焼肉とアザフチ

「ザフチさん嫌いな女とか居ないんですか」

「あに(何)、急に」

そう田口に問われたのは、アザフチがほぼ丸焦げ状態になった焼肉をムシャムシャと頬張っていた時だった。

二人は互いに奉仕される(コヨリちゃんが場を支配してしまう為)立場であるので、己から肉を焼くという作業をしない。故に、適当に網に乗せるだけして放置してしまう事が多々あるので、マシな肉を食べた事がない。

焼肉の管理というタスクが頭の中からスッポリと抜け落ちているのだ。

「イヤ、アザフチさん交友関係広いし、近くに女の子がサブスクかってぐらいいるし、一人くらい嫌いな女の子はいるよなって」

「ただの穴に価値なんてなくね?」

「フェミに喉仏潰されろ」

田口はいちごサワーを飲みながらそう返した。それを聞いてアザフチは(´・ω・`)と一昔前の顔をして、ンーと考える振りをしながらトントンとこめかみを手で叩いた。

考える脳が無い癖に女絡みになると頭の回転が早くなるのだ。

「強いて言うなら、きっと自分の中身を見てくれるはずって女が嫌い。見るわけねーだろ。人は見た目が100パーセントだ」

「すっぴんが嫌いて事……?」

「そういう訳でも。オレは化粧を強要しない。すっぴんでも自分を誇れるならそれでもいいと思う。けど、何も自分に思わずただ自堕落な性格のままに、いつか王子様が……って夢見る女が嫌い。蛙とセックスしてしまえばいいのにな。ハハ」

ア、スマセ杏仁豆腐下さい。と近くに居た店員に話しかけながら、アザフチは答えた。

田口は別にそこまで答えなくてもいいのになぁと言う気持ちと、蛙とセックスするには体格差がありすぎるんじゃないかなと心配になった。彼は心優しい青年であるので。


今でこそ焼肉に行ったり遊びに出掛けたりするくらいに仲の良いアザフチと田口であるが、出会って初めの頃、田口はアザフチの女関係が苦手で、だらしのない男だと思っていた。

アザフチは毎回、スタバの期間限定フラペが美味いって元カノ1から聞いた。とか、リプモンが良すぎて手放せないって元カノ2が言ってた。とかを平気で会話の中に入れられるのだ。

それをされる度に、田口は今俺といるのに……!?という気持ちになっていた。俺……といるのに別の人間の話……!?ともなる。

今となってはアザフチにとって彼女という存在はあって当たり前のもので、取り上げる事が出来ない物なんだろうと理解している。


だからこそ苦手な女を聞いてみた。

ら、この回答である。彼は案外許容範囲が広いらしい。社会に出るとすっぴんがマナー違反とされるこの世に、彼は寛容であるらしい。すっぴんである事がマナー違反となるこの世が異常なんだろうけれど。

田口の周りには己から進んで化粧をする人間が多々居る。けれど、自分はそれに感化される訳でもなくありのままで過ごしている。

自分如きがそんな、と謙遜しているという事ではないが、別に化粧をしてどうなるという訳でもなし、じゃあやらない。を選んだだけなのだ。

コヨリちゃんや樹麗穴(此奴は不服そうであったが)は強要する事をしない。すれば同じ立場に上がれるよ、と言わないのだ。

化粧一つで何にも変わんないのなら別にいいし、それならやんなくていいじゃん。という田口のそのスタンスがアザフチに伝わって、今この外見はすっ飛ばして中身云々が……になったのだ。

アザフチも田口に会うまでは化粧必須主義者であったが、田口のその精神をコヨリちゃんから聞いて、寛容になっていったらしい。

そのおかげで色んな女から良い意味でも悪い意味でも好かれていったので結局win-win状態になっている。

感謝するかと言われたらしないのだが。

そしてそれを田口に直接伝える事もしないのだ。無言でいる事がかっこいいとアザフチは思っているし、また田口もそう思っているからだ。

互いに色々思いあったところで、二人は肉の乗った網を見た。

焦げて火柱が上がっていた。


「……また焦げた」

「もう焼肉行くのやめません?」

「そうしよう。や、違うわ。俺が肉焼くの上手い女作ればいいだけだわ」

「名案」


乾杯。とグラスをぶつけあったところで、二人はまた肉を適当に網の上に乗せるのであった。

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