幽霊とアザフチ

「幽霊って美人な奴多くない?」

コヨリちゃんはタピオカミルクティーを飲みながら、横に座るアザフチに話し掛けた。深夜2時、なかなか終わりの見えない編集の仕事からの逃避行に、録画していた夏の特番ホラー特集を事務所で見ていた時の事である。

アザフチはその時、幽霊がイエベなのかブルベなのかを考えるので必死だったのでほぼ聞こえていなかった。邪魔されたからかアザフチは「えなんか言いました?今」と面倒くさそうに返答した。

「や、幽霊って美人な奴多いよなって」

「オレの好みはブルベ冬かな……」

「何言ってんのコイツ」

ズゴゴゴと大きい音を立ててタピオカを吸い終えたコヨリちゃんは煙草を1本取りだし、火をつけた。

「……そういやさ、ボクが高校の時、すっげー有名な心霊スポットあったんだよね」

「あ〜。オレも知ってます。××トンネルですよね、確か」

「暇だからさ、そこで幽霊にナンパしてさ、負けたら回らない寿司奢りゲームしようよ」

「負ける気がしねえんだけど」

アザフチは四足歩行でロッカー室に入って五分くらい経った後、コヨリちゃんに買ってもらったオキニのセットアップを着て出てきた。マジで勝ちに行こうとしているんだな、とコヨリちゃんは理解した。しかもサングラスまでかけている。夜なのに。

「お前さー、前俺と買ったおそろっちの服きてこいよ。ペアルックしようよ」

「バカめ。ナンパする幽霊に「えっ、そういう関係?」って思われたらどうすんすか。幽霊ウケ悪いだろ」

「幽霊ウケとか考えてんだ……」

コヨリちゃんも重い腰を上げてモソモソと着替え出し、ポケットに携帯と財布を雑に入れて2本目の煙草に火をつける。アザフチはコンビニで酒買ってから行こうぜと欠伸をして、棚から塩を、冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲んだ。

「トンネルまでどんくらいある?」

「車飛ばしゃ40分くらいで着きますよ。俺運転しますんで」

「ヤッタ〜!持つべきは免許持ちの部下」

「そろそろ自分の取ってくださいよ」

「や、人殺しするくらいなら持ってない方がいいから。むしろ車そのものがムリ」

「じゃあなんで今行くんだよ」

特になんの計画もなく、灰皿に煙草を押し付けてアザフチとコヨリちゃんは靴を履いて車に向かった。車内は若干生暖かく、芳香剤の匂いが鼻の奥までツン、と届いた。

高速に乗ると2人は自然にテンションが上がりバイブスブチアゲで音楽を聴き始めた。コヨリちゃんは塩を舐めながら何だかんだでソワソワし始めた。心霊スポットにいくなんて何時ぶりだろう、と。

あとどうせ行くんなら、たぐっちゃんも呼んどけば良かったわ、と。


「オイ窓閉めろ!幽霊共が大群で突撃隣の晩御飯しに来るぞッ!アザフチッ!死にたくなきゃアクセル全開にしろや!!」

「オケ!60キロは守ります!」

「飲酒運転しといて何言ってんだよスっ殺すぞボケが!!いいから踏めバカタレが!!」

「は?コヨリちゃんだって人殺したけど自分の中の法律には触れてないから無罪笑っつってたじゃん。この先地獄しかないからまだまだ悪さするわって。社内報に書いてあんの覚えてっからな。その後社長に呼ばれてたし」

「ふざけんな何で覚えてんだよ殺すぞバカクソアザフチ万年童貞野郎がよォーーーーーッッッッッッ!!!!!!」

ナンパなんてしに行くもんじゃないとコヨリちゃんは思った。

何故かって、今そのいわく付きトンネルの中にいて、恐怖にかられたアザフチが車の中に置いていたギターを振り回して威嚇しだし、幽霊を閉じ込めていたらしい仏像をぶっ壊したからだ。

それに気付いたコヨリちゃんは死ぬ程焦り、アザフチの首根っこを掴んで車に飛び乗った。自分が免許持ってないくせして運転席に乗ったり、間違えて靴を脱ぎ出したり(汗ダクだったので取り敢えず涼しくなりたかった)

幽霊なんてウソさなんて歌ったのは誰だったかしら。ここに呼び出して後悔させたい。


そんな事を思いながら、二人はトンネルから逃げ出したのであった。

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