チョコパイとアザフチ

「チョコパイ買ってきました」

「神〜〜〜〜!!」

冬も近い、肌寒いある日の事である。

仕事に追われ死屍累々の逢食社では、アザフチが室内で焼き芋をしたり、全てに諦めたコヨリちゃんが自分のおちんちんに数珠でも入れちゃおうかな🎶と手術先を探していたり、

デスク上のパソコンやら資料やら何やらをゴミ箱に投げ捨てて優雅に組香を嗜むヨヨ崎だったりと地獄絵図であった。

そんな中、なんかこれで飯でも買ってこいとアザフチが一万円を握りしめて鳴にソッ……と渡し、鳴はアンパンマンのコインケースに大事そうに1万円を入れて、出掛けていった。

(アザフチはそれを見てン…ときた)


そして冒頭に戻るのである。

コンコン、と柔く扉をノックしながら、鳴がやって来た。ガサガサと大きな音を立ててマックの紙袋を取り出し、アザフチの机の上に「ァこれチョコパイです」と言ってコンマ1秒も立たないくらいにアザフチは椅子から滑り落ちた。

「鳴お前は本当によく出来た奴だな。天国のおっかさんも喜んでるぜ」

「オレの母親まだ生きてるッス」

「あそぉなの」

ちなみにではあるが、無駄に金持ちである社長のヨヨ崎さんが、交通の利便性も考えてと駅前に逢食社に建てたので、すぐ目の前にマックがあるのだ。

スタバもミスドもカルディもサーティワンもある、バカの小学生が必死に考えた最強に住みたい場所みたいな立地である。

「コヨリちゃんチョコパイあるってよ」

「え、え〜!マジ?嬉しい。てかココ煙たくない?」

「焼き芋してたから」

「一酸化炭素中毒にさせる気?殺すよ」

ガシ、とコヨリちゃんはアザフチの顔を掴み、窓に押しやってガツガツぶつけ窓を割った。アザフチはこういうのに慣れているので平然とワハワハ笑っていた。が最終的に意識を失い床に倒れ込んだ。

「で、ボクにはどっちくれるの」

と、チラチラと二種類のチョコパイをコヨリちゃんは見た。シロクマと普通のくまさんが施されたかわゆいパッケージだった。

「オレはどっちでも取って大丈夫ス。余ったやつ食うんで」

「鳴くん買ってきてくれたんだから好きなん取りなって〜。次ボク取るし」

「え、あ、じゃあ普通のチョコ食べます」

「ホワイトチョコ嫌いなの?」

「や、オレ、シロクマはアイスだけって決めてるんス。浮気になるんで」

それを聞いてコヨリちゃんはン……ときた。

なんて可愛らしいんだろうなこの子はと抱き締めてやりたくなったが、自分にはプリティエンジェル田口がいるので堪えた。

「じゃあボクがホワイトチョコ貰っちゃうね。社長はどっち食べますー?」

「私は普通のチョコがいいな」

「じゃホワイトチョコあげますね」

「しまった。今日反転デーだったか」

反転デーとはその名の通り、コヨリちゃんがヨヨ崎に対してだけ行う頼まれたものや事を全てひっくり返してしまう日である。これやってと頼めばやらないし、これやらなくていいよと言えば程々にやる。(度をすぎたやらなくていいよをすれば本当にやらないので扱いが非常に面倒くさい)

しかもこれは急になんの予告もなく行うので益々タチが悪い。

「はぁ……まいっか。どっちも好きだし」

「これチンした方が美味いんスかね」

「あー、でもパイふやけそうじゃない?」

そっか」

ジャクッ、と一口。

まだ中身にたどり着けなかったのか、パイだけが口の中に残り、水分を奪う。

「たどり着けなかった。口の中ヤバ」

「茶いれます」

「ありがと〜」

そのままジャクジャク食べ進め、もったりとしたチョコクリームが口の中に広がり、十分な甘さとともにパイが絡まる。

「あーーーうま。久々に食べると美味しい」

「買ってきて良かったっス」

「本当にそう。ありがとね」

「それよりなんですけど、アザフチさん大丈夫スかね」

「……死んでないから大丈夫でしょ」

コヨリちゃんはツカツカとヒールを鳴らしながら気を失って倒れたアザフチに近寄り、体を仰向けにさせて手を腹の辺りで組ませた。

その上にソ……とチョコパイを乗せ、合掌した。

「アザフチくん、無念!」

「死んでねーよ誰のせいだと思ってんだよ」

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