第33話 テイム? 進化?! ってなんか違くね?

 えーっと……もしかしてやっちゃいましたか?


 温泉には、規制が掛かりそう内臓なんかが色々と出始め、乳白色から赤色へと染まっていく。


 ま、まだ生きていますよね!?


 さすがに一撃はないですって! だって、ただのパンチだよ? というか、パンチにすらなってないし。


 そりゃ、めいっぱい力は溜めましたよ?


 けど、そんな……まさか……ね?


 私は岩の上から万能触手ちゃんを伸ばし、湯船をぷかぷかと漂っている尻神様を揺らす。


《おーい! 起きましょうよー! そんな死んだフリなんてダサいですよー!》


 けど、なんの反応を見せない。


 それどころか、揺らす度に湯船でぷかぷか浮いている内臓から、消化しきれていない、かつて生物だったものたちが漏れ出す。


 ぬるっとした体液とおびただしい量の血液と共に。


 あー……やってしまったのかー。


 どうしよう……これ。


 揺らしたことで温泉だった場所は、尚更悲惨な状況となっていた。


 少年少女誌に掲載できないほどに。


 はわわ……ごめんなさい。


 私は意味のない殺生は良くないとか言いながらも、オークと尻神様を殺めてしまい、温泉を守るどころか、自分が温泉を使用不可状態にしてしまったのだ。


 けど、私は思い出す。


 新しく取得したスキルの存在を。


 そういえば、新しいスキルを使えばどうにかなるんじゃない?


【吸収】だっけ?


 もう一度、使ってみる?


『《【スキル 寄生レベル10】の範囲内に瀕死状態の外敵を確認。発動条件達成。【スキル 吸収レベル1】》発動可能です。発動しますか?』


 やっぱり、私の意思は関係してた系かー。


 うーん、スキル【吸収】使おっかなー。


 火の玉をあれだけ撃てるのは捨てがたいし、これをきっかけに、未だに使うことのできていないスキル【氷魔法】も使えるようになるかもしれない。



 ――私は、今後のことも考えてスキル【吸収】を使うことを決めた。



《発動する!》



 4本の万能触手ちゃんが、ぷかぷかと漂う尻神様へと伸びていく。


 そして、触れた瞬間。


 いつもの現象が起きた。


 太陽のように光り輝く謎現象だ。


 けど、今回はなぜか意識が遠のいていく。



 ――あ、れ……? 力が抜けて……眠い。



 ――遠のいていく意識の中、あかりんの声が頭の中に響いた。



『《【スキル 継承レベル10】発動条件達成しています。発動しますか?》』



 ――は、発動……す……る。



 そこから、私の意識が途絶えた。




 ☆☆☆




 私は湯船に浮いていた。


 一体、どのくらいこの状態だったんだろうか?


 わからない。


「プヒィ! オキタプヒィ」


 うん?


 私は声のする方へと視線をやる。


 そこには、優しそうで可愛い豚さんがいた。


 いや、豚ではない。


 手はあるし、脂肪はあれどゴツゴツしたいい体格をしている。言うなれば、力士のような体つきだ。


 その後ろには、尻神様の仲間たっだ魔物だろうか? 状況からして豚ではない、オークとも言い切れない存在が倒したのだろう。


 尻神様に似た魔物が丸焦げなっており、数十体ほど積み上げられている。


 うん、リアル猿山だ。


 私は、もう一度空を見上げる。


「プギィ! ムシシナイデ、プヒ! ボク、オークダプヒィ ゴシュジンノタメニ、ホノオマホウツカッテ、アイツラヤッツケタプヒィ」


 うん……私の為とか言っている健気で可愛い声が聞こえる。


 うむ……素直に嬉しい。


 って、えぇ!?


 そんなアホなことがありますか?


「プギィ、ボクハ、イッショニイタオークデス。プヒィ」


 へぇー、会話もできるんだー。

 あらやだー、すごーい、便利ー、素敵ー。


 ……いや! わからん! もう全部わからん!


 どうしてか、出しっぱなしとなっていた万能触手ちゃんをバタつかせる。



 ――バシャバシャ、バシャバシャ!



 あははー、うふふー、きゃははー!


 って……無理だわー、全然気が紛れない。


 私は4本の万能触手ちゃんで水面を蹴り、温泉を囲む岩に着地した。


 まさかできるとは思ってなかったけど。


 そして、姿勢を正して目の前で温泉に浸かりながらも、文字通り全裸正座待機している純真無垢な存在となった綺麗なオーク? に声を掛けた。


《どどどどうも……えーっと、わた、わたたたたしは――》


 あー、くっそー! またかー。

 こういうときに限って緊張するんじゃない! これじゃ○○の拳じゃないかー。


 まぁ、でも仕方ないよねー。


 もう独り言くせになっているし……そもそも、なんだかんだいって、異世界に来てから、【お一人様のお気楽異世界LIFE】をかれこれ一ヶ月くらいは満喫してきたんだし。


 そら、人見知り拗らせて、魔物相手にでも○○神拳みたいになりますって!


 いや、まぁ気楽ではなかったかもだけど……あはは……はぁー。


「オチツイテクダサイ プヒィ」


 オークもとい、純な豚さんは、大絶賛取り乱しまくり、そして触手ゆらゆらおしゃぶりと化した私につぶらな瞳を向ける。


 アイ・トゥ・アイとなる、私と豚さん。


 おぅ……ちょっと可愛い。


 もう、オークじゃなくて、美しい豚さんだ。


 そうだ、美豚みーとんって呼ぼう。


 うん、そうしよう。


 私が目の前でつぶらな瞳を輝かせているオークに、名前を付けた瞬間。


 力の抜ける、疲労感が襲った。


 ――これ……知っている感覚だ。魔力がごそっと減る感覚……でも、何で?


 私の疑問に応えるようなタイミングで、めかりんの声が頭の中に響いた。


『《テイムした魔物に名付けを完了しました。魔力を50%消費しました。【個体名】オークから【個体名】オーク(美豚)に変わります。それに伴い各種ステータスが上昇します。ステータスが種族値上限に達しました。条件を達成しました。【個体名】オーク(美豚)が進化します》』


 はん?


 はぁぁぁぁーん?


 テ、テイム?


 いつ? ゲットしちゃったの?! そんなスキル……うーん……。


《あっ!》


 尻神様が持っていたのかー!


 私は、美豚みーとんの後ろに積み上げられている猿山へと視線を向ける。


 尻神様……スキルで、この集団をテイムしてたってことだよね。


 ということは、いや、マジなお山の大将だったのか……うん。


 と、と友達を作るのって難しいもんねー…。


 スキルとか、ステータスも立派な魅力だからね!


 うんうん……いや、なんか……お気持ちお察し致します。


 というか、進化!? それは私が望んでたやつだよ!


「アリガトウゴザイマスプヒィ」


 美豚は立ち上がり頭を垂れる。


《あ、いえ! その……気にしないでくだしゃい》


 うわあぁぁぁー! 大事なとこで噛んだー!


「プヒヒ! ダイジョウデスヨ……ソンナアルジサンモ、ステキデスプヒィ」


 キモオタおしゃぶりと化した私とは違い美豚は、可愛く微笑みながらも、落ち着いた様子で応じる。


 もうなんていうかできる執事じゃないかい。


 すると、その体は虹色のような形容しがたい色となり輝き始めた。


 スキル【寄生】を発動した時のように、あまりの眩しさに直視できない。


《な、なに!? あ、そっか! 進化だ!》


「プヒ! アルジノオヤクニタテル、スガタニナレマスヨウニプヒー!」


 なんや、その可愛い願いは……私がその願い叶えてあげるって、言いたいけど、私には無理だ……。


《めかりん、叶えてあげてね》


 私の願いに呼応するかのように、どんどん輝きが増していき、美豚の形が認識できなくなった――瞬間。


 光は一瞬にして、収束した。

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