第14話 触手って案外便利だよね!
――この後。
私は気分転換の為に、また触手を使ってみた。
今度は、生物に触れてみるのが目的だ。
出したり、伸ばしたり、歩いたり、掴んだりはしたしね。
となると、あとしていないのは、生きている物に触れていないってことだけだし。
そもそも【寄生】っていうスキル名で、触手が生えてくるんだから、対生物に一番能力を発揮するはずだしね。
けど、いきなり森の中に入って魔物にバーンっていかない。
というか、いけないのだ。
怖いっていうのもあるけど、その色々と無理ゲー過ぎる。
最悪【攻撃】と【知力】は、低くても逃げのびることができる。
動けさえすれば、いいからね。
けど【敏俊性】が0っていうのは、もう詰んでる。
スキル【寄生】で出た触手のおかげでゆっくり歩けたり、動けたりはしているよ?
でも、これが問題なんだよねー。
私はおしゃぶりだし動かない限り、襲われることは無い。
だって、種族は【物】。
けど、もし私がこの森に住まう魔物で、目の前にょろにょろ歩いているおしゃぶりがいたら襲うよね。
あまりにも不審過ぎてさ。
んで、結果、野良猫に弄ばれるネズミ的ポジションとなる。
そして、その後。
私の独白のみが聞こえ、(いや、おしゃぶりなんで聞こえないんですけど)地べたに傷だらけのおしゃぶりが落ちているだけというオチになりかねないのだ。
絵面的には、シュールでひと笑いは起こるかも知れないけどね。
それで私のおしゃぶり生は潰えることだって十分あり得るんだよ。
だから、まだ森の中には行きたくない。
私は触手を出して見つめる。
――ニュル。
いや……けど、よーく考えたら実はスキル選び大正解しちゃった系かも。
厳密にはどうなって動けているのかわからないけど、ステータスとかガン無視で歩けちゃうし、物も掴めちゃうし。
それだけじゃないんだよ? こーんなことも出来ちゃうし。
出した触手を繋いで縄跳びしてみる。
――ニュル、ヒュンヒュン。
こんなことだって!
――ニュル、ビュンビュン。
今度は、はやぶさ跳びをしてみた。
実は、実はですよ!?
この私。加藤和世こと、おしゃぶりは色々なことも踏まえてスキル【寄生】を選んだのです。
えっへん!
ひどりでに女神さんのようにドヤってみる。
って、恥ずかしぃぃぃー!
これ傍から見たら、茹でダコみたいの真っ赤になっていたりして。
……よし、止めよう。
あれは、可愛いから許される仕草だ。
けど、真面目な話。
大正解とか言っても、それはスキルのみの話だ。
転生したら人間じゃないとか、魔物でもないっていうのは、さすがに予想外過ぎる。
というか、そもそも私自身のことも含めて、この世界のことを知らなさ過ぎるんだよねー。
こうやってスキルを試したところで、どれくらいの広さで、どの程度の文化が栄えて、どんな種族が生活をしているかとかすら知らないし。
それどころか、ここは一体どこなのかもわからないしさ。
日本にいれば勝手に入ってきてた当たり前の情報が、今の私には完全に不足している。
だからこそ、正確な判断が出来ているのか、ふとした時、不安になってしまうのかも。
精神安定剤代わりに、ステータスを頻繁に見ちゃうのが、何よりの証拠だ。
って、これはただのオタク気質が影響しているだけのような気もするけど。
《やっぱ、森の中に入って情報を仕入れるしかないかー》
私はもう一度触手に目を向ける。
――ニュルニュル。
うーん、けどなー。
このままだと森の中へ行くにしても、自分で身を守れるか、せめて逃走手段は確保しないと結果は見えているんだよねー。
このスキル【寄生】の触手を使って逃走しようにも、亀が歩くスピードより遅いし。
まぁ【敏捷性】0なのに、動けているだけで文句のつけようはないんだけどさ。
とはいえ、このままここでじっとしているっていうのも、違うんだよなー。
これじゃなにも始まらないで、私のおしゃぶり生が終わってしまうし。
てか、縄跳びして終わるとか、色々とヤバ過ぎでしょうよ。
いや、無機物なんで終わりようはないんだけどね……あはは。
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