第3話 魔女狩り
魔法少女。
勇者に次いで、またアニメみたいな言葉が飛び出して来た。
「私にこの鏡を使わせてくれないかしら?」
「……いや、それは」
「交換条件よ。使わせてくれるなら、私はこの鏡の事を他言しないわ」
正直、彼女の言う事を聞かないとマズい状況だ。
この鏡の事を風潮されても信じる人間は少ないだろうが、相手は魔使さんである。
彼女が言うのならばと、信じる人間は居るかもしれない。
そうなれば面倒事に発展するのは予想に難くない。
「分かったよ。けど俺も同行するからな」
「ありがとう。それと貴方を疑ってごめんなさい」
「ん、何か疑ってたのか?」
「いえ、なんでもないわ」
「そう。⋯⋯?」
話しながら、俺はシーツを取り払う。
その辺りで魔使さんはケーキを完食していた。
クッキーは少し残っているが、保存しておけばいいだろう。
「じゃあ行きますか」
「えぇ、また敬語でてるわよ?」
そう言って笑みを浮かべる魔使さんを連れて、俺は鏡の中へ入った。
◆
俺たちが出てきたのは、昨日勇と一緒に来た洞窟の中だった。
出口までは数メートルも無いから、魔使さんを案内しながら外に出る。
「紫の空……やっぱりこの世界は……」
意味深にそう呟いた後、彼女の視線は焦げた死骸へ向く。
「あれは何かしら?」
「飛竜の死骸だよ。昨日襲って来て撃退したんだ」
「へぇ、貴方強いのね」
「まぁ、俺じゃないけどな。正直無駄な殺生はしたくないけど鏡が壊されると困るから」
「確かに、あの鏡は絶対に守らなければいけないわ。ねぇ、分かっている事を詳しく教えてくれる?」
「とはいっても、そんなに多くないぞ? それに俺もそろそろ魔使さんの事教えて欲しいんだけど」
「えぇ、それで構わないわ。勿論、私も貴方に事情は話す。もう巻き込んでしまっているもの」
どういう意味なのだろう。
むしろ巻き込んだのは俺の方な気がするけど。
それも事情を聞けば分かるだろう。
そう考え、俺は昨日の出来事や鏡をどこで見つけたのかとか、色々と魔使さんに教えた。
「なるほどね、そんな事があったの。それにまさか聖君も特別な力を持っていたなんてね。でもそれなら一つ、気になる事があるのだけれど」
「なんだよ?」
「せんしょう……そう言ったのよね、その喋った飛竜は」
「あぁ」
「もしそれが『千将』という意味なら、多分千匹の飛竜を率いていたという事だと思うのだけれど……どう見ても死体の数はそんなにないわ。多く見積もっても五百匹ってところかしら」
確かに、数百匹居るのは分かるが、千も居るかと言われればそんな事はない。
昨日の事を思い出して見るが、空を飛んでいた飛竜の数もそこまで多い様には思えなかった。
勇の攻撃で死骸も残らず焼却したとか、死骸になってから他の魔獣に食われたとか、そんな理由ではないだろう。
もとから飛竜は、千匹も居なかった。
「何処かで群れが大きく減るような何かがあったのかしら? その何か、天災や事故、もしくは何者かから逃げていた……? そして、人間に対しての大きな敵意……」
そこまで呟いた所で、魔使さんは勢いよく上空を見上げた。
「来るのね。いいわ、それなら私も本気で相手をしてあげましょう」
何を言っているのだろう。
勇の奴が移ったのだろうか。
いや、あれは本物だった訳だけど。
「そう言えば、私の事を話す約束だったわよね」
「あぁ、魔法少女だとかよくわかんない事言ってたけど」
「そう、私は小学生の時、魔法少女をやっていたの。でも、魔法省少女課【キサラギ】の非人道的なやり方を知って組織から逃亡した……」
空から、高速で何かが近づいて来る。
昨日の飛竜よりずっと速いスピードに見えるのは、それが飛竜よりずっと小さいからだ。
青。赤。黄。緑。橙。藍。紫。桃。
様々な色のドレスに身を包んでいる。
それは――【少女】たちだった。
「その時、任務の中で私はこの世界に来た事がある。その任務内容は魔獣の討伐や捕獲だった」
少女たちは上空で停止し、俺たち見ている。
その中の一人がゆっくりと降下して、俺達へ近づいて来た。
「この世界に【人間】は存在しない筈なのよ! 貴方たちは何者なのよ!?」
小学生か上に見ても中学生ぐらいに見える。
ピンクのドレスを身に纏った少女は「なのよ」なんていうフザケタ語尾で俺達に喋りかけて来た。
その少女に返答するのは魔使さんだ。
「貴方達、階級と部隊名は?」
「仲間なのよ? いや、貴方みたいな高齢者が魔法少女な訳ないのよ」
「高齢? 面白い事を言うのねお子様」
「あぁんなのよ。誰がお子様なのよ?」
「なのよなのよ煩いわよ。良いから名乗れと言っているの、始末する前に名前くらい聞いてあげるから」
始末……?
何言ってんのこの人。
いや、勇という前例があるのだ。
それに魔法少女なんて言葉を口にし、この状況でも堂々としているし。
まさか、何か策があるのだろうか。
「まあいいのよ。捕えて尋問するだけなのよ」
あれ。
この魔法少女っぽい恰好の人たち、敵になろうとしてる?
「名前を教えて欲しいなら教えてやるなのよ。私はアイリス、このアイリス中隊の指揮官であり上級魔法少女なのよ!」
「アイリス、憶えておくわ。私が殺す、魔法少女の名前だもの」
「ふざけるななのよ! たった二人で何ができるって言うなのよ!」
今は勇も居ないし、昨日勇から貰った剣一本で百人以上いる魔法少女さんの相手は無理があるだろう。
正直逃げるしかないのでは。
そう思っていた矢先、魔使さんが一歩前に出た。
彼女を中心に突風が吹き荒れる。
突風は彼女の身体を包み隠し、刹那の発光と共に一際強い最後の一風が吹きすさぶ。
「
その出で立ちは様変わりする。
制服を着ていた筈の彼女の姿は、黒を基調に赤いラインの走ったゴシック調のドレスへと変幻していた。
純黒の瞳は、アイリスと名乗った魔法少女へと向き直る。
「ほんとうに魔法少女だったなのよ。それにその漆黒のドレス、聞いた事があるのよ。 数年前まで特務の第二席に居た【黒の魔法少女】ブラックリリィ……」
「あら、知って貰えているなんて嬉しいわ。まぁ、だからどうという事もないのだけれど」
「裏切って逃亡中とは聞いていたけど、こんな所で会えるなんて思ってもみなかったなのよ。でも特務でもなんでも関係ないなのよ、こっちは下級100人、中級50、上級1人なの。幾ら特務でも勝てるはずないなのよ!」
なのよちゃんはそう言って高度を上げて、他の魔法少女に交ざりながら命令した。
「一斉射撃! 塵も残さず消滅させるなのよ!」
捕らえるんじゃないのかよ。
しかしその叫び声が、全員へ電波するよりも速く、彼女の言葉が一声を切って捨てる。
「遅い」
武器が彼女の後方で浮遊、整列している。
剣では無い。そんな物よりずっと高性能で、殺傷に特化した武器。
一つではない。その物量はまるで、単騎で戦争を再現した様だ。
拳銃。アサルトライフル。サブマシンガン。ショットガン。マスケット銃。スナイパーライフル。ミニガン。機関銃。グレネードランチャー。ロケットランチャー。火縄銃。
あらゆる重火器が、百に達する程に展開されている。
「射撃開始」
890式自動小銃が、M240が、MP50が、620式7.62mm機関銃が、レミントンM8700が、Glockkが、M40が、キャリロが、バレットM820が、M19110コルト・ガバメントが、M10カービンが、トンプソソ・サブマシンガンが、AK-470が、RPKK軽機関銃が、SVDDが、BIZONNが、トカレフTT-330が、L10A10が、スターリン・サブマシンガンが、G360が、HK210が、StG440が、P900が、スコーピオンEVO30が、Vz 610が、Cz750が、SIG SG5500が、ベレッタM120が、ベレッタ920が、UZIIが、ダネルMGLLが――
一声に火花した。
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