第20話 おしゃぶりスライムVSゴブおじ②


 「モウ、オワリ。オマエナンカ、フツウノスライムヨリ、オイシソウ」


 私の背には大きな木があり、目の前には逃がさまいとよだれを垂らし睨みを利かせるゴブおじ。


 周囲を確認しようにも、逃げ道なんて存在はしないし、逃げるほどの体力も残っていない。


 こんのぉ! くそゴブおじめ!

 お前も最弱の部類でしょ? ちょっと自分より弱いからって、食べるとか言いやがってぇぇぇー!


 しかも、さっきまで乗り気じゃなかったでしょうよ!

 今になって、私の魅力に気づくと遅いから。


 そもそも、こっちは麗しき乙女なんだよ!

 それをボカスカ殴りやがって!


 というか、キモいゴブリンおじさんに食べられるとか、生理的に無理ですから!


 せめて、私を食するならイケメンであってくれぇぇぇー!


 焦る私にある案が浮かぶ。


 あ、そうだ。

 木だよ、木! 後ろにデカい木があるじゃん!


 これをどうにかして、バーンって感じで倒して直撃させれないかな?


 このクソみたいに、ドヤっているゴブおじに。


 というか、現実世界にも居たよね。


 なんか妙に勘違いして距離を詰めてくる男子。


 ただ、優しくしただけなのに、すぐそういう対象に見てくるんだよー。


 って、まぁこれってルーミーから聞いた話なんだけどね。


 じゃなくて!


 まずは、この食べる気まんまんゴブおじだよね……。


 せめて時間稼ぎする方法ない?!


 もう一度見渡す。


 視界の隅に転がっている小さな石があった。


 よし、もうこれでいくっきゃない!


 私はすぐさま頭に浮かんだことを行動に移す。


 スキル【寄生】を発動し、2本の内1本の右万能触手ちゃんを小さな石に伸ばし掴み取り、同時に後ろの木に左万能触手ちゃんで触れて木を枯らしながら、後ろの口? 穴から酸攻撃を大木に当てる。


 その間に掴んだ石へとスキル【酸攻撃】を発動して前の口? から分泌した酸を塗り、ゴブおじに放り投げた。


 フリースローのように、投げる時は左万能触手ちゃんをそっと添えるだけてな感じで。


「ナンダ!? コノスライムヤッパリフツウジャナイ。スライム、フツウコンナコトシナイ、ヤッパリクウノヤメタホウガイイ?」


 イエス効果てきめん!


 当たりはしなかったけど、スライムって普通はポニョンポニョン跳ねている癒やし系だもんね!


 それが触手出しただけじゃなくて、石を握って酸を塗って投げるとか、戸惑うでしょ!


 やっぱり色々と試しておかないとだよねー!


 ピンチはチャンスー!


 というか、我ながらナイス判断よ!


「デモ、ハラヘッタ。ヤッパリ、タベル」


 ゴブおじは、再び棍棒を肩に乗せて近づいてきた。


 はぁぁぁぁぁぁぁ!?


 結局、来るの?! いや、そんな即決するには、正体不明すぎるでしょうよ! 私はさ!


 美味しくないのもわかっているよね? 酸飛ばしますよー! 触手も出しますしー!

 ほらほらー!


 私はその場で、スキル【酸攻撃】を発動したり、万能触手ちゃんをニョロっと出したり、ウネウネ動かしたりする。

 

 だが、ゴブおじはその歩みを止めようとはしない。


 やば、ばばばぁぁぁーい!


 と驚くとでも思った?


 へへーん、こちとらもう準備完了しておりますよ!


 いつでもカミングー! ゴ・ブ・お・じ・さ・ん♪


「ヤッパリクウ、ワダシ、スライムクウ」


 何も知らないゴブおじが、一歩、二歩、三歩と段々と近づいてくる。


 そして、目の前で棍棒を振り上げた時、私は本の万能触手ちゃんを使い木の手前を思いっ切り引っ張る。



 ――メキメキメキ。



 スキル【寄生】と万能触手ちゃんのおかげで木はすぐに傾く。私は同時に大木が倒れる位置から離れる。


 ゴブおじが見上げた時には、もうその顔の近くまで木が迫っていた。


「グギャ――」


 ゴブおじの声が聞こえた瞬間に、大木の倒れる音が森の中に響く。



 ――ズドォォォォーン。



 砂煙と枯れ葉が舞う。


 私の目の前で、ゴブおじが大木の下敷きになり、虫の息となっている。


 そう、私は勝ったのだ。


 このゴブおじに。


 やったぁぁぁー!


 今回ばかりは本当にやばかったよね……。


 キモいおじさんに食われるっていう意味と。


 本当に食べられてしまうっていう2つの意味で。


『《【スキル 寄生】がレベルアップしました。レベル5になったことにより、効果範囲と速度が上昇します。それに伴い、対生物用発動条件が変更されました》』


 なぬ!?

 めかりん、ここにきてのスキルレベルアップですか!?


 というか、効果範囲と速度はわかるけどさ。


 なに? 発動条件の変更って?


『《外敵からの攻撃により、総体力10%のダメージを受けた為、発動条件達成しました。発動範囲に瀕死の魔物がいる為、第二発動条件達成しました。よって【対生物用スキル、寄生レベル5】発動します》』


 えっ!? ま、またぁぁぁー?!


 というか、なに?! 第二条件って?

 そんなのあったの?


 意味がわからないんですけどぉぉぉぉー!


 私の体は、光輝き始める。

 同時に万能触手ちゃんが、目の前で横たわっているゴブおじに伸びていく。


 ちょ、ちょっと! 待って! この流れはまずいよね!


 だってさ、これもう――。


 慌てふためく私の頭の中に、あかりんの声がもう一度、響いた。


『《【スキル 継承レベル1】の発動条件を達成しています。発動しますか?》』


 こ、こんな時に?! ええい! 知らないけど。


 もう、なんでもいいや!


 発動! 発動するぅぅぅぅー!


『《スキル 継承レベル1発動します》』


 そこから、私の意識は途絶えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る