愛毒

愛とは恐ろしい。

人は愛がないと生きられない。

中毒のようなものだ。

人は愛を求め、愛に最後命を奪われる人がいる

何故?生存本能なのか。

複雑な感情は人間だけがもちうる能力である。

猫や犬、ヤギやほかの哺乳類達は感情はあれど嫉妬や憎悪。愛憎などもちえない。

きっと、野生で生きていく中。あったら絶滅しかねない故持たなかったのか。はたまた脳の発達において、そこまで複雑に作り込まれなかったのかは知らないが。



「愛は毒なの。」

そう呟く女性がいた。

彼女は恐ろしく若く見えた。

彼女を悪くいう人などいない。いるとすれば嫉妬を持つくだらない低俗の輩だろう。

明るく朗らかで。優しく、しかし芯の通ったとても素晴らしい人。

彼女はこう呟いた

「私ね。死のうと思うの。もうこの身体は愛毒にやられて手遅れだから。」

昨年彼女はなくなった。

死に顔はとても穏やかなものだった。


彼女の死後、色々なことが明るみになった。

彼女は誰からも好かれる完璧な人間ではなかった。明るさの裏に暗さがあった。人並みに心を痛めていた。遺書からそう分かったのだ。



彼女を1番に愛するものはいなかった。万人に愛されていた、が。

1番に愛すものはいないなんて皮肉もいいとこだと。


ただ、彼女はなぜ死を選んだ?

誰か手を差し伸べてくれる人がいたのでは?

しかし、彼女の綻びをみてしめしめと言わんばかりに悪口の餌食にされた。スキャンダルに喜び、嬉々として語るその人間の顔はこの世の醜悪を煮つめたようだった。


人は自分の都合のいいものしか愛せないのか。

彼女は優しい故に、いいひと故に考えすぎ、人間の見てはいけないパンドラの箱をあけてしまったのではないのだろうか。

悲しいことに人間は愛なくしては生きられない。

中にはいただろう。いやいたんだ。

彼女を心から愛するものが。それすら偽物に見えるのだから愛毒とは恐ろしい。


これを治す薬があるとすれば、愛なのである。

混じりっけのない純粋な愛でしか解毒できない。


私は、彼女の解毒薬にはなれなかったのか。

後悔だけが今残っている。そして、病魔に蝕まれ、正常な判断ができなくなったのだ。

そう。この病気は感染する。

私も愛毒にかかったらしい。

この世は、どこか病んでいる。

愛を偽物としか見れない哀れな患者たち。

今この瞬間にも苦しめられている人達がいるだろう。最後には死という救済を選んでしまうのか。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編小説 心情 菊叉 眠子 @kikumata

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画