第21話 ダッテ、コウイウナガレダッタシ。


「ワダシ、ゴブリンニナッタンダヨネ?」


 低くて籠もった耳障りな声が森の中に響く。


 やっぱり、なっているね……麗しの乙女がゴブおじに……。


 あはは……でも、ほらまだわからないよね。


 自分で見たわけじゃないからさ。


 私は大木を退けて起き上がり、ふと手に目をやる。


 うん、緑色でゴツゴツしているね。


 足にも目を向ける。


 うん、やっぱり緑色でゴツゴツしているよね。


 へー、腰に布巻いているんだねー。


 おっ、布の中にナイフが!


 使われなくて良かったー。


 顔を触ってみたり、頭にも触れてみる。


「アデ? ケガナイ」


 おお、怪我、治ってるー!

 スキルの効果かなー?


「オオ、アンガイビハダ」


 うんうん、いい感じ〜!

 ツルツルしているし、口元には牙があるね!


 はぁぁぁぁん?! くそがぁぁぁぁー!


「ワダシハ、ナットクシテナイカラコデ!」


 思わず声が漏れる。


 そう、そうだよ!


 納得なんてできるわけないでしょうよ!


 だって、ゴブリンだよ?

 なんか体は生ゴミみたいに臭いし、舌が短いのか、なにかわからないけど、ちゃんと発音できないし。


 しかもさ、ただのゴブリンじゃないんだよ?


 間違いなく、デカいし、中年太りしているし、おしゃぶりを咥えている感覚もあるし。


 これじゃ見なくてもわかるよー。


 さすがにないよね。


 乙女がオス、しかもゴブリンになるなんて……。


 ま、でも、仕方ないかー。

 今更、解除する方法とかわからないし、知らないし。


 けど、待って案外いいかも。


 魔力を消費せずに歩き回れるし、カタコトではあるけど、言葉を発することもできるしね。


 ということで、ステータスの確認もしてみようっと。


「ズデーダスオーブン……」


 って、なんでやねーん!


 ちゃんと発音できないやーん!


 声帯あるのに、これはなんか違うから!


 けど、よし! 今回はちゃんと大阪弁でツッコめた。


「グハハハ、エダイワダシ!」


 やば、我ながら笑い声キンモッ!


「オオ?」


 あ、でも、ステータス出た!


 って、当然だよね!


 念じるだけで、できるんだから。


 私はついつい話せることに舞い上がり、そのことを忘れていたのだ。


 私は表示されたステータス画面に視線を向ける。


【個体名】おしゃぶり(転生者)『ゴブリンに寄生中』

【種族】物

【レベル】3

【体力】500/400+100【魔力】1550/1400+150

【攻撃】250+300【防御】300+100

【敏捷性】200+300

【知力】100+50

【健康状態】良好

【空腹状態】かなり減っている

【スキル】寄生レベル5 継承レベル2

     捕食レベル1 酸攻撃レベル2

     氷魔法レベル1 威圧レベル1 

     料理レベル2 棒術レベル5


 ふう、もう【個体名】についてはツッコまないからね!


 けど、なかなか興味深いかも、レベルアップの条件は咥えてもらうことっていうのは、ほぼ確定だし。


 スキル【継承】がどういうものなのかもわかった。


 どうやら、おしゃぶりを咥えた……いや、咥えさせた魔物のステータスとか、スキルを離れる際に引き継ぐものらしい。


 そして、宿主を変える時に、存在ごと私に取り込まれていくようだ。


 って、やっば!


 無自覚に取り込むとか、なんかもうどうしようもないよね。


 なんて考えていると、聞き覚えのある音が後方から聞こえてきた。



 ――ぽにょん、ぽにょん。



 うん?


 私は振り返り視線を向ける。


 そこには、たぶん私が寄生していたスライムがいた。


 何がどうなっているかは、わからないけど、さっきまで同じ体を共有していたからわかる。


 この子は、私だったスライムだ。


「スライム、イタ。ナンデ?」


 いや、マジでわからん。


 スキル【寄生】って、乗っ取って全部吸収する系の激ヤバスキルかと思っていたけど違うらしい。


 けど、これなら勝手に発動しても罪悪感がないし、ちょっと安心した。


 まぁ、私が抜けた後、本来魔物が保有していたスキルがどうなったのかはわからないから、何とも言えないけど。


 でも、少なくとも命に支障をきたすことはないということはわかった。


 これは、大きなことだよね。


 うん、うん!


 ということで、なんとなく今後の方針は固まった。


 おしゃぶり生をエンジョイしながらも、どうにかして、人間のいる町に行くってことだ。


 そうすれば、どうにかできるかもしれない。


 何をどうにかするのかって?


 どうにかって、どうにかです!


 きっと、そう!


 ちゃんと会話さえできれば、なんかこう人との絆を紡いでいく。

 そして、最終的にどっかの偉い人出会って「ふむ……そうであったか! では、そなたを助けてしんぜよう」とか、なんとか言ってくれる……はず。


 というか、そうあってくれー!


 いや、私がなにかしらの物語の主人公ならあるよね。


《ね?》


 私が尋ねても、なんの返事もない。


 ただ、独り言が頭の中に響くだけ。


 はぁ……こういう時って人恋しさ増すよねー。誰も教えてくれないとか、やっぱり不安だし、肯定してくれないと寂しいしさー。


 だめだ、だめだ!


 ここはDon't Think.Feel! だ。


 私はこの物語の主人公なのだ。


 そう信じて楽しもう!

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