超能力

kei

第1話 超能力

龍太1

俺は百人いる。

と、聞いてもわからない人は多いだろう。詳しく言うと、俺が心を宿している人間はこの世に100人いると言うことだ。でも性別も年齢も国さえもバラバラ。いつからなったかはわからない。おっと自己紹介が遅れてしまった。俺の名前は成瀬龍太だ。俺が別の人間に魂を憑依するときは、俺の体は勝手に行動する。出社するときは出社し、飯を食うときは、飯を食う。別の人間に憑依するときは、4桁の暗号を心の中で叫ぶ。これを覚えるのには時間がかかった。これもいつからなったのかはわからない。そして誰にも話していない。だが、俺にとっては都合のいいことだらけだ。こっちの人生に飽きれば、違う別の人生に移動する。それだけで幸福感を得られるのだ。人の人生のいいとこ取りのようなもんだ。一つ付け加えるが、俺が憑依してる間、憑依された人間は、その時の記憶をなくしてる。まあ、そうした方が都合がいいんだけどな。







凛1

私は麻生凛。今でこそ交友関係はいいものの、昔はいじめられていた。あまり昔のことは思い出したくないが、私がこの力を得るようになった過程を説明する上で欠けてはならない事実なので説明する。さっきも言ったように、わたしはいじめられていた。クラス全員からいじめられると言うことではなく、ただ1人のリーダー格的な存在の女子にいじめられていた。多分私はその頃勉強の成績が優れていたからだろう。私は仕返しなど考えもしなかった。なので余計にいじめられていた。孤立していたため、助けてくれる人などいなかった。帰ってから私は泣き続けた。どうして私なんだろう。こんなにも頑張っているのに。しかもその日は七月二十五日。私の誕生日だった。

ある日、彼女に対する憎悪がピークに達した。私はその日、ずっと彼女の憎悪の言葉を心の中で並べた。すると突然視界が暗くなった。実際に暗くなったのではない。心の中が闇で埋め尽くされて我慢できず、外に出てくるように、私は感じた。言うまでもないが、とても嫌な感じがした。その日はなかなか寝付けなく、誰かが私の首を絞めて寝なせないようにしているようだった。

翌朝、私をいじめていた彼女が水死体で発見された。









龍太2

俺は会社の上司に嫌われていた。俺もその上司を嫌っていた。そりゃあ人にも好き嫌いがある。嫌いな人がいないなんて言う奴は信用しない方がいい。勝手に俺を恨んで何もしなければそれでいいのだ。俺もそうしていた。しかしあいつは俺と違った。ついに俺に嫌がらせをしてきやがった。嫌がらせと言ったら、軽そうに聞こえる人もいるかもしれない。だが俺が受けた嫌がらせはそんな軽いものではなかった。俺の財布を奪いやがった。しかしそんな証拠はなかったため、俺の不注意で失くしたのだろうとされた。流石にこれには腹が立った。俺はあまり普段立腹しないタイプだが、この時はいつもの俺が通じなかった。その後も続いた。無駄な仕事をさせられ、何かと文句を言い、最後はお決まりのように、お前は使えねぇなぁと言う。そんな日が続いたので、俺は別の人間に憑依した。向こうの俺がどんな仕打ちを受けているんだろう。考えるだけで憎悪と不安が湧き上がってきたので、仕事の終わった夜は自分の体に帰ることにした。








凛2

私は遠隔で人を殺すことができる人間なのだと、その水死体が見つかって何日か後に知った。私はその頃オカルトにハマっていて、もしかしたら、と思ったのだ。まあそう言ってやって成功した試しはないのだが。しかしその時は違った。私は、その時テレビに映っていた終身刑の凶悪殺人犯の写真と名前を強く心で念じた。すると翌朝、牢獄でその人が自らの眼球をくり抜いて自殺したと言うニュースを見た。自らの罪の重さに耐えかねたか、もしくは終身刑であることから、己の未来に絶望してやったんだろうと処理されていた。私はまたあの感情が襲ってきた。その日は生きている気がしなかった。

次の日、心が治まったので考察をした。まず、遠隔で人を殺めるには、強い憎悪を抱きくことが必要らしい。そして私が憎悪で強く念じた人間は、翌朝に死ぬらしい。明確な時間はわからないのだが。そして死因はランダム。つまり自分が嫌いな人、憎悪を持っている人にしかこれは使えない。一応このことはメモしておこう。現実は小説より奇なりと言うものなのか、まさか私がそんな人間になるとは思わなかった。







龍太3

「5027」俺はいつも通り、誰かに憑依した。こうやって何も考えず、現実を逃避するのが1番だ。罪滅ぼしというわけではないが、せっかくだからこの人のやることでもやっておこう。俺はそこに置いていたその人のメモを見た。







龍太4

その日の翌朝、俺の嫌いな上司がナイフで刺殺された。しかし、証拠がほんのひとつも出てこないことから事件は迷宮入りした。「まるで遠隔で殺されたようだ。」名前は忘れたがどこかのキャスターがそんなことを言っている。俺は笑いを浮かべながら画面を見ていた。「俺と同じような超能力者って意外と近くにいるんだな。これからも使わせてもらうぞ。」

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超能力 kei @keigo305

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