暴力とアザフチ
「で書けたんか続き」
既視感。何処かの某ドーナツ屋でもそれ聞いたな……。と小粋はフワフワ考えていた。
マァ実際は暗闇の懺悔室に閉じ込められ、入口の扉の前に立つアザフチの言葉に耳を傾けて、ジッと黙っているのだが。
「いや……なんかキャラが薄いかな?的な……ちょっと考えてます」
「このボケカス」
「ブッ」
腹を勢い良く足で蹴られる。しかも厚底靴。重苦しい攻撃が内蔵ないし子宮を抉りとるかの様に襲いかかってきた。
気持ち悪さが脳内に一気に広がり、小粋は一瞬何が起こったか分からなくなった。
いつも殴ってくるし、殴られる事には(不本意ではあるが)慣れているので、てっきりそっちの方が来るだろうな〜とのほほんと考えていた。それ故に蹴られることに対して咄嗟に対応出来なかったのだ。
「オエ」
胃液がせり上がりそれと共に吐瀉物が口から漏れ出す。喉がピリピリと焼けるような、なんとも言えない苦しさを抱え、床に這い蹲る様にして小粋は蹲った。
アザフチはそれを見て何を思ったのか、小粋の頭を勢い良く掴んで床に打ち付けた。
ゴッ、と鳴ってはいけない音と、プツンと何かが切れる音が小粋の脳内にこだました。
「お前な」
それでもアザフチは冷静に言葉を発する。
「話を書くなんてバカでも出来る。登場人物が居て、それを好きに動かすだけであっという間に物語が完成するんだ。設定を練り込むのに脳を使い果たして使い物にならなくなるのは心底嫌いだ。無駄使いをするな。脳の廃れた腐女子にだって男二人を前に出せばどちらが攻めでどちらが受けかを判断するのにお前は一人黙って明日の肉はなんだろうと考え出す。使い用の無い人間だ。無価値の人間だ。お前に創作は向いていない。自分で生み出したただの『存在』を子だと崇めて救われようとしているダサイ厨二病だ。正しく愚かだ。このまま一文字も進めることが出来ないなら筆を折って一人ずっと閉じこもって書く事をせずオナニーでもしてろこの黄色人種が」
アザフチさんなんかやな事でもあったのかな……。と小粋は心配になった。いつもはこの倍責め立てる筈なのにどう考えても文章量が少ない。
安い言葉責めでつまらなかったのか、アザフチはいつの間にか手に持ってたスイカバーを小粋の頬にビンタするようにして叩いた。
ウワ!髪巻き込んでヌルッてなったらどうする!と小粋は怒りたくなったが、後々面倒くさそうなので甘んじてそれを受け入れた。
往復スイカバービンタだった。
途中で中身が弾けてスイカバーの種(チョコ)
が飛び散り壁や床などに張り付いたりした。
小粋は強くひっぱたかれる頬と、強く拳を握りしめすぎて爪が肌に食い込む痛みに耐えながら、環境汚染ってこういう気持ちから生み出せれるんだな……と、密かに思った。
「続きは書きますからもうちょっと待ってくれませんか」
「何度目のセリフだよ」
「痛い痛い頬凍傷になる。スイカバーが目に刺さっちゃう」
「黙ってろ」
数十分くらいかけてビンタされ続け、溶けだして持ち手がねとねとになったスイカバーを、アザフチは強制的に小粋の口に突っ込んだ。
「飽きたわ。もう出る。次、締切逃したらお前の目玉の上で線香花火してお前の目玉を時限式線香花火にするからな」
「溶かされるって事ですね。ハードだなあ」
「はよ書けよ」
ガチャ、と懺悔室の鍵が再び閉められ、裸電球の明かりをつけて小粋は机に向かった。
目玉一個失うだけで、アザフチとワクワクふれあいパークが開園するなら安い買い物だなと思いながら。
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