魔道伯爵に買われたドアマット令嬢は、溺愛される運命です

uribou

第1話

 『ドアマット令嬢』という言葉を御存じでしょうか?

 ドアマットのように踏みつけにされる、わたしみたいな虐待される貴族の娘のことです。

 もっともわたしはノックス子爵家の正統な娘ではあっても、貴族学校に通わせてもらっていないから、誰も貴族として認識してはいないのでしょうね。


 五年前にノックス子爵家の当主であった父と母を事故で亡くしました。

 跡継ぎは一人娘のわたしですが、成人するまで子爵位は継げないため何もできません。

 叔父一家が乗り込んできて、子爵代行と称して家のことも領のことも仕切っています。


 ダドリー叔父はわたしのことを死ねばいいと思っていると思います。

 わたしがいなくなれば、正式にノックス子爵家を継げるから。

 正式な跡継ぎたる私を殺し、それが明るみに出たりすれば叔父も死刑ですので、手をこまねいているだけでしょう。


 しかし使用人以下の扱い、貴族学校にも通わせてもらえないとなれば、将来の想像はつきます。

 学校にも通えないほどの不出来な娘として非を鳴らし、自分が子爵位に就くつもりでしょう。

 悔しいです。


 ところが意外な展開になりました。


          ◇

 

「よいであるか? 吾輩はダドリー子爵代行からそなたシンシア嬢を買ったのである。どう扱っても文句を言わないという契約になっているである」

「はい」


 目の前の方はサディアス・バスカヴィル様。

 若くしてバスカヴィル伯爵家当主となった俊英であるということは、社交に疎いわたしでも知っています。

 何故ならサディアス様は魔道伯爵として近年有名でありますから。


 サディアス様の専門分野は呪いであるらしいです。

 感謝している人も恐れている人もたくさんいると言います。

 が、謎めいた方なのです。

 わたしはそんなサディアス様に買われてしまいました。

 買われる、というのは心が冷えますね。


「シンシア嬢はバスカヴィル家預かりとなるである。今後はシンシア・バスカヴィルと名乗るがいいである」

「はい」

「シンシア嬢には吾輩の研究に付き合ってもらうである」

「はい」


 ああ、やっぱり。

 わたしは呪術の対象とされてしまうのでしょう。


 ダドリー叔父の企みはわかります。

 格上のバスカヴィル伯爵家の頼みであるから、私を養女として引き渡した。

 これで合法的に叔父は子爵を継げることになります。


 しかし、バスカヴィルを名乗ってよいとはどういうことでしょう?

 都合よく捉えれば、私の後見人になってくれる?

 ダドリー叔父に対する牽制で?

 もちろんバスカヴィル家の後押しで、成人後にわたしが子爵を継ぐ目はありますけれども、おそらく……。


「ああ、シンシア嬢をバスカヴィル家で引き取ったことで、ノックス子爵家はダドリー殿が継ぐと思うである。ただしシンシア嬢の成人後である」


 やはり。

 そういう契約だったんですね。

 ノックス子爵家は乗っ取られてしまいました。

 お父様お母様、ごめんなさい。


「シンシア嬢がせねばならんことは、まず、食事をたくさん取ることである」

「はい?」

「でなければ身体が耐えられぬ」


 かなりきつい呪術実験の対象にされるようです。


「それからシンシア嬢は来春から貴族学校高等部に入学の年齢であろう?」

「えっ? わたしは初等部に通学していませんでしたが」

「高等部から編入で一向に構わぬであろう? 珍しくはないである」


 どうやら貴族学校に通わせてもらえるようです。

 ……私をきちんと養育していた、という実績が欲しいのでしょう。

 その後呪い殺されるのかもしれませんが、いい思い出にはなりそう。


「ありがとうございます」

「礼はまだ早いである。バスカヴィルの名を辱められては迷惑である。入学までゴリゴリ勉強してもらうである」


 ひ、ひええええ!

 予想外の苦役が!


          ◇


 ――――――――――サディアス・バスカヴィル魔道伯爵視点。


 父上母上がうるさいのである。

 伯爵位を継いだのであるから、早く嫁を娶れと。

 吾輩の魔道の実績を慮って伯爵位を譲ってくれたのではないであるか?

 詐欺に遭った気分である。


 吾輩研究オタクであるからして、社交は苦手である。

 伯爵家当主ともなれば、夫人になりたがる者がいくらでもいると思っていた。

 いや、父上母上もそう考えていたようである。

 計算外であった。


 パーティーに出席してみても、『魔道伯爵』の異名だけが独り歩きしているである。

 遠巻きで吾輩を見てヒソヒソ話をしているだけである。

 いたたまれないである。


 父上母上も配偶者候補を探してくれていたであるが、うまくいかなかったである。

 吾輩が呪いの研究をしていると、気味悪がられているようで。

 いや、吾輩の研究は貴重であるため、盗まれたり不埒な者が近寄ったりしないように、威圧感を演出している面はあったである。

 完全に裏目に出ているである。


 父上母上も気が気でないようで、領から矢のような催促である。

 そこで吾輩一計を案じたである。

 令嬢を買えばいいである。


 家の都合により、いなくていい令嬢、邪魔な令嬢というものがいるである。

 そういう令嬢はどうせいい扱いを受けていないであるから、吾輩が引き取れば喜ぶであろう。

 ウィンウィンである。

 さすが吾輩である。


 各家を調査し、ノックス子爵家のシンシア嬢に狙いを定めたである。

 ノックス子爵家は不幸な事故で当主を亡くし、弟ダドリーが子爵家を乗っ取ろうとしているのがありありとわかって笑えるである。

 笑えぬのが正統な後継者たるべきシンシア嬢の境遇である。


 何と貴族学校にも通っていないである。

 下女以下の仕事をさせられているである。

 とても痩せていて、ロクな食事を食べさせてもらってないのが理解できるである。

 しかし吾輩の曇りなき眼は、薄汚れていても貧相でもシンシア嬢が美しいことを見抜いたである。

 薄幸の美少女、ツボである。


 早速シンシア嬢を引き取ることにしたである。

 しかし……シンシア嬢を間近で見て気付いたである。

 呪われているであるな。

 徐々に効果が強まるタイプの呪いと見た。

 誰かが呪い殺そうとしているであるか?

 大方ノックス子爵家を乗っ取ろうとする、バカなダドリーの仕業であろう。


 構わぬ。

 吾輩は呪術のプロフェッショナルであるからして。

 術者にも心当たりがあるである。

 また吾輩の研究にも役立つである。

 シンシア嬢に協力してもらえばいいである。


 ふむ、楽しい毎日が始まるであるな。


          ◇


 ――――――――――シンシア視点。


 高等部編入のための勉強は地獄でした。

 ひい。

 家庭教師の先生から何とか合格をもらい、サディアス様も御満悦のようでした。

 わたしも達成感がありますね。


「シンシア嬢、よくやったである!」

「ありがとうございます」


 あれ? お父様とお母様を失ってから、他人に褒められたのは初めてのような気がします。

 自然に涙が溢れてきてしまいました。


「ど、どうしたであるか?」

「いえ、何でもないのです。ただ嬉しくて」

「そうであったか。ビックリしたである」


 うふふ、サディアス様も可愛いところがあるんですね。


「ところでシンシア嬢、このペンダントを毎日肌身離さず着けておくである」

「はい? ありがとうございます」


 大きな宝石の……いえ、これは魔石でしょうか。

 では単なるプレゼントというわけではなく、何らかの魔道具?

 ということは呪術の研究?


「貴族学校に行く時も忘れずにな」

「あのう、貴族学校の入学規則では、派手なアクセサリーは禁止されているのです」

「そうであったか。では校長宛てに連絡しておくである。これは吾輩の研究であるから許容するようにと」


 やはりサディアス様の研究でしたか。


「しかしシンシア嬢に迷惑がかかってもよろしくないな。早急に目立たぬよう小型化を進めるである」

「ありがとうございます」


 わたしへの配慮、ですか?

 呪術の実験台でしょうに、変なの。


「体調や感情の変化が出るようなら報告して欲しいである」

「わかりました」


 魔道具であることは間違いないですね。

 サディアス様の言う通りにいたしましょう。


 それにしても入学が楽しみですわ。


           ◇


 ――――――――――サディアス視点。


 シンシア嬢が貴族学校の高等部に編入、毎日が楽しそうである。


「出自について聞かれることが多いのです」

「ふむ、何と答えているであるか?」

「ノックス子爵家の出であるけれども、現在バスカヴィル伯爵家の預かりになっているのでそう名乗っていると」

「結構である。間違いないである」

「皆さんに取り巻かれて、色々質問されるんですよ」

「えっ? 何をであろうか?」

「サディアス様についてです」


 吾輩の何を聞くのであろうか?

 わけがわからぬである。


「サディアス様は、謎多き魔道伯爵として有名でいらっしゃるでしょう? 皆さん実態を知りたいのではないでしょうか?」

「シンシア嬢に質問が行くのであるか? 吾輩には誰も寄らぬのである」

「そうなのですか? サディアス様は威厳がおありになるので、近寄りがたいのでしょう」


 シンシア嬢とは話しやすいのであろうな。

 令嬢令息と親しく話せる話題があることはいいことである。


「まあ吾輩特に秘密にしていることはないである。何を話してくれても構わぬである」

「はい。サディアス様が大の甘党でこよなくスイーツを愛していることまで話してしまいますわ」

「それは勘弁してもらいたいである。吾輩のイメージがあるである」


 ころころ笑うシンシア嬢は素直で可愛らしいである。

 ペンダントを着けてから、よく笑い、よく喋るようになったである。

 呪いの効果が中和されている証拠であるな。


「シンシア嬢、ペンダントの効果はどうであろうか?」

「はい、着けていると気分がいい気がするんです」

「ふむ、もうしばらくそれを着けているといいである」

「はい」


 ……実は魔石を小型化したペンダントも完成しているのであるが、これではダメである。

 今のシンシア嬢は魅力的過ぎるである。

 高等部から編入したという話題性もあって、令息が群がってしまうである。

 令息に不埒な気を起こさせぬ効果を追加で実装せねばならぬである。


 ――――――――――ここからシンシア視点。


「サディアス様、高等部編入前の勉強のことですが」

「うむ、何であろう?」

「今考えると、内容が高度でありました。高等部で習う内容もかなり含まれていたのです」

「当たり前である。シンシア嬢が高等部で困らぬように教育してくれという注文であったゆえ」

「えっ?」


 初等部で習うことじゃなかったの?

 わたし、高度な教育を受けさせてもらっていたのですね。


「シンシア嬢はかなり覚えがいいと、家庭教師も言っていたである。吾輩も鼻が高いである」

「恥ずかしいですわ」


 サディアス様はお優しいです。

 わたしは魔道の実験体として買われてきたのではないのでしょうか?

 勘違いしてしまいそう。


「おかげで学業についてはほぼ問題なく」

「重畳である」


 サディアス様は本当にいい方です。

 呪術の研究者ということで、誤解されていることが多いのでしょうが。


「吾輩は社交が苦手であるから、シンシア嬢が交友を広げてくれると助かるである」

「わかりました」


 わたしはサディアス様に期待されているのですね。

 あっ、バスカヴィルを名乗ってよいというのは、評判を上げろということのようです。

 頑張ります。

 わたしは……サディアス様に期待し過ぎてはいけないのでしょうけれど。


            ◇


 ――――――――――サディアス視点。


 王都の裏町、まあ吾輩にとっては庭のようなものである。

 治安のよくない地区ではあるが、吾輩に絡んでくるような命知らずはおらぬである。

 目的の店はすぐそこにあるである。


「御免である」

「おや、魔道伯爵様じゃないか。久方ぶりだね」


 怪しい魔道具屋のおばばである。

 学生時代はよく小遣い稼ぎさせてもらったである。


「相変わらず怪しい店であるな」

「おや、御挨拶だね。何か入り用だったかい?」

「というわけではないであるが」

「おやおや、アタシが何にも知らないとでも思っているのかい? 伯爵はいい歳して結婚がまだだろう? ほれ」

「何であるか?」

「媚薬だよ、び、や、く。これが必要なんだろう?」


 とんでもない誤解である。

 吾輩、どう見られているであるか。


「買い物に来たわけではないである」

「じゃあ何の用なんだい? ああ、アタシ目的ならダメだよ。アタシゃ死んだ旦那に操を捧げているからね」


 とんでもない誤解である。

 吾輩、どう見られているであるか。


「ノックス子爵家のシンシア嬢と言われれば、心当たりがあるであろう?」

「ああ、伯爵にはバレちまったかい」

「おばばの呪いであることくらい、一目でわからいでか」

「で? 伯爵様も商売の仁義くらい心得てるだろう? 研究に利用したいんだろうけど、依頼者の個人情報は明かせないよ」

「シンシア嬢は吾輩の妻になる令嬢なのだ」

「えっ?」


 いや、まあ驚くだろうが。


「吾輩が妻を得ようとしていることはおばばの言う通りである。貴族家で邪険にされている娘を買ってくることを考えたである」

「ええ? 伯爵家の当主がやることじゃないだろう?」

「文句は結構である。吾輩はシンシア嬢を気に入っているである。今は魔道具で呪いの効果を中和しているであるが、触媒が揃い次第直ちに反呪するである」

「後生だ! やめとくれよ!」


 反呪すれば呪いは術者に跳ね返るであるから。

 解呪ならば呪いを消し去れるであるが、吾輩解呪は使えぬである。

 聖女クラスの聖魔術者でなければな。


「吾輩もおばばを巻き込みたいと思っているわけではないから、相談しに来たである」

「ど、どうすりゃいいかね?」

「結論から言うと、反呪することまでは決定である」

「ひっ……」

「反射された呪いがおばばでなく、依頼者に行けばいいである。依頼者のことを話せないというなら、吾輩が推測を話すである。間違っているなら首を振るである。いいであるか?」

「わ、わかったよ」

「依頼者は現在、ノックス子爵家の当主代行をしている」


 おばばは首を振らないである。

 やはりダドリーが黒幕か。


「依頼者はシンシア嬢を呪殺し、自らがノックス子爵家の当主たらんとした」


 反応なし。

 当然である。


「呪いの種類は『石動の呪い』である」


 おばばが少々驚いた顔をしているが動かない。

 これは個人情報関係ないから直接答えてくれてもいいのであるが。

 まあ呪いの種類が特定できればいいのである。


「呪いの開始時期は八ヶ月前、前後一ヶ月である」


 これもおばばは動かないである。

 ふむ、推測通りであるな。

 ため息を吐くおばば。


「やっぱり魔道伯爵様は大したものだねえ。全てお見通しじゃないか」

「反呪してもおばばにはほぼ問題ないよう制御するである」

「本当に頼むよ?」

「吾輩を信用するである」


 ハハッ、おばばが胸を撫で下ろしているである。


「反呪する時期はいつになるんだい? 触媒の入手に目処が立ったからアタシのところに来たんだろう?」


 呪いの種類を特定できていなかったのに、触媒の入手に取りかかってるわけはないだろう、というのは素人の言い草である。

 今日は確認に来ただけである。


「一ヶ月以内には」

「そうかい。ところで伯爵に一つ忠告だがね」

「何であるか?」

「アンタは朴念仁だから、シンシア嬢の心を掴んでいるとは言えないんじゃないかい?」

「えっ?」


 心を掴む?

 聞き慣れない言葉である。


「呪殺されるべきその身を買い取っただけではダメであるか?」

「はあ、ダメだねえ。全然なっちゃいないよ」


 ぐっ、全然ダメなのであるか?


「い、いやしかし、シンシア嬢は最近吾輩によく笑いかけてくれるのである」

「バカだねえ。野生の小鳥がエサをもらいに寄って来るくらいのレベルじゃないか」

「そ、そうなのであるか?」

「シンシア嬢に説明してることは何だい?」

「ダドリー子爵代行からシンシア嬢を買った、どう扱っても文句を言わないという契約になっていると伝えたである」

「本当にバカだね。嫁になってくれって一言も言ってないんじゃないか」

「ば、バスカヴィルを名乗ってよいとも……わかるであろう?」

「わかるわけないだろ。持ち物に名前を書くくらいの感覚だね。魔道実験のために買われたと思い込んでるだろうよ」

「ええ?」


 魔道実験のために買うなんて非人道的なことはしないである。

 もしするならば、家庭教師をつけたり学校に通わせたりするのはムダである。


「自分の評判を考えてみるんだね。何をするかわからない、最も怪しい貴族と思われているんだよ」

「……」


 怪しいおばばに言われるのは心外である。

 しかし言い返せないである。


「その賢い頭を使って考えるんだよ。気の利いたセリフをね」


          ◇


 ――――――――――シンシア視点。


 ダドリー叔父が亡くなって、ノックス子爵家がてんやわんやです。

 わたしがバスカヴィル家預かりになっているとは言え、正式に籍を移しているのではないため、私が成人して継承権を放棄するのでない限り、次期子爵であるのは変わりないそうで。

 知らなかったです。

 ノックス子爵家とは縁が切れたものと思っていました。


 わたしの手に余るので、サディアス様にお任せいたしましたが。


「えっ? 叔父一家を追い出したんですか?」


 確かにわたしにとってはいい思い出のない方々でしたが。


「理由があるである。シンシア嬢は呪われていたのである」

「呪……えっ?」

「人を呪わば穴二つとはよく言ったものである。反呪したらダドリー当主代行殿が死んだである」

「つまりわたしは叔父様に呪われていた?」

「正確には当主代行殿が呪いを委託した、であるな」


 なるほど、呪いなら足がつきにくいから。


「シンシア嬢の呪いの件について話したら、奥方は知っていたであるな。証拠はある、騒ぎにしないでやるから出ていけと言ったである。ノックス子爵家については、シンシア嬢が成人するまでバスカヴィル伯爵家管理下に置かれるである」

「はい」

「吾輩、実はシンシア嬢が当家に来た時、呪われていたことに気付いたである。それで研究に協力してくれと言ったである」

「研究と言いますと?」

「呪いの効果を中和するペンダントである」

「あっ、あれは呪いの効果を中和するものだったのですか?」


 道理で身に着けると気分がよくなったわけです。


「この度シンシア嬢を呪いから解放するための触媒が全て揃ったのでな。反呪の儀式を行い、その結果当主代行殿が死んだのである。因果応報である」

「よく理解できました」


 サディアス様はわたしを救ってくださった。

 でも何故?

 他に使い道があるから?


「吾輩最初からシンシア嬢を妻にするつもりで引き取ったである」

「えっ?」

「すまぬである。あえて言わなくても通じていると思っていたである。吾輩が婚約者ないし配偶者を探しているのは周知の事実であるから」


 かもしれないとは思っていました。

 学校の友人にも、魔道伯爵様って結婚してないんですよね、じゃあシンシア様がほぼ婚約者なのではとも言われましたし。

 が、都合のいい夢だとも思っていました。

 だってサディアス様は何も言ってくださらなかったから。


「ある人に言われたである、シンシア嬢は何もわかってないかもしれないと」

「……」

「反省したである。呪いが片付いたら告白しようと思ったである」

「……」

「いかがであろう?」


 サディアス様に抱きつきました。

 だって嬉しかったから。


「いいのであるな?」

「今更ですよ。サディアス様仰ったではないですか」

「何をであろう?」

「どう扱っても文句を言わないという契約になっているのでしょう?」

「あ」


 初めに言われたことです。

 サディアス様の呆けたような顔も可愛らしいです。


「そうであった。では一生愛すが、文句は言わせないであるぞ」

「はい、サディアス様」


 サディアス様の腕に力がこもります。

 たどたどしい愛なのかもしれません。

 いいのです、サディアス様は信じられますから。

 不器用を越えたピュアな愛を永遠に。

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魔道伯爵に買われたドアマット令嬢は、溺愛される運命です uribou @asobigokoro

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