第22話 異世界ほのぼのゴブリンLIFE①

 私の前には、その辺に落ちている石で作った簡素な焚き火台、左右には調理する食材を引っ掛ける為の木を削って加工した柱。


 その間には、焚き火に炙られて香ばしい匂いと、ジュウジュウと食欲がそそる音を立てるこんがり魔物肉があり、後ろには丸太を切り抜き枯れ葉と毛皮を敷いた簡易なベッドを設置された場所があった。


 そう、ここは私が異世界で初めて構えた住居兼キッチンである。


 ちなみに、焚き火台の左右にある柱とベッドはさっき倒した木を使ったもので、敷いている毛皮とこんがり魔物肉は、数時間前まで鋭い一本角を生やしたウサギっぽい魔物だった存在だ。


 申し訳ないけど、名前はわからないんだよねー。


 けど、美味しく頂くつもりです!


「ウン、ゼッタイクウ! コデ、コノウサギウマイ」


 って、落ち着け私よ!


 なんだかなー、ゴブリンになってからも、おしゃぶりだった頃の癖が抜けないんだよねー。


 頭の中で想像しているつもりなのに、口に出してしまったりするし。


 いや、これ人間の町に行くまでに直したいよね。


「ダッテ、ギモスギルシ」


 うん、考えたそばからこれだよー。


 あ、もちろん寄生する存在もね!


 じゃなくて! そ・れ・よ・り・も!


 なんで急に住居を構えたり、キッチン作ったりしているかだよね?


 これはねー、魔物に寄生してから状態が表示されるようになった私のステータス、空腹状態とこのゴブおじに刻まれた記憶が関係しているんだよね。


 端的に言うと、お腹が減り過ぎて【体力】が減り始めていたってことと、ここが安全な場所ってことだね。




 ☆☆☆




 あれはちょっち前。



 自分のことを勝手に主人公認定した私は、このゴブリンに慣れる為、色々なことを試していた。


 とはいっても、私がいるのは魔物の生息している森の中。


 急に強い魔物と出会い頭にごっつんこみたいなラブコメ的、遭遇はご遠慮願いたいので、気配や音なんかに注意しながら、エンジョイってわけ。


 なんだけど、ずっと静かだっためかりんの声が響いた。


『《空腹状態が悪化した為、一定時間毎に体力が減少します。生命活動維持の為に捕食行動を推奨致します》』


 不思議な話なんだけど、空腹状態は寄生している魔物の状態を指しているっぽいのだ。


 なんでそう思うのかなんだけど、勘! うん、勘でしかない!


 けど、私に空腹感が伝わってこなかったので、この予想は大体合っているはず。


 ま、そんなこんなで、寄生先であるゴブおじが生命活動維持に支障をきたしたので、食料を求めて森の中を徘徊したわけなんです。


 徘徊中はスキル【寄生】の影響だとは思うけど、ゴブおじの記憶が流れ込んできて、ゴブおじが食べていた食物が浮かんだり、どの辺に強い魔物がいたりするのかも知ることができた。


 その中でも、このゴブおじの好きな物なのか、頭の中に明確に浮かんだ魔物がいて。


 ま、それが今目の前でこんがり肉となっている魔物なんだけどね。


 とにかく、自然と魔物が生息している場所へと歩みを進めていき。


 一本角を生やしたウサギみたいな魔物たちが走り回る(不思議や不思議。奥には、スライムやねずみっぽい魔物に混ざって牛とか、羊とか、馬もいたりしていた)草原に着いた。


 そこからは、結構簡単な戦いだった。


 なんかスライムに寄生していた時とは大違いって感じで。


 けど、決して弱かったわけじゃないと思う。


 一匹がピンチになり鳴き声を上げると次から次へと仲間が来るし、足を使った素早い攻撃もなかなかの威力だった。


 実際スライムに次ぐ最弱のゴブリンとはいえ、彼らより何倍も大きく力があるはずなのに、防御態勢をとっても仰け反るほどだったしね。


 ただ、このゴブおじに刻まれた記憶のおかげで、魔物の攻撃パターンも手に取るようにわかり、苦戦を強いられることはなかった。


 倒した後なんかも、生きた物を初めて捌くというのに見た目や臭いなんかで気分を害することなく、血を抜き簡単に捌くことができてしまった。


 まぁ、捌き方や血抜き方法に関しては、スキル【料理】が関係している可能性もあったかもだけど。


 スキルって、不思議だよね。


 魔力を消費しない常時発動型パッシブっぽいのとか、その都度魔力を消費する自己発動型アクティブらしいものとかあるし。


 って危ない、危ない、話が逸れそうになった!


 こういうのってオタクの悪い癖だよね。あははー!


 とにかく、このゴブおじに刻まれた記憶のおかげもあって、ストレスフリーのまま、戦闘から調理するまでできたということです。


 今、思うと初めにあったスライムは、戦闘経験とかあんまりなかったのかも。


 ポニョン、ポニョンと森の中を徘徊していた時も、流れ込んでくるような記憶っていう記憶はなかったし、このおしゃぶりと互角の戦いを繰り広げたっていうのもおかしいしね。


 いや、でも……それじゃなんで、スキル3つも所有してたんだろう。


 うーん……わからない。


 ま、でも、あのスライムの命を奪うことにならなくて良かったよね。


 だってさ、意味もなく消えちゃうなんて悲しすぎるもん……。


 という私は、今からこのウサギっぽい魔物を頂くんですけどね。


「グハハハッ、ウマソウ」



 ――ジュルリ。



 私の口元から、激臭放つ涎が滴る。


 うん……下品+汚い+おしゃぶり=私。


 いや、でもあれだから!

 ちゃんと、さっき言ったけど!


 残さず頂いて私の血肉にするので許して下さい!


 って、おしゃぶりじゃなくて、このゴブおじなんですけどね。




 ☆☆☆




 初めてこの世界にきて口にした食べ物は、めちゃくちゃ美味うましでした。


 なんていうか、鶏肉よりしっとり柔らかくて脂が甘い不思議な味だった。


 あと、肉の味が濃いって感じなのに、匂いも少なくて食べやすいかも。


 感覚派なので、下手っぴ食レポになっちゃったけど、はっきりと言えるのはスーパーで買って食べるお肉とは、全く違って噛めば噛むほど味がする系の旨味爆発お肉でした。


 けど、残念なことに塩が。


 そう! 塩味が全く足りていないんだよー!


「シオホシイ」


 いや、本当に欲しい。


 いくら素材が良くても塩っけなさ過ぎるんだよね。


 もういっそのことさー、塩を求めてほのぼのLIFEとか決め込んじゃう?


 塩とか、調味料だけじゃなくて、その土地の美味しいものとかを紹介したりとかもしちゃう?


 「グガガ、ムリダヨネ」

 

 うん、無理だよね……。


 今の私って、360°どこからどう見てもゴブリンだし、おしゃぶり咥えているしさー。

 仮に町や土地に訪れることが出来たとしてもさ、討伐対象でしかないじゃん……。


 ――よし! ほのぼのLIFEは後回しにしよう。


 ということで、切り替えて残りの肉を頬張ることにしました。

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