死体とアザフチ
「私が死んだら、死体を庭先に埋めてよ」
そう小粋な馬鹿が言っていた気がする。だから俺は、それに従って夏の蒸し暑い夜の中で、必死にスコップを使って土を掘っていた。
正気か?と自分に聴きたくなる事もあるが、彼奴の最後の頼みなら何故か叶えてやりたいと思ってしまったのである。
汗は頬をつたい、白いTシャツにシミを広げて執拗にこびりつく。
小粋な馬鹿の死体は、そんな俺を馬鹿にするかのように、汗ひとつかかず横たわって眠りについている。死んでいるから当たり前なのだけれど。
ちなみに何故死体になってしまったのか、俺は一切覚えていない。ふと、死体だと思ってみたら、それはまぁ驚くことに息をしていなくて、ポックリ逝ってしまったわけだ。
サッサと腐る前に埋めておきたい。腐って家の床に染み付いたら困る。
とりあえず近くにあった香水をつけてやった。死臭と共にやってくるフローラルの香りってこんなに嫌な気持ちになるんだと気が付いた。
二、三時間して、穴はようやく出来上がった。空は段々と明るくなってきている。
適当に穴の中に小粋な馬鹿の死体を放り投げて、庭で摘んだ花を投げ入れる。ついでに吸い終わって其の儘咥えていた煙草も。
土を被せられ、姿を消して地に沈められていく女の顔の、醜悪さたるや。
よし、これで寝れるか。と思い、踵を返して家に入ろうとしたところで、声が聞こえた。
「ねぇ」
小粋な馬鹿の声だった、気がする。
定かでは無い。だが何度も聞いた。
「一寸、何してるの」
「______もしもし」
「足が寒いわ。それに目も見えない」
「言えよ」
「ヤダ、歯が抜けたわ」
「言えってば」
「……」
「出来ないか。そりゃ言えないよな」
お前はいないもんな。
ポツリとそう告げると、声は次第に押し黙って、遂には止んだ。
慣れないことをしたのか腹が減った。取り敢えず今日は寝ないで、マックでも買いに行くかと決めた。
どのハンバーガーにしようか。と考えながら、俺は歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます