第32話 おしゃぶり(オーク吸収)VS尻神様

 温泉の手前にある岩場。



 複数のスキルが同時に発動したり、新たなスキルを習得したかと思えば、また発動したりと意味わかめとなっていた私は、ここにいた。


 なんで、この場所に移動したのかは、よくわからない。というよりは覚えていない。


 ただ、目の前には、私のスキル【威圧】の効果により、未だに動けないでいる尻神様がいた。


 そして、未だに少し離れた私に目掛けて、火の玉をガンガン投げている。


 間違いなく、ヤバイ奴認定だ。


 それとあくまでも、予測でしかないけど、この場所へと移動したのは、【緊急離脱用スキル、寄生レベル8】の影響だろう。


 レベル8となったことで、外敵の攻撃範囲から移動できるようになったとか、きっとそんな感じだ。


 私は状況を把握する為、周囲を確認する。


 ん? オークがいない……。


 お? 斧だ。


 オークが持っていた斧が目の前に落ちている。


 って、斧はいいんだよ! オーク、オークはどこいったの?


 いやー、まさ……かね……。


 私は恐る恐る自分の体に視線を向けた。


《あ……》


 熊の柄だったところが、オークに変わってるぅぅぅー!


 そういえば、あかりんが言ってたよね。


 スキル【吸収】取得して発動するとか、なんとか……。


 はぇー、こういう感じなんですかー。

 へぇー、吸収しちゃったんですねー。


 食べたってことではないよね?

 えっ!? 違うよね?!


 私はひと呼吸置いてもう一度状況を整理する。


 いや、でも居ないってことはさ、食べたのと同意だよね……。


 つまり、心は和世で体はオークで出来ているってことかー。


 オーク……死んだんだね。


 いやいや、こんなスキル身に付けちゃったら、冗談で言ってたお尋ねおしゃぶりに近づいちゃうよぉぉぉー!


《はっ!》


 いかん、いかん! 今は戦闘中だった。


 私は温泉の奥で火の玉を放ち続けているはずの尻神様へと視線を向ける。


 そこには突然姿を変えたことで、挙動不審となっている尻神様がいた。


 あれだけ無作為に火の玉を繰り出していたのに、魔法を放つことを止めていたのだ。


《なんで、攻撃止めたのかな?》


 私の疑問はスキル【威圧】により、動かぬ尻神様となっている仕草によって解消される。

 

 うっわ! 目がやばいって! めっちゃギョロギョロ動いているし、血走ってるよー!

 

 てか、あれ、絶対私のことを見失っているよね……。


 ギョロギョロと絶え間なく動いている視線の先は、山の下部へと向いている。


 それも仕方ないことだった。


 温泉淵は、おしゃぶりより、何倍も大きな岩で囲まれているのだから。


 なので、ここで私がなにをしようが、尻神様に見つかることはない。


 うん、なんかムカつくけど、取り敢えず、現状を素早く把握してっと。


 私はその場で、万能触手ちゃんを出して動作確認をしてみる。



 ――ニュル、ニュル、ニュル、ニュル



 お、なんか知らんけど4本出た……。


 今度は、ステップ&ラッシュだ!


 温泉の岩陰でシャドーボクシングをしてみる。



 ――タッ、タッ、タッ、タン!



 ――シュッ、シュッ、シュバッ!

 


 おお! 速い速い! しかも、4本あるから両触手で安定して繰り出せるし体も軽い。


 スキル【格闘術】の影響も受けているっぽい。


 オークの体で動いていた感覚がある。


 ということは、手足があってこそのスキルなのかな……【格闘術】って。


 いや、万能触手ちゃん4本を手足とみなすのは、無理がありそうな気もするけど……でもでも、歩けるし掴めるから手足も同然だよね!


 うんうん!


 よぉし、んじゃ蝶のように舞い蜂のように刺すだー!



 ――ビュン、ビュン、シュビンッ!



 動作確認、気合いを入れ直した私は依然として挙動不審となっている尻神様の方を向いた。


《ということで、いきますか!》


 私は左下の万能触手ちゃんに力を込め、右上の万能触手ちゃんをめいっぱい後ろに引く。



 ――ググッ。



《まだまだ……》



 ――ググッ、ググッ……。



《……も、もうちょいっ!》



 ――ッググググッ、ググッ……。



 限界まで力を溜めた私は、それを爆発させるように左下万能触手ちゃんで地面を踏み切り、同時に右上万能触手ちゃんを全力で繰り出した。


《その名もぉぉぉ! れいとう触手ぱぁぁーんち!》


 私はその言葉通りにあの有名な○○○○モンスターさながらのれいとうぱーんちをイメージする。


 というか、ぱーんちというより、アタックという方が正しいのかも知れない。なんせ足代わりの両下万能触手ちゃんたちは、宙に浮いているわけで。


 私はそんなことを思い浮かべながら、右上万能触手ちゃんを前に突き出し滑空飛行していると、その右上万能触手ちゃんからひんやり冷たい感触が伝わり、瞬時に氷が形成される音も鳴った。




 ―――パキパキパキ……。




《おお! やっぱりイメージでしたか!》


 やはり、イメージ……いや、イマジネーションが大切なのか……ふむふむ。


 けど、待って!

 き、気持ち悪いぃぃよぉぉー!

 は、は、は、速すぎるからぁぁぁー!

 てか、止まらんやぁぁぁーん!


 内蔵なんてないはずなのに、そのあまりの速さに気持ち悪くなり、反射的に視界を閉じる。


 氷の塊を纏った右上万能触手ちゃんが、尻神様の筋肉質な体に触れた。


《あれ!? 柔らかい?!》



 と思った瞬間。



 ――ドガァァァーン。



 私は温泉を囲む1メートルほどの大きな岩に激突した。


《いったぁぁーい! 勢い余って岩にぶつかっちゃったよー!》


 そのあまりの衝撃に、岩は大破し粉々となった岩が雨のように降り注ぐ。


 ザーッとか、ちゃぽんとか、降り注ぐ欠片によって様々な音を立てる水面。


《ふぅ……何がれいとうぱーんちだ……完全に持て余しているよ……》


 というか、抜けない。


 てか、おしゃぶりが岩を貫通して、その向こう岩にめり込むってどんな威力よ!?


 それよりも、今は尻神様だ。


 速く体勢を整えないと。


《んしょっと!》


 私は岩にめり込んでしまった樹脂部分を万能触手ちゃんで、きゅぽんと引っこ抜き、湯船の方に視線をやる。


《えっ!?》


 そこには、腹に風穴が空きピクピクと動いている尻神様が湯船に浮いていた。

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