珈琲とアザフチ
「アレ、字淵さん珈琲苦手でしたっけ」
午後三時。アザフチと田口はコメダ珈琲に来ていた。
本来ならコヨリちゃん家での打ち合わせを終えて風俗でも行こうかな!と呑気ぶってたアザフチだったが、急にキッチンの奥から家事を終えた田口が現れ「シロノワールが食べたい」と言って聞かないのである。
急にTwitterで流れてきて口の中がもうシロノワールとかほざくのだ。パイ投げのパイをシロノワールでやりたいとかも言い出した。
たびたいたびたいとマァ五歳児よろしく喚くものだから、それに耐えかねたコヨリちゃんが、アザフチを連れてコメダ珈琲行ってこいと言い放ったのだ。
アザフチはそれを聞いて、此奴のピンヒールのつま先だけハサミで切り落としちゃおっかなと思った。本当に面倒くさいのである。
じゃあコヨリちゃんが行けばいいじゃないのと思えど、コヨリちゃんはあくまでも編集長なので結構忙しい。(決してアザフチが暇人というワケではない)
そいでやっと行列を並んで、席に着いたところでシロノワールとクリームソーダとアイスティーを頼んで冒頭に至る。
「別に苦手じゃねえよ。ストレートグラス以外の容器全部アレルギーだから」
「コメダの入れ物全部ファンシーですもんね」
「25の男がこのグラス両手で持って可愛こぶりながら飲むのキッツイだろ」
「頼んだ俺に謝ってください」
「ごめんね゛!(元気)」
そんなたわいもない話を二十分程して、注文した品物が次々とテーブルに乗る。田口は念願のシロノワールに出会って目をキラキラさせた。
そうして田口は、気分がいい時に出てくる音符みたいなのを撒き散らしながらナイフとフォークを取って、シロノワールを切り分けてあんぐり口を開けてまむまむと食べ出した。
アザフチは(成程これはコヨリちゃんが好きになるわけだわ)と納得した。
コヨリちゃんは集中して何かを食べるガキンチョを見るのが大好きだった。時々ものでいっぱいになって膨らんだほっぺをつついてたりして、ガキンチョに怒らりても懲りずにやるような人だった。田口からはそんなガキンチョの雰囲気がするのだ。
「うめ〜〜〜〜Twitterホントに深夜にシロノワール流すのやめて欲しいですわ」
「良かったね」
「いや、もう、一緒に来てくれてありがとうございます」
「食べてから話せや」
アザフチはチゥ、とアイスティーの中に入っていたレモンを吸った。これをするとちょっと心がスっとするのだ。ちょっと苦いけど。
「てか話戻すンですけど、字淵さん珈琲苦手でもないのになんで頼まなかったんですか?」
そう言いながら、田口はシロノワールとクリームソーダを見ながらヤベダブルソフトになっちゃったと漏らした。
「この前ウチ来た時、普通にお高い珈琲飲んだじゃないですか。あの豆から挽いたヤツ。あん時字淵さんが急に豆のままポリポリいったから引いたンすよ。麦チョコと間違えたかと思っちゃった」
「もうそれ忘れて」
アザフチは腹いせにシロノワールの一切れを横どった。シロップを全部かけたせいで甘ったるい。
「イヤさ、オレの11?9?番目くらいの元カノピがさ、来る度に毎回珈琲いれたげるね♡っつって言ってくれてさ。そんで毎回感激しちゃってさ、ある日どんな感じにいれてくれんのかなって好奇心でキッチン覗いたらさ」
「覗いたら?」
「中に唾液入れてやがったんだよあのクソ。愛が続くおまじない♡ってさ。知らねえよ」
「トラウマ級じゃん!怖!!!!」
ダブルソフトの冷えとほん怖の冷えが一気に来て末端冷え性超えて中心冷え性になっちゃうかと思ちた……とズゾ、とクリームソーダを大きな音を立てながら吸い終わったところで、田口は天井を仰いだ。
「ンー、なんて言うかさ」
「ウン」
「次はエスプレッソいってみる?」
「死ねバカ。勝手にカルディー行け」
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