花札とアザフチ
____勝った。
田口は直感でそう思った。手札には月見と花見、そして盃がある。これだけで『のみ』が完成している。合計10点。余裕勝ち、サヨナラホームランってワケである。
何故花札をしているのかと言うと、仕事に飽きたアザフチが花札をやりたいとクソガキ同然に暴れだし、それに見兼ねたコヨリちゃんが事務所まで田口(バイト中だった)を呼び出したのだ。
そして菓子やジュースを与えた後、じゃあコイツと花札やってねと言われては、事務所の一室に閉じ込められた。
いや、なんで?
なんで俺フチさんとやってんの?
俺だって仕事あるんだけど?
そう疑問を持つが勝負は勝負。しかも金まで賭けられたなら、勝つしかない。
とか言って十回戦目で今に至る。
ここまでの結果はボロ負け。田口はカスをチマチマ集めて上がるだけで、アザフチは赤短や猪鹿蝶、タネなどでイッキにこいこいし、三光を叩き出す。憎らしいくらい運に恵まれているのだ。
財布にはもう百円しかない。自販機のジュース一本も飲めない値段まできている。
アザフチはこれみよがしに千円札の枚数を数えだし、お菊さんよろしくねっとりボイスで「いちまぁーい、にまぁーい」と言い出す。
殺意しか生まれない。
田口は集中するあまり、疲労と暑さで額に汗を浮かべていた。頭を常に回転させている為、気が休まらずボウッとする。
マジで負けたくない。負けたらコヨリちゃんに見せる顔がないしもう一生抱かれないかもしんない。あと坊主にされる。
不安も押し寄せてきた。もう二度と花札なんて見たかねえや。と田口は思う。
そして、最終戦は幕を切られたのだ。
そいで冒頭に戻る。確かに田口の手札はありがたい事に『のみ』が成立している。
しかしそれも場に出せればの話。合札が無ければ意味もないし、アザフチに持っていかれたら終わりなのである。
取れるものとすれば、場にある桜に幕のカス札と菊に盃のタン。手札にある牡丹に蝶のタンと紅葉に鹿のカスがある。青タンも狙えるかもしれない。
もしかしたらの役も含めて15点もいける。イヤ、これは勝ちましたでしょと田口は内心でガッツポーズをした。
深く息を吸って勝負に出るぞと思った、その時である。
バン!と勢いよく部屋の扉が開かれた。そこで現れたのはみんな大好きキュートなコヨリちゃんである。
負け続けになった俺を励ましにきてくれたの!?と抱きつこうとしたが、コヨリちゃんは一目散にアザフチに駆け寄った。
「お前!!会社のプリンターで偽札作ったって本当か!!!!!!」
地声のコヨリちゃん。ガチギレである。
何とこのアザフチ、会社のプリンターを利用して日々偽札作りに励んでいたのだ。
居酒屋によってべろっべろに酔っ払った際に、隣の席のおぢさんに話したのか饒舌に偽札作りについて語ったらしく、警察にタレこまれたらしい。
怒るコヨリちゃんは誰にも止めることは出来ない。結果コヨリちゃんは机の上で派手に暴れて場をなぁなぁにして、勝負を有耶無耶にしてしまった。
金だけを奪われてしまったまま、田口の賭け花札は終了したのだった。
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