星空とアザフチ
「あれ」
アザフチさんが縁側に横たわっていた。編集作業に疲れて寝てしまったのだろうか。
しかし床にずっと居ては体に支障をきたすかもしれない。取り敢えず起こしてあげようと近付き、体を揺さぶってみた。
起きる気配がない。し、何やら硬い。石のように硬直している。
「ちょっと、アザフチさん」
ゴトリ。と鈍い音と共に、アザフチさんは縁側から落ちてしまった。昨日は雨の日で土が湿っており、服が泥まみれになっている。
あー怒られるわ。どうしようかと考えていても、アザフチは目を覚まさない。
「どうしたの、ねえ____ア」
強く服を引っ張ってしまったせいで服を破いてしまった。相当お高い生地の良い物を。
しかし、それよりも私はアザフチさんの『中身』の方に目がいってしまった。
普通なら柔肌に覆われた体があるのに、そこには宇宙が広がっていた。深い青紫色のようなものに、星屑が煌めき、遠くの方にはこうごうと輝く太陽が見える。
私はそこで、何を思ったのかその宇宙の中に手を伸ばしてみることにした。
ズブ、と水の中に手を入れた感触と共に、星屑がこつんと指先に当たる。その衝撃でか、星屑が体から溢れて零れ落ちてしまった。
入れていない方の手で拾い上げてまじまじと見つめてみると、それは金平糖の様だった。
周りに誰もいない事と、アザフチが目を覚ましていないのを確認して、私はエイヤッとそれを口に含んでみた。
甘い。ジャリジャリと噛んでみると何味とも言い表せない甘味が押し寄せてくる。
頭の中でチカチカと星が煌めき、私もその宇宙の一部になってしまうんじゃないかと思ってしまう程だった。
もう一個、もう一個と食べていくうちに、星はいつの間にか全て無くなってしまっていた。
残念がる私を他所に、太陽は未だ輝く。
嗚呼、そうか。それを食べれば__。
「それは駄目」
いつの間にか起きたアザフチさんに手を掴まれ、私は太陽に手を掠ることなく取り出されていた。
「おはようございます」
「あー、うん。おはよう」
「作業、進めましょうか」
「何も聞かないのか」
「何が?」
あの甘みを忘れない内に、私はアザフチさんにこう返した。
「貴方なら、それでもおかしくないなって」
その日から、空に星が彩られる事は無かった。
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