるじさんは、こわくありませんよ?》


 うん、天使だね……みーとんは。

 異世界ゆるキャラグランプリが開催されたら、間違いなくナンバーワンだよ!


 って、今気付いたんだけどさ……この会話って言葉を発してないよね? どうやっているの?


《ぷひぃ! これはぼくがあるじさんのつかいまだからですぷひぃ!》


 そうなんだー、じゃああれかな? 新しいスキルを取得した影響ってこと?


《ぷひぃ……みーとんには、そのへんわからないぷひぃ……》


 みーとんは申し訳なさそうに頭を垂れる。


 はわぁ……ごめんよー。

 ちょっと早口で圧を感じてしまったよね。


《ぷひぃ! だいじょうぶですぷひぃ!》


 うん、やっぱり可愛い……。


 じゃなくて!


 加琉羅ルイ君(仮)の動きが止まっている間に、自分の状態を確認しないとだよね。


 なんか現状を解決できるスキルとかないかなー?


《ステータスオープン》


【個体名】おしゃぶり(転生者) 『エンペラーゴウル吸収』

【種族】物

【レベル】20

【体力】2500/2500【魔力】3950/3950

【攻撃】2800【防御】2850

【敏捷性】2600【知力】1950

【健康状態】火傷

【空腹状態】普通

【スキル】寄生レベル10  継承レベル10

     捕食レベル10  酸攻撃レベル10

     氷魔法レベル1  料理レベル10 

     威圧レベル8   索敵レベル10

     格闘術レベル6  仲間呼びレベル5

     斧術レベル10 風魔法レベル5  土魔法レベル5

     吸収レベル2  炎魔法レベル5

     風魔法レベル5 土魔法レベル5

    魔物使いレベル5 精霊獣使いレベル1(炎)

    


 尻神様って、エンペラーゴウルって名前だったんだ。

 へぇー、強そうー。

 

 ふと、私は自分の体に目を向ける。


 うんうん、くまさんマークから、オークになって、今は尻神様ですねー。


 そして、もう一度ステータス画面に目を向けた。


 スキル【吸収】のレベルも上がっているー。

 そうだ、使ったしねー。


 あ、なるほどー。

 スキル【吸収】って、一体吸収したら一体出ていく感じなんだー。


 へぇー、知らなかったー。


 スキル【精霊獣使い】ってスキルもあるんだねー。ふーん、すごーい。


 って、いや! 待て待て! 意味がわからん。もうなんか色んな数値が上昇しているし、スキルレベルも上がっているし、350で高いって言われてたステータスの平均値が……2500オーバー……だし。


 えっ、あれ? 私ってバケモノ……じゃね?


 しかも、レベル20でこれってさ……。


 私が、ステータス画面を見て頭を抱えていると、みーとんの声が頭の中に響いた。


《あるじさん、まただれかがこられましたぷひぃ》


《えっ!? また誰か来たの?》


 私は加琉羅ルイ君(仮)の方へと視線を向ける。


 すると、その後ろから、青いマントに白銀の鎧、腰にはサーベルを携えた騎士のような格好をした人が2人と女の子が1人現れた。


 しかも、全員顔面の作画がいい。


 これは……やっぱり夢……?


 またまた、私が正気を失いかけている中、加琉羅ルイ君(仮)とそこに来た女の子が親しげに会話を始めた。


《はっ! 彼女持ち……うん……なんというか、お似合いのカップルやないかい》


 腹は立つけど、お相手の女の子は加琉羅ルイ君(仮)の銀髪で端正な顔立ちに負けないくらいの外見をしている。


 空のように蒼く大きな瞳、風が吹く度になびくキューティクル百点満点な金髪、そして、ルーミーにも引けを取らないグッジョブバディ……。


 その上、肩にオッドアイの小さな猫を乗せている。


 うむ、こちらもマシマシかー。実にけしからん!


《あるじさん、どうするぷひぃ?》


 うん、どうしようかー。


 逃げるって言うのが一番いいと思うんだけど、推しを眺めていたい気もする。


 だって、もう会えないと思ってたんだもん。


 うん、仲良くなりたい。


 けど、絶対警戒されているよね……まぁ、当然なんだけど。


 やっぱ逃げる?


《ぷひー、みーとんにいいかんがえがあるぷひぃ》


 ほ、ほんとに!?


《ぷひぃ!》


 私は目の前にいる可愛いの化身、私の初めての使い魔へ任せることにした。


 みーとんは、自信満々で一歩、一歩、歩みを進める。


 そして、あの集団の前に着いた。

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