第31話 おしゃぶりオークVS尻神様

 って、あははー! そうだ、そうだ!

 お猿さんや、ゴリラがこの世界にいるわけないもんねー。


 そうだよねー……。


「ウキャ……グガガガガグアァァ!」


 ゴリラと猿を足したような魔物が立ち上がる。


 それにより、湯船に波が立つ。


 う、うそ、デッカ……オークの2倍はあるよね……?


 って、えっ!?


 な、なに?! いきなり攻撃ですか?!


 そいつは、私に向けてバスケットボールほどの火の玉を投げてきた。


 私は咄嗟のことで躱すことなく潜ってしまう。


 しまったぁぁぁぁー! ここは避けるべきだった。


 けど、全裸で移動とかできないよぉぉぉー!


 体はオークだけどさ、心は純潔の乙女である加藤和世なんだよぉぉぉぉー!


 この瞬間、私は恐ろしいことに気付いてしまった。

 

 って、私すでに丸出しじゃね?


 だってさ、おしゃぶりに衣服とかないもん。


 ……うっわー……終わった。


 こんな非常事態だというのに、私の頭の中は、全裸で異世界を闊歩していたという事実でいっぱいになっていた。


 あー……だめだ。今思い出すと恥ず過ぎる!


 って、落ち込んでいる場合じゃない!

 でも、立ち上がりたくない。

 

 どうしよう……。


 うーん……そうだ! 取り敢えず、スキル【索敵】発動してゴリラ猿モドキの強さを把握しよう。


 私は、潜水で温泉の中を移動しながら、視界の右上に表示された【索敵】画面に目をやる。


 あ……緑色じゃん! なーんだ、私より弱いのかー!

 見た目からして激強かと思っちゃったじゃーん!


 驚かさないでよー!


 これなら、色々と対処ができるよね。


 というか、ゴリラ猿モドキって名前長いなー。


 そういえばアイツ、お尻の部分の毛が生えていなかったような……。


 私は、この限られた時間でゴリラ猿モドキの姿を思い出す。


 うーん……顔は猿で体はゴリラで……上半身は黒色だったし……下半身は……あ、やっぱりお尻が丸出しだった!


 ということで、尻神様にしよう!


 場所が場所だし。


 まぁ……ちょこっと、乙女が付ける名前にしてはなんだかなーって感じだけど。


 んじゃ、早速、尻神様への対処だな……うーん。


 水中でも、熱に加えて魔法が炸裂する音と振動が伝わってくる。


 てか、しつこいなー。


 音的にさ、水面だけじゃなくて温泉の淵にもぶつけているよね……こいつ。


 って、めちゃ熱っ!


 絶対、温泉の温度も上がり続けているよね……これ?


 私はふと水中から見上げる。


 うっわ! 運動会の玉入れみたい火の玉投げているし。


 どうするんだ! この私の英気を養えそうな場所がダメになったら!


 というか、こんなにスキルを使い続けたら、魔力無くなるよね……。


 もしかして……尻神様ってあんまり知能高くない系なの?


 そういえば、言葉もちゃんと発してなかったかも。


 とにかく、尻神様の暴走を止めないと!


 鋭気を養う癒やしの地が無くなってしまう。


 私は革製の薄汚れた衣服と斧の置かれた場所まで泳いでいく。


「フゴォ、ツイタプギィ!」

 

 素早く立ち上がり、衣服を羽織りながら尻神様の方向に体を向ける。


 そして、間髪入れずにスキル【威圧】を発動した。


 尻神様が動けなくなったのを確認すると、近くの木に立て掛けていた斧を掴む。


 私は相手が弱くても油断はしなぁぁーい!

 全力全開だぁぁぁー!


「フンゴォォォォォ! プギィィィ!」


 スキル【威圧】により、尻神様の動きは止まる。

 けど、スキルによって発動されているであろう、火の玉は留まることを知らない。


 空中で無数の火の玉が形成されていき、的確に私の進む場所を狙ってくる。


 私はそれを軌道を読むことで、最小限の動きで躱していく。

 

「プギィ、アタラナイ」

 

 うん、スキル【格闘術】もあるし、速さで上回ってから直撃することはない。


 けど、場所が悪いかも。


「プギィィィ、ア、アツイ!」


 火の球が湯船に接触することで、強烈な熱風と熱湯と化した温泉がこのオークを襲い、温泉自体の温度もダメージを与えるほどに上昇し始める。


『《体力が継続的に減少しています――体力が継続的に減少しています――体力が継続的に減少しています――体力が継続的に――体力が――》』


 やばい……ずっとめかりんからの警告が止まらないよー!


「ブヒィ……ブヒィ……ケド、チカヨレナイ」


 本当に、これじゃ埒があかない。

 残りの体力は?


 私は偶然表示中にしていたステータス画面に目をやる。


【個体名】おしゃぶり(転生者)『オークに寄生中』

【種族】物

【レベル】20

【体力】100+200/1200【魔力】2400+350/2600

【攻撃】1800+350【防御】1500+150

【敏捷性】2000+300【知力】1500+150

【健康状態】火傷

【空腹状態】普通

【スキル】寄生レベル10  継承レベル10

     捕食レベル10  酸攻撃レベル10

     氷魔法レベル1  料理レベル10 

     威圧レベル8   索敵レベル10

     格闘術レベル6  仲間呼びレベル5

     斧術レベル10 風魔法レベル5  土魔法レベル5


「ブヒィ!?」


 めっちゃ減ってるぅぅぅー! &状態異常ぉぉー!


 けど、なんで? ここまで減っていたら、スキル【寄生】の何かが発動するはずだよね?


 この爆音のせいで聞き逃した? それとも知らない間に条件変わったとか?!


 ええい! どっちでもいいけど! ピンチだから!

 スキル【寄生】発動しろぉぉぉー!


『《すでに第一発動条件、第二発動条件達成しています。周囲に外敵を確認。よって第三発動条件達成しています。【緊急離脱用スキル、寄生レベル10】と【スキル 継承レベル10】発動可能です。また【スキル 捕食レベル10】と【スキル 寄生レベル5】以上を取得している為、【スキル 吸収レベル1】習得、及び発動可能です。発動しますか?》』


 おお……やっぱり私から命じないダメなヤツだったの? そういえば、私がピンチだー! なんだとか喚いていたら発動したかも……。


 そうなると常時発動型じゃなくて、自己発動型?


 盲点だったわー、全く今まで気付かなった……いや、聞き逃した可能性もあるのか? それともレベルアップの影響?


 というか、えっ!? 新しいスキル取得して発動まで出来るの?


 えっ、なんで?


 だ、大丈夫かな……?


 って、今は四の五の言っている場合じゃない!


 習得も、発動もするぅぅぅぅー!


「スル、ブヒィ」


 お、おぉぉぉ! き、きたぁぁぁー!


 光輝くおしゃぶりオーク


 えっ!?


 お前も?


 なんで!?

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