F4FF-1-2:ヒイト 中央BOX街

コォォォォォ……


ボードに青いライトがつく。燃費の悪い音を立てて風を切る。レトロなホバーシステムのウォークボードが白い清潔な歩道で軽快に風を切るりジャラジャラと編み込まれた髪にカラフルなビーズが踊る。オヤジが呆れた表情でこっちに視線を送ったが他のコロニーの部族との挨拶やらに夢中の横をすり抜けよう。宿のエントランス横の裏口を抜けようとするとサッと人影が過ぎる。「うわぁあ!」慌ててブレーキをかけつんのめった姿勢でバランスを崩してしまう。「坊ちゃん〜。よくないですよ。」ぬぅっと姿を現したのはニコニコと笑顔の絶えない白髪混じりの髪をゆったりと束ねた親父の側近兼親友のウェンダーだ。ガタイが大きいが穏やかな物言いが余計に怖い。「元服されて初の集会の前日なんですから、ちゃんとお父上のお仕事を見てよく学ばないと!」「へへへ。いや〜お使いお使い!」「ほう?お使いでしたか。」眉毛をぐぐっと上げて凄んで「こっちにきなさい!」と腕をひっぱり上げる。ヤッベぇ怒ると淡々と詰めてくる分、親父より怖いんだよな。と若干腰が引けてしまう。ビビりながらズルズル引きづられてホテルの裏に向かい「まったく貴方ときたら。」とブツブツ言いながら連れ出される。白いブロックが装飾的に組まれた裏庭で俺は目を白黒さる。やべぇ泣きそう。「いつまで経っても子ども気分が抜けないようだな!」そこにはグレーの古ぼけているがよく磨き込まれた車体のホバーバイクが停まってた。「ウェンダーおじさん!これ大切にしてたバイクじゃん!!」ふふんっと鼻を鳴らしておじさんは自慢げに「良いだろ?どうせ電気街に行くんだろ?」「ああ!お使いか!うんうん何買ってくる?これはエンジンオイルと…うーんブレーキは平気そうだな…」コロニーでは触らせてももらえなかったおじさん自慢の大型のヴィンテージバイク。かっこよくって家に行くたびにガレージを盗み見ては怒られてたっけ。「やるよ!」おじさんはサドルをポンっと叩いてニカっと笑った。「まじで?おじさんの宝物じゃん?!」「俺には他にもあるからな。元服祝いまだだったろ?」「良いのかよ?!ありがとう!!」おじさんはこっそりホテルの裏から電気街までの通りにつながる道に連れ出して「大切にしてくれよ!」と送り出してくれた。


砂や石まみれのコロニーと違って中央は整備されているので砂ボコリが舞わなくて新しく手に入れたバイクが汚れなくて済むので嬉しい。オヤジが忙しいのをいいことに中央のジャンク屋に行ってみよう。と中央道から少しはずれた高架下のBOX街にきた。

コンテナボックスを積み上げた屋台がカラフルなブロックのように狭い高架下に軒を連ねている。


「おっさんこのパーツある?」ウォークボードやバイクはオールドタイプのジャンク品の方がガジェット感あって楽しいんだよな。ケーブルとかドレッドみたいにジャラジャラさせんのに最近ハマってる。先ほどのバイクのパーツとウォークボードの出力パーツをいくつか物色する。サイズ違いのギアや新作のホバーパーツを見て回るだけでも結構楽しくて時間が溶けてしまう。値札がなけりゃもっと楽しい。


「うっわ!すごいレトロ!!ハンダ付けしてる基盤なんて初めて見た!」


「妙な女がいるな。」旧型とはいえ随分金のかかった派手なアノマノイドを肩に乗せている。ヒューマノイドっぽいフットホバーとボディデバイスを身につけているので見た目にはイマイチ区別がつかないが妙な言動からヒューマンだろう。どこの所属のやつだ?


「おっさん。これ代金とこの宿に届けといて。」ケーブルが暖簾のように垂れさっがったコンテナ屋台の入り口をかき分けて手の甲のタトゥモニターにバーコードを表示しセンサーで読み取ってもらう。人差し指に蛍光色に会計金額が表示されるのを確認する。通販では引っかかる闇パーツばっかりあつかってるヒューマノイドのおっさんは『自分が生き字引だ』と随分と長いことジャンク品を黙々と売り続けているらしい。無口で有名で会計もパーツを聞いても目の前にポンっと置いて『気に入らねぇなら帰りな。』って態度で有名なおっさんだ。噂ではこの星の初期市民らしく古いパーツからヒューマノイドの誰がどのパーツを使っているかまで把握しているらしい。自分はジャンク品の更にジャンク品を繋いでいるらしくいつ見ても毎回違うデバイスがあちこちから突き出ているがよく手入れされている。少し動くたびにガチャガチャとパーツが軋むが、指先だけは人間の時のままのおっさんのそんな様子が気に入っているので通ってる。


「僕の予備のメンテナンスパーツを買うだけだから寄り道しませんヨォ。」シルバーボディの鳥が嘴をパクパクさせながら店員にあれこれ注文している。「へぇ〜私もバッテリーくらいは買っておこうかなぁ。」と、明らかにお上りさんだがここはお上りさんの来るような場所じゃない。入り口までは一般のヒューマノイドも普通に買い物をするバザールをやってるただの電気街だが奥に行けば妙な輩もいるので危険だ。とはいえ、知らない人間に声をかけるのも躊躇われる。「ヨォ〜!デュデュ!ええカスタムしてもろたなぁ。」「ウチのとっておきさカッコよぉ付けてもろて。やっぱセンセのとこの腕はいいもんのぉ。」「そそっ!金も腕もかけんとココのジョイントなんて素人じゃ無理よぉ。」複雑な羽根のジョイントなどを各コンテナ屋台の店主が自分のとこのパーツ自慢をしている。「ありゃあデュデーソン先生のとこのか。」おっさんが珍しく口を開く。「あの変な女知ってるのか?」「いや知らん。」ギギギッと苦しそうに首の関節を軋ませて首を振る。おっさんが知らない人間がいるなんて珍しい。特にこの屋台街で。「あんのぉ鳥。アレのコアと羽根の導電部分はウチの子だ。」屋台のみんなにとってココのパーツで産まれた機械はみんな“ウチの子”で可愛いらしい。ヒューマノイドとヒューマンの最大の違いは生殖能力と言われていいる。俺のホバーボードもカスタムするたびにおっさん達が「調子の悪いとこねーか。」「カッコいいパーツ入ったぞ。」と声をかけてくれて通販と違って妙に居心地がいい。こうやっていると繁殖能力については少々思うところがあるが、元になるヒューマンが生まれないことにはどうしようもない。

「おっさんあの子あんまりウロウロ迷ってたらあぶねくね?」「だな。」俺はおっさんと顔を見合わせるとホバーブーツの女のところに駆け寄った。「おねぇさん観光客?危ないから宿戻った方がいいよ。」女は目をぱちくりさせる。よく見るとこの女全然タトゥーしてないピュアボディだ。自然信仰派の奴らだったら面倒臭いので余計にさっさと返した方がいい。「ええそうなの!心配してくれてありがとう。でもガイドもいるし珍しいところ見たいの!」能天気に歯をニカっと見せて笑う。「シシィ必要なものだけ買ったら買えるヨ。」「えぇ〜つまんない!」「また明日からツアー始まるから文句言わないで。」「先生のお目付け役いると自由ってないのね。」とブツブツ言っている。「アノマノイドの言っていることの方が正しいから帰りな。宿どこ?送るよ?」「え?ナンパ?」「ちげーよ。」「じゃぁ誘拐犯?詐欺師?」うっざ。「ほら、あそこのタクシー乗り場。ホバーブーツあっても迷いそうだからアレのって帰れ。」屋台街から2ブロックほど先の高架入り口手前にあるロータリーの乗り付け場を案内する。「わぉ!タクシーって私初めて!面白そう!!どうやって乗るの?」と目を大きくさせてはしゃいでいる。タクシーが初めてって紛争エリアの人間でもなさそうなのに変なやつ。「キミのホバーブーツはGPSで自動走行だからね。今の子はタクシー知らないのか。フム。」でたよ!自動システム女。なんでもオートマで済ますからなんもできねーお嬢様か。何が面白くてヒューマンやってんだよ。決まったことしかできなアンドロイドと変わんねぇじゃん。


俺はタクシー乗り場まで引っ張って「タクシーの乗り方はその鳥に聞け。」と黄色く丸っこい観光用タクシーに押し込んでしまう。「ありがとう!キミなんて言うの?」「危ないから窓から顔出すな。もう会わねぇから。ほら行った行った!」妙なお嬢さんを見送る時に鳥の目が何かスキャンしていたが気にしない。「俺もさっさと戻んねーと親父に怒られんな。」早速自慢のホバーバイクに跨り吹き出し口から青い光が漏れる。ホバーで空気がうねる瞬間が気持ちいい。宿に帰ったら新しいパーツが待っているウキウキ感に胸を躍らせながら目抜通りを走り抜ける。

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