逢食社編
元カノとアザフチ
「コヨリちゃん包帯!包帯頂戴!ア、もうガムテでいいわ!巻いて!マジで開けて!」
夜の二十時。コヨリちゃんはきゅうりのキューちゃんと塩を片手に、お気に入りの午後ティーの焼酎割りを持って酒盛りしていた。愛しのパートナーである田口は風呂に入っていたので、その声が聞こえることは無かった。
コヨリちゃんは声を聞くに、自分の部下であるアザフチだろうな、と直ぐに理解した。また小粋な馬鹿とかいう頓珍漢な名前をした女の原稿を海に投げ捨てたか、家賃が払えず追い出されたか、遂に自分に抱かれる気になったか、色んな考えをコヨリちゃんは頭の中で巡らせていた。
「あ〜〜い。どしたのアザフチくん」
ゆっくりと玄関を開けるとそこには顔を腫らしたアザフチがいた。何時もの美丈夫な顔とは程遠い、なんとも醜い姿をしている。しかも服には赤黒い何かがついている。……そして、あの特有の匂いも。
「巻いて巻いて。血止まらんウケる」
「ア〜〜〜もう何?煩いンだけど。何あったの。てか包帯とかガムテって何?」
そうコヨリちゃんが言うと、アザフチは背中を見せるように後ろを向いた。そこには、何か鋭いものでつかれたのか、穴が空いていた。しかも丁寧に「みこち♡」と読みやすい。穴からは血が止めどなく溢れていて、玄関までの道を見ると、赤い点々が地を染めていた。何かもうコヨリちゃんの家で殺人事件が起こったんじゃないかと周りの人が勘違いするくらいに。
そんなアザフチの傷を見たコヨリちゃんは
「ワ"〜〜〜〜〜wwwwwwwwwwwwwwwwwwww血出てる〜〜〜!wwwwwwwwwww人って人が血流してるとこみたらウッカリ笑っちゃうんだね。初耳学に認定。ナニコレ珍百景」
大笑いである。コレで上司なんだろうか。
「珍百景は違うだろもうなんでもいい死ぬ死ぬ死ぬ。早く巻いてマジで。元カノが家に来て急にアイスピックで刺してきたんすよ」
「あンらも〜〜〜腕まで血滴ってるよ。エ?待って右腕も刺されてんじゃん」
コヨリちゃんが指さしたその場所は、アザフチが元カノとオソロで入れていた刺青があった。十字架に元カノみこちの名前があるなんとも言えないダサセンスであった。アザフチはそれを見てコヨリちゃんの煙草を勝手に拝借し、血をしたたり落としながら、一服した。そしてその煙草を、元カノの名前の上にジュッ!と押し当てた。アザフチはキレていた。そらそうだ。自分にとってはタダの穴だった女が、急に牙を向けて自分を殺そうとしてきたんだから。
「違うわそんな事してる暇ないよアザフチくん。風呂場行こ。血どうにかしよ!」
「畜生腹減ってきた。ジョジョ苑の肉食う前にオレ死ぬんかな。ヤダな」
「弱気になんなよも〜〜〜生きてたらたぐっちゃん(コヨリちゃんは田口の事をこう呼んでいる)の飯食べさしたげるから」
「そこはジョジョ苑連れてけよバカタレ」
二人はヨタヨタしながら風呂場に向かった。しかし忘れることなかれ、風呂にはゆっくりバスタイムを楽しんでいた田口が居たのだ。おろしたてのSABONのボディスクラブでコヨリちゃんとの甘い夜を夢見て自分磨きをしていたのだ。
はふんはふんハミングを言わせながら湯に使っていた田口は、いきなりドアを開けてやってきた二人に全てを台無しにされた。
「え!?え何、え字淵さんどしたンすかその怪我。いやその前になんで俺風呂入ってんのに平気で入んの?ちょっと待って?」
ケツの穴洗浄する前で良かった〜と田口は胸を撫で下ろした。流石にアザフチ交えて3Pする気はないからだ。
「たぐっちゃんごめん。アザフチ死ぬかも」
「嘘。ここ事件現場になります!?」
「死なねえよ早く包帯巻いてってば」
アザフチは歯の隙間から息を吸うようにして痛みを誤魔化したりしていた。お湯でサッと身体に着いた血を流し、適当に消毒する。コヨリちゃんは汗だくになりながら包帯を巻いて、それが解けないように繋ぎ目をガムテで固定した。田口は何もすることが無かったので、優雅に風呂の中で映画を見ていた。
コヨリちゃんはアザフチを軽々と持ち上げてソファに横たわらせた。田口の作ったねばねば丼(オクラとか納豆とかのったやつ)をモソモソ食わせ、寝ろ!!!!!と叫んだ。
アザフチは食いながら、これ怪我人に食わすもんじゃねえだろと思った。でも美味かったので何も言わなかった。
終始無言が続き、その沈黙を破るのは、血だらけになった玄関を見た田口の叫び声である。
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