第27話 おしゃぶりVSオーク①
更に森の奥、景色はまた変わり、アフロのような形をした変な茂みと、杉の木みたいな木々が生え、びっくりするくらい透き通る川が流れている場所。
そんな絵に描いたようないい景色の中。
「プギィィィィィ! オマエ、ナンダ? マモノ? チガウ? キモイコロス」
私の前には、豚野郎がいる。
ゴブミさんと同じような現れ方をした、なんのひねりもない現れ方をした豚野郎が。
というか、オークですね!
豚の顔に力士のような恰幅のいい人間の体をしているので、もう間違いないと思います。
けど、コイツ。
ゴブミさんと違って、私がここにいるということを理解して来たっぽい。
なんでそう思うかって?
森の雰囲気が変わったので、忍者のように警戒して茂みから茂みへと跳び移り隠れながら探索していたのをさ、一発で私が潜んでいる場所を探し当てやがったからです!
しかも、コイツ馬鹿みたいに攻撃してくるんだよー。
デカイくせに無駄に速いし。
こっちは攻撃する意思すら見せてないのにさー、しつこいったらありゃしない。
私が茂みに隠れる→オークがすぐ見つけて、デカイ斧で斬りかかってくる→私、ギリギリ避けて隠れる→またすぐ見つけて斬りかかってくるといった感じに。
いや、もうこれって、無限モグラ叩きだからね!
百歩譲って、いや千歩譲って、私に斬りかかって来ることは許すとしよう。
ここは異世界だし、自然の中だし、秩序なんてないに等しいからだ。
けど、斬りかかってくる理由が許せない!
キモチワルイから殺すってなに?!
食べるとか、ゴブリンの群れみたいに子孫繁栄の為とか、戦って強くなるとか、なんかあるでしょうよ!
てかさ、口元はゴブリンよりもゆるゆるのユルって感じだし、常時涎垂らしているし、ブヒブヒ鳴いているヤツには言われたくない。
まちがぁぁぁーいなく! キモイのは、お前の方だっての!
なんて思いながらも、万能触手ちゃんを使い、茂みに隠れたりしながら、オークの攻撃を躱し続けていく。
ふふっ、お前の動きは見切っている。
攻撃に転じる瞬間、鼻の穴が大きく開いているんだよ!
――ビュン!
うん! 躱すなら、問題ない。
けど、こっから反撃にでないとだよね。
私はオークに視線を向けたまま、数歩下がった。
《えっ――!?》
あれぇ? 地面がない?
振り向き、地面に触れたはずの右触手へと視線を向ける。
やば……詰んだかも。
その先には、鮭の数倍はある魔物が飛び跳ねている流れる川があった。
くそっ、さっきまでデカ鮭さん、いなかったよね?
絶対、下流から私を追い掛けて来た系だよね……これ。
私、異世界でもモテモテなんかい!
……嫌な意味で。
前には、斧を構えたオーク、後ろには得体の知れない魔物がいるやばい川。
とういうか、また追い詰められたの? 私。
他には? 他に方法はない?
周囲を確認する。
だめだ……逃げ隠れしてた茂みも、あのオークが大暴れしたせいで、ぐちゃぐちゃだし万能触手ちゃんの届く範囲に木の枝もないや。
「プギィ! モウ、ニゲルトコロモカクレルトコロモナイ」
オークは、斧を両手で抱えて嬉しそうに涎を垂らす。
《こんの! 不潔ばちくそ豚野郎!》
自分が喋れるからって調子に乗りやがって!
てかさ、そんなにドヤれないからね、おしゃぶり相手に斧で挑んでるんだからさー。
というか、男ならせめて、素手で掛かってこいよ!
とはいうものの、コイツの言う通り、もう周囲には身を隠せる茂みはないんだよねー。
案外、頭も切れるのかな?
今考えると、逃げ道を無くすように、川に進んでいくよう、立ち回っていたようにも思えるし。
って、感心している場合じゃない!
――ニュルビュン。
私はこの困難を打破するべく、私は万能触手ちゃんを素早く伸ばす。
触れることが出来たら御の字。
無理でもワンチャン、この攻撃力ならダメージを与えられるんじゃないかとも思っていた。
けど、レベルアップしたとはいえ、万能触手ちゃんの速さではオークを捉えることができない。
それどころか、地べたに体を着けて、両万能触手ちゃんで全力のラッシュを繰り出しているのに、容易く躱し続けていやがる。
《くっそー、コイツやっぱり速い!》
オークは、躱しながら勝ちを確信したような顔をしていた。
「ブヒィ! ソレゼンゼン、トロイ。オレノホウガハヤイ」
はいはーい、まぁ、普通はそう思うよねー。
ところがどっこい!
私は普通のおしゃべりではないのです!
って、今更だよね……あははー!
と・に・か・く! こっからが本気の本気ってやつです。
《スキル【威圧】発動!》
私は、ゴブミさんから得た【威圧】を使う。
このスキルは、発動してから指定した相手の動きを封じるもの。
その能力は強力なんだけど、発動している最中は一秒毎に魔力を消費するので、使用するタイミングには注意が必要だ。
「プギィィィィ! ウゴケナイィィ!」
私のスキルによって動きを封じられたオークは、どうにかして体を動かそうと必死になっている。
けど、無駄だ。
道中に出会ったねずみっぽい魔物で、試し打ちをしたんだけど、私が解除するか、【魔力】が枯渇するかしないと動くことはできない。
まぁ、枯渇するまでするとかになったら、もう終わりだけどね。色々と。
「プギィィィィ! スキルハツドウ【イアツ】」
《はっ?》
私は思わず声を出す。
コイツも持っているの?!
スキル【威圧】を!?
いや、当然っちゃ、当然かー。
魔物だしねー、うんうん。
寧ろ今の今まで、使われなかったので凄いくらいだよね!
って、冷静に分析している場合じゃない!
これピンチ到来かも!
同じスキルを向け合ったら、どうなるの!?
《あ、やばい……体が動かない》
「ブヒブヒィィ! コレデオマエハウゴケナイ! オレノマリョク650! オオイ! カッタ」
はぁ? うっせぇぇぇー!
お前も動けないじゃないか!
川を背にして動きを封じられる
我ながらなんて構図なんだ。
うん? んっ?
今、とんでもないこと言わなかった?!
言ったよね!
絶対、言ったよね!
650で多いの?!
となると……
私は途端に怒りが収まる。
コイツ、狭い世界で生きてきたのかも……。
これは同情に似た感情かも知れない。
そういえば、こういうことって誰にでもあるよねー。
私も部活で地区大会優勝した時、なんか天下取ったー! みたいな感じになっていたけど、上には上がいるんだよね……。
まだ、私にはルーミーっていう親友がいて、青春を全力で謳歌する推しがいたので、自分という小さな世界の中でドヤるみたいなことはなかったけど。
コイツは違うのかも……。
「ブヒィィィィィ! コノオノデ、バラバラニシテヤルカラ、タノシミニシテロ! ブヒィブヒィ!」
オークは鼻息を荒くし、ガンギまった目で私を舐めるように見てくる。
あー、最悪だー。
真面目モードになってたのにさー。
コイツ絶対、自分が一番強いとか、優れているとか信じ切ってるタイプだよー。
生きていくには、大事だよ?
けど、たまには外に目を向けないとさ。
こうやって
私はスキル【寄生】を発動し、万能触手ちゃんを伸ばしてオークの体に直接触れた。
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