F4FF-1-1:シシィ 病院
渇いた風が頬に心地よい。船から出て一番に思うことだ。明るい日差しから、大地の独特の香りがする。皮膚に宇宙環境では得られない柔らかな五感を刺激され全身が身震いする。数ヶ月ほどの船と中継艇以外の空間に出ることはなかった移動生活で、こうった感覚がすごく新鮮だ。
『大気酔いはありませんか?』長期間宇宙空間にいるとその星の重力や大気に酔ってしまう。「ありがとうございます。少し浮かれてるみたい。自分では大丈夫だと思うのだけど。」自分でも浮かれているのが分かるくらいニヤけている。『数日は医療施設で滞在していただきながら諸々手続きとご案内の流れをご説明しましょう。』一瞬、最新のヒューマノイドかと思うくらいよく出来た無機質なアンドロイド。こういったところね、淡々と古いタイプのプログラムで会話していて船の中みたいでツマラナイ。
前時代的な、コロニーのアーケードをくぐると学生時代通っていた学校のあるコロニーを思い出す。
お決まりの手続きを手早く終わらせ、クリーンルームを出て無菌室に入る。レーザーやら何やら……毎回、丸裸になるこの身体検査キライなのよね。『では、個室で数日ウイルス等の持ち込みや大気酔いなどの適合待機をしていただきます。』いかにもアンドロイドの風体のシルバーのボディ…どんな旧式よ。タブレットディスプレイ片手に採血や体液など採取パウチしワゴンに並べながら問診とセンサー検査でピッピッと細部をチェックし決まり文句にはいはいと答える。どこも一緒なので半分以上聞いてない。『いやー面白いですね!』「はひ?!」『これ!指!多指初めて見ました!』唐突なアンドロイドのの軽口に声が裏返ってしまった。アンドロイド抜きにしても馴れ馴れしいというか…失礼すぎない?『これくっついたままにしてるんですか?!』左手の6本目の指のくっ付いた小指をつまみ上げてセンサーで穴が開きそうなほど観察してくる。「カルテ見たら書いてるでしょ?!なんなのコイツ。」『ああボクはヒューマノイドでして、長年この星の衛生管理局で医師をしてます。』「なんでそんな旧型のボディ使ってんのよ。」『メカっぽくてカッコよくないですか?昔ゲームで流行った機体を使って死にそうなタイミングで移植しちゃいました!」『うっわー、コスノイドってヤツですか。そうゆう人いるとは聞いてたけど私も初めて見ました。」ちなみに確かにそんなゲームの大昔の映像を見たことがある気もする。けれども大抵はパーツメンテの問題などで諦めたり、途中で維持できなくなって尊厳死を選ぶ方が多い。この人って何歳なんだろう。
呆気に取られる間に普通のアンドロイドが個室に案内にやってきた。『この子、可愛いけどちょっとツレなくってつまんないんですよねー!お姉さんまた朝晩検診に行くんで!』コイツ絶対人に飢えてて暇なだけでしょ。アンドロイドちゃんが少し可哀想に思えつつ個室のモニターに流される“ようこそ、我が惑星へ”よくある観光用のムービーと説明を横目にベットに転がり横たわる。心地よい重力と体内の緩やかな血流の騒めきを薄肌の下で感じ、美しい荒野や植林された出園風景に「どこも地球みたい。」とありきたりなテロップに睡魔が襲一度襲うと朝になるまで瞼は開かれなかった。
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2週間ほどつまらない生活をしながらコスノイドのデュデーソン先生と中庭で運動検査(という名の遊び)をしながら彼の一方的な話や外宇宙の近況を話す日々。「私はこの星について聞きたいんですけど。」『でしたら4大部族の領地がおすすめですね。1番コロニーから順番に巡ればいいですよ。』モニター以外の情報が欲しいのに毎日この調子。キャッチボールももう飽きた。「休みの日はどこ行くんですか?」旅行とか行かないのかよコイツ。『部屋でゲームしてますね。ボディに砂入ると痛むんで。』パーツのストックを思うと腑に落ちるが何が楽しくて機械の体になって生きながらえてるんだコイツ。『ゲームの新作のために死ねないんですよねぇ。呆れたでしょ?』しまった表情読まれてた。『多指でも運動機能は問題なさそうですね。』「ええ。普通の生活に支障はないわ。」グローブをとって左手を振って見せる。ジワリと汗が気持ちいい。日差しの調光がよく効いていて中庭の芝生やグローブの皮の香りを胸いっぱい吸う。「臭香センサーはついていますか?汗臭くない?」『……データのみの感知機能ですね。データ感知の方が正確なので十分です。健康なのは分析できてますよ。』とシルバーのフェイスから緑色のランプが点滅し額のディスプレイに[-SAFETY-]と表示されるが「生まれてから一番うれしくない問診だったわ。」『まぁ直接見てくるのが一番ですよ。それが楽しみなんでしょ?Dr.シシィ。』シルバーフェイスはニヤリ…否、無機質なフルフェイスマスクにあたった光の屈折のせいだと思い頭を振る。『資料面白かったですよ。ぼくもヒューマノイドになった甲斐がありましたね。』性格も見た目も無機質なのになんか人間味が滲み出すぎている変なヒューマノイドはスピーカーからハハハッと愉快そうに笑い声を上げ『この星の報告書楽しみにしてますよ。』と白球を放り投げ緩やかな弧を描きながらパスをした。「デュデーソン先生も来ます?」『報告書を読む方が楽しみが減るんで遠慮しときます。』全身でメンドクサイと言いたげな様子で遊具を片付け始めた。
宇宙船で運動するのと地上での有酸素運動は重力のせいか少しのことで疲労感たっぷりになってしまいよく寝れる。予定通り明後日の会合への参加許可が降りた安心感からかいつの間にかに寝入ってしまい、朝日の中で小鳥のさえずりのプログラムが心憎い。チチチッ…薄目越しに乱反射する光に目がチラつく。
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何これ?シルバーの小鳥型のアニマノイドが設置されている。旧型の見覚えのあるデザインで一目でデュデーソン先生の趣味だとわかる。さえずりを鳴らしながらシルバーの羽根をパタパタと動かして愛嬌たっぷりに『オハヨウ。オハヨウ。』と歌い上げる。「通信機能ある?スイッチどこ?」羽根の表面に薄型の有機太陽光発電フィルムに指紋を付けないようにボディの下に腕を伸ばして脚を掴む。『えっち!えっち!』バッサバッサとシルバーと七色に偏光するフィルムの翼をはためかせながら、その名の通りピーチクパーチク騒ぎだしてしまったので、もうお手上げとばかりに振り離す。「どーゆーAI組んでるのよ。」『いやー僕の子♡可愛いでしょ?』とオートドアから無遠慮に入ってくるデュデーソン先生は『デュデュちゃんと呼んで上げてください。』とシルバーの指で小鳥のアニマノイドの嘴を撫でる。「何ですかこれ?」『昨日、せっかく視察のお誘いを断ってしまったので僕の代わりです。ヨロシクピヨ!』と小首を傾げて愛嬌を振り撒いてくる姿に呆れて声も出ない。
ハハハっ笑い声が部屋中に溢れる。私は乾いた笑いに笑顔を引き攣らせながら、この惑星について初めて頭痛薬を処方してもらった。
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