因習村とアザフチ
「……豊饒村水無月殺人事件?」
アザフチは抹茶フラペチーノを片手に渡された資料と睨めっこをした。
「うん。あすこの作家さんが、コレを次の話の舞台にしたいんだって聞かなくってさ」
「へぇ。それはまァ熱心なこって」
ある日の午後の事である。昼飯を食べ終え、さて一眠りでもしようかしら。と思っていた時、アザフチは自分の上司であるコヨリちゃんに呼び出された。
そこで渡されたのが『豊饒村水無月殺人事件』の資料だった。
豊饒村水無月殺人事件。名の通り六月の昭和日本に起きた悲惨な殺人事件である。
犯人の名はクチナシ・ゴロウ。現行犯逮捕されたが、何故かその場で直ぐ首を切り落とされたらしい。カタカナ表記なのは漢字の書きが擦れて読めず、辛うじてフリガナだけは読めたからなのだとか。
被害者は即死三十人、重症のち死亡が四人の計三十四人にのぼる。村人の殆どがこの事件で命を落とし、この事件の全容を知る者は数えられる程しかいない。
そして、何故このような事件が起こったのかと言うと、豊饒村に残る風習が原因だった。
豊饒村では十四歳になった娘は夜這いの対象となり、孕ませた者の嫁に行くという歪な風習があった。
そんな風習の対象となったのが犯人ゴロウの妹(名前不明)であった。
醜男のゴロウとは違って、目麗しくすれ違った者をみな虜にするような風貌をしていたという妹を我がものにしようという考えは多く居たらしい。
そこで、取り合いになるのを避ける為という名目の元、妹は深夜未明、村の男共に連れ去られ強姦された。
そして翌朝には絞殺された状態で見つかり、それに対してゴロウは激昂し、妹の骸を抱きながら牛刀を持って、泣き叫びながら村を駆け回り、首謀者であった男共を殺した後、この歪な風習を当たり前のように思っていた村人達をなりふり構わず刺し殺した……という。
その舞台となった豊饒村は、××市の山深くにある廃村である。今はもう既に人は居らず、朽ち果てた民家が立ち並んでいる集落であった。
だがその村の麓に、その水無月殺人事件を知っている一人の老人が住んでいるのだとか。
それを聞いた作家が、取材の為にアザフチをそこへ向かわせろと言うのだ。
横暴というかなんと言うか。だが作家大先生とコヨリちゃんに行けと言われてしまえば「嫌です」なんて言えない。アザフチは自分のケツが大事なのである。
「出る、とかないよな」
「はは、お前みたいな奴でも幽霊は嫌いなんだ」
「いや別にそんなじゃないけどまあ確認取っとこうかな?みたいな?感じで?」
「焦んなよビビってんのわかってっから」
「ビビってないわバカ」
暫し言い合いを繰り広げていた所で、コヨリちゃんの鋭い視線が絶対に行くよな。と心の中に染み込んでくるくらいになってきた頃、アザフチはついに折れて、資料を手に取っていやいや立ち上がった。
「わかりましたよ行きますよもおーーー」
「いい返事だね!よろしくね!」
この後村に向かってクチナシ・ゴロウの生首(もう骨)にご対面したり、死んだはずの妹がアザフチの枕元にやってきて腹から赤子が出てきたり、老人があの日の牛刀を持ってたりするワクワクランドが始まる。
書く気は無いので〆
参考:津山三十人殺し
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