F4FF-1-5:ヒイト 輸血とコールドスリープ
日中の事態にピリピリと緊張感が走る。あちこち輸血を探したり情報を聞き回っていると『各部族の代表と後継までご参加ください。』とアナウンスが流れる。
小会議室の入り口はセキュリティの持ち物チェックなどの列で混み合っている。
「部族長から順番にお呼びします。」
ヒイトは、エントランスの隅のカウンターで呼ばれるまでジッとする様にみんなから散々言われたので仕方なく佇んでいると正面から同世代の奴が同じく暇そうに朱色の羽織の裾をツンツンと引っ張ってくる。
「君は、第1の人?」
ヒョロリと背が高くレオブルートと同じくらいの背格好の体躯に影のように長い黒い上着を見やる。
「お前は第4?」
「そうそう。」
この緊張した状況下で穏やかにニコリと愛嬌のある微笑みが不思議とホッと和む。
腰を一段低く重心を落として手拍子とステップで軽くリズムを取って頭を振る。
タンタン……ダダダ…シュ……。
「うわぁ。ダンス?う…上手いね???」
呆気に取られてるが『なんだこいつ』って顔で目を丸くされると妙に気恥ずかしい。
「あ…うん……。うちの部族の正式な挨拶。」
部族の集まりの時は正式な挨拶が基本だ。先日、彫ったばかりの手の甲のタトゥーをビシッと手前で組んでポーズをとる。今ここにいるのは俺と同じ次期部族長候補なら正式な挨拶をするのがマナーだが習慣が違うので妙に恥ずかしい。『あんま見ないでくれ!』と心の中で思わず叫んで仕舞う。
「あーなるほど!!かっこいいね!僕初めてで他所の挨拶を知らなくて失礼しました!」
明るくニカっと笑うと腰を落とし真似てみせる。拍が取れてなくって無茶苦茶なダンスに笑ってしまう。
「っは!!なんだよそれ!!」
「あっう。失礼だったかな?」
輸血もさっぱりで気持ちが落ち込んでいたせいか動いていると少し気持ちが晴れる。会議室の方はまだ時間がかかりそうだ。気晴らしに振りをゆっくり再現して見せる。
「おっ!結構上手いじゃん。」
「うちのところの武術に少し似てるのがある。」
腰を少し落とし3〜4回ステップを刻むと脚を高く上げ腕を大きく振る。ダンスに似てるが武術だ!
「カッケェじゃん!!これ蹴り技?」
「うん。カポエイラ。」
最初に脚を大きく上げて戦いの合図をお互いに交わして回転していくらしい。
「へぇ面白いな!」
「でも練習怪我ばっかりだよ。」
眉を八の字に寄せて「挨拶の方が平和でいいよ。」とため息まじりにクスクスお互いに笑う。
「俺も親父にどつかれながら教わったから気持ちわかるわ。」
「ああゆうの良くないよね。うちも似たような感じ。」へへへっと笑う。
「すぐに跡取りなんだからとか周りうっせーんだよな。」ニカっと笑って見せる。
「僕はキャドル。君は?」
「俺はヒイト。ところで……輸血って足りてる?」
思い切って聞いてみるとキャドルは綺麗な目を悲しそうに伏せ首を横に振る。
「ウチは万年輸血不足で……力になれなくて申し訳ない。」
「そうか。ありがとう。よかったらコレやるよ。」ポケットから予備のヘアビーズを渡す。
「ありがとう。かっこいいね。」キャドルの薄い水色の瞳によく似たビーズを光にかざして目を細める。
『コロニーNO.1ヒイトさんゲートまでお越しください……コロニー……』
「うわ…呼ばれた!俺もう行くわ!!」
キャドルは人の良さそうな目を細め手を振る。
「僕もそろそろ時間かな。」そう呟くとビーズをポケットに突っ込みフードを被る。
ーーーーー
アンドロイドはホログラムで会場の様子と当時の画像の検証結果を映し出し事件の経緯をモニターで映し淡々と説明する。
『①単なる事故②以前からのテロとの同一犯の可能性③別の模倣犯の可能性』
勿体ぶって説明されるが要はまだ見つかってないって話しらしい。警備の都合上、これ以降の会議は代表者数を絞り若手後継者は帰還されることが告げられる。明朝の帰還時の送迎の流れや警備も伝えられると第3領地の古老が訝しげに咳払いをする。
「最近はなっておらん。警備面をもっと……」延々ずっと1人で文句を言っている。
「あそこは後継者いないの?」
「一応、候補は何人かいるらしいが……色々あってな……表舞台では秘密にしてる。」
親父と目配せをしながらコソコソ話す。セキュリティの手間の割に連絡だけならメールか遠隔通信で十分なので会議の無駄は否めない。最後に、いくつか今日の会議の伝達事項が告げられ奥の扉が開かれる。何名かのヒューマンとアンドロイドが連なる中、昨日の医療センターにいた今どき珍しいシルバーボディの先生と同じくシルバー躯体のアノマノイドを肩に乗せた少女が現れた。
「あっ!あの女!!」
俺は思わず目を見開いてびっくりしているとシルバーボディの先生が意味ありげな仕草であの女と俺を見比べる。くそっ表情が分からないけどなんかイラつく。
「こちらは地球からお越しになった研究者のDr.シシリアン・ジュロー。」
「こんにちわ。シシリアン・ジュローと申します。惑星地質学と環境技術が専攻です。」
地球のDr.?俺より年下に見えんのに?悲鳴にも似た声で叫びそうになる俺を一瞥するとシルバーボディの先生が挨拶をする。
「私は、中央衛生局のデュデーソンです。今回の事件の治療の総指揮をとっており現在、人工血液の製造本数を増やしています。しかし以前からのテロで圧倒的に生産本数が足りておりません。」
みんな、大きく頷くとデュデーソン先生はゆっくりと周囲を見渡す。
「あと3ヶ月程度で今回の怪我人の治療用は確保できそうですが、緊急用の血液は各領地からの寄付も募ってます。」
「我らは、領地から輸血の輸送をしています。」
今回、参加者の輸血が1人も出せず立場のない第1としては迅速な行動で最低でもおじさん達自領の面々の分くらいは自前で用意しないと立場がない。同様に他領も賛同している。
「ありがとうございます。しかし、今後もこういった事態は予測されるのでタトゥーの前に輸血の確保を推奨していただけると助かります。」
医療側としてヒューマノイド側として中央の運用がままならないと辛い立場の説明し、モニターにグラフを表示しながら説明する姿は先生そのものだ。
「ご存じの通りヒューマノイドの駆動には発電経路以外に残っている身体や脳などに定期的に血液を注入・透析しなくてはならず血液不足は非常にまずいのです。僕たちにとっては血液がエネルギーですから。」コツコツとシルバーの頭を指で叩いてみせた。
「それは危篤の人間もヒューマノイド手術もできないってことですか?」
第2のティエンペ首長は目を細めながら淡々と問う。
「その通りです。一部の方はコールドスリープにて対応しますがこちらも足りません。そもそも脳や心臓など循環器系に血液が足りない状態でのコールドスリープは後遺症の危険性や死亡リスクが非常に高いです。」
デュデーソン先生のグラフを見つめながらゾッとする。予想以上におじさんの安否に危機感が募る。
「もちろん、コールドスリープも現在増産中です。」と説明を受けるが不安ばかりが募る。そんな様子を察してか先生とDr.シシリアンが見合わせる。
「こんな大変なタイミングですがDr.シシリアンには各地を順番に見て回る予定なので、次世代の方々は外宇宙との良い交流になるでしょう。この機会にぜひ交流を深めていただき……。」
「いや。その。ウチは今回の怪我人の対応と冠婚葬祭で立て込む。他所のお客様のお相手は少々難しいですな。」
親父が苦虫を噛み締めたように呟く。おじさんの治療もある。婚約はしたが俺の結婚式の行方も分からない。
「こんな事態で余所者を入れられるか!危険を増やす気か!!何かあっても補償できませんぞ。」口うるさく捲し立てる第三の領主が唾棄するように怒鳴り散らすが実際そうだ。他の部族もウンウンと同調する。
「私は宇宙地質学の研究者として、こちらで現在話題になっているレアメタルの……」
親父とセンターの奴らを見比べ「俺はゴメンだね!帰るんだろ?!先に帰らせてもらうわ。」
楕円のホバーチェアを蹴っ飛ばして会議室を飛び出すと外で待機していたみんながビックリした様子で覗き込んできた。
「レオブールト!テテッグ!帰るぞ!!」
あっけに取られる二人を呼びつけて踵を返す。空のホバーチェアはゆらゆらと虚空を回転しながら元の位置に戻り、親父のため息が扉の向こうから聞こえてきたが聞こえない振りをした。
気を使う様に様子を伺うレブールトの横でソワソワしながら落ち着かないテテッグがオドオドと上目遣いに口をもごもごさせる。
「ご報告が…第3領地なんですけど。」
「さっきのあのムカつくオヤジのところか!」
頭にきたのを抑えながら何か弱味でも握ってきたか!と深く頷きながら回答を促す。
「女の人がみんな……おっぱい大きかったです。」
顔を赤ながらニコニコ……にやにやと告げた。
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