彼と猫との癒し時間
宙色紅葉(そらいろもみじ) 週2投稿中
彼と猫との癒し時間
みんな大好きゴールデンウィーク。
遠方に住む両親に会いに行ったり、アウトドアを楽しんだりと過ごし方は様々だろう。
ちなみに、私のゴールデンウィークの楽しみ方は家に引きこもってダラけること一択だ!
外は嫌いじゃないが、如何せん普段からインドア派で引きこもっているせいか、外出した時の疲労具合が半端じゃない。
通常時ですらそうなのだから、長期休暇で大勢の人間が外出している今、私のような軟弱者が外に出たら冗談ではなく死んでしまう。
翌日の休暇は本当に眠るだけになってしまう。
せっかくの休暇に気力を振り絞って活動するのはちょっと……
偶にやる分には悪くないが、今回は遠慮したい。
そのため、私は買い物以外の外出を避けて家の中でのんびりと過ごしていた。
『とはいえ、流石に寝転がっているだけというのも飽きてくるな』
だからと言って、アウトドアはしたくない。
趣味のゲームや読書を本腰入れて擦る気分でもない。
そこまで元気なわけでも、活動したいわけでもないのだ。
今の気分は、こう、なんというか、ちょっとだけの刺激が、ダラける以外の刺激が欲しい感じだ。
何となく彼の様子を見に行きたい。
私はYo○Tubeのショートを垂れ流していたスマートフォンを閉じると、ソファに預けていた体を起こして彼が寝転がっているだろう寝室へと向かった。
ドアを開けて寝室に入れば、彼はスヤスヤと寝息を立てていた。
体をくの字に曲げて柔らかく瞳を閉じながら眠っているのわけなのだが、突き出されたお尻には添うように寝転がっている私たちの愛猫、トラ丸がいる。
トラ丸は綺麗な毛並みをしたキジトラ猫だ。
モフモフ、ツヤツヤの最高級な毛皮は太陽に晒されればキラリと輝き、ブリンブリンの腰は黒い毛並みも相まって脂ののったマグロを思わせる。
それがウナギのようにバルンバルンと滑らかに動き回るのだから堪らない。
ツヤツヤ、バインバインのモフケツを見る度に捕まえたくなる。
というか捕まえに行って逃げられている。
猫はすばしっこいし小回りが利くから、ふざけた人間ごときでは上手く捕まえられないのだ。
また、日本猫らしい横長の丸っこい顔に太く短い尻尾、生肉だって引き裂くことの出来る意外と狂暴な牙に、ズドン、ズドンとぶっとい手足も堪らない。
特に前足のパリパリチョコバーのような入り方をした黒い模様が心を惹きつけて鳴らない。
あむっと口に入れたい。
入れないけど。
真っ黒い肉球も、黒い瞳孔を丸く、大きくしてこちらを見つめてくるキュルルンな瞳だって最高だ。
ギュッと丸まった時のロールパンみたいなドッシリとした体は、モチモチと食べたくなってしまう。
トラ丸は魅力の多い猫ちゃんだ。
いくら好物同士だからと言ってラーメンにケーキをぶち込んだら大変なことになるだろう。
だが、パンケーキに乗っかったアイスがジュワッと溶けながらモフモフの生地に染み込んで、得も言われぬ甘味を生み出すように、癒し×癒しの組み合わせは更なる高位の癒しを生む。
彼氏×愛猫。
最高である。
堪らない。
私は持っていたカメラで彼氏×トラ丸のベストショット、すなわち彼の立派なお尻とトラ丸の素晴らしいツーショットを撮影した。
柔らかなお尻に引っ付くトラ丸。
黒のスウェット越しでも分かる彼のモチモチなお尻。
良いですね。
素晴らしいですよ。
ところで、私の趣味は可愛い、可愛い猫に変態ムーブをかますことだ。
「トラ丸ぅ、愛でにきたよぉ」
私は小声でトラ丸に声をかけるとジリジリとにじり寄った。
トラ丸は私に背を向けながらスヤスヤと眠っている。
そんな後ろ姿、吸うしかない。
私は鼻先をトラ丸のモフモフでどっしりとした背中に埋め、スンスンと嗅いだ。
猫の毛には何故か匂いが移りやすい。
ふわりと洗濯洗剤の香りがしたことを考えるに、彼の所に来るまで、トラ丸は重ねた洗濯物の上ででも眠っていたんだろうか。
崩れたタオルを考えると少し物悲しい気分になるが、まあ、仕方がない。
基本的に洗濯物と同じ匂いがするトラ丸だが、窓から差し込む光に晒された日当たりの良い部分の毛皮は、太陽の香りでも取り入れたかのように柔らかで温かみのある不思議な香りがする。
一生嗅いでいたい。
「ふへぇ、いい香りだね~。可愛いねぇ、可愛いねぇ、堪らないねぇぇ……お尻もモッフモッフしちゃおうかなぁぁ!?!?」
モフモフと嗅ぎ続けて、ついでにお尻を撫で回しつつ肉球をムニムニムニッと揉み込んでいると、トラ丸に、
「うなぁん!」
と、文句を言われてしまった。
顔を上げれば寝惚けた半開きの目で、
「なんだコイツ……」
と私を不満そうに睨んでいるのが見える。
このまま肉球を嗅いだり、耳を軽くはんだり、顎や首回りに鼻を埋めたかったりしたかったのだが、このまま構い続けたら、
「変態には付き合ってられん!」
とばかりに、どこかへ逃げられてしまう。
名残惜しいが、お触りは一旦やめにすべきだろう。
「へへへ、ごめんごめん。ブラッシングするから許してよ」
近くにあった短毛猫用のブラシを持てば、トラ丸が「まあいいか」と目を細めてそっぽを向いた。
背中が「よきに計らえ」と言っている。
計らいます。
私は丁寧に背中や横腹、尻尾付近、前足に後ろ脚をブラッシングしていった。
『トラ丸は大人しくて助かるなぁ』
トラ丸は大変温厚なので、同居している不審者にモチモチと腹や尻を揉まれようがジト目で睨んでくるだけだ。
今だって、丸くなってゴロゴロと喉を鳴らしながらブラッシングを受け入れ、リラックスしている。
まあ、尻尾の付け根をブラシしていると尻尾をバタバタとはためかせるから毛が散って大変だし、後ろ足を撫でればガシッと蹴られるので、お人形さんを手入れするように、とはいかないが。
だが、さしたる苦労でもないし、少し大変なところが逆にグッとくる。
目を細めて口角を上げ、モミモミと空中や自分の腹付近を揉みだすのも堪らない。
何故か上がっていく顎も可愛い。
『へへへぇ……もっと気持ちよく、綺麗な毛並みにしてあげよう……』
シャカシャカと手を動かして毛玉を量産していく。
「うにゃぁん」
トラ丸がモフッと彼のお尻を掴んで揉みこんだ。
ムチムチの肉球が尻を揉み、飛び出た爪が軽く肉に食い込んで彼が少しだけ呻く。
トラ丸の一連の動作と彼がモゾっと動く姿に釘づけになった。
『ズルい! ズルいぞトラ丸! 私だって彼のお尻を揉みたい!! 揉みまくりたい!!』
私の趣味は猫にセクハラをすることだが、彼にセクハラをするのも大好きだ。
早速、ブラシをベッドの上に置き、トラ丸の腹と彼のお尻の間に手を差し込む。
手の甲には柔らかく温かなトラ丸の毛皮に触れていて、手のひらはモチモチとスウェット越しの柔らかさを堪能する。
こんなに素晴らしい事が他にあるだろうか?
『彼のお尻! 彼のお尻! 堪らない、モッチモチなお尻!!! ありがとうございます! 誠にありがとうございます!!! 万物に感謝を捧げます!!!』
フン! フン! と鼻息荒く揉んでいると、「んん?」と呻き声を上げた彼が寝転がったまま顔だけをこちらに向けた。
トロンとした黒目が私をのんびりと捉えている。
寝癖だらけになって頬にへばり付いた髪がかわいい。
「何? 俺のお尻、揉んでたの?」
むにゃむにゃと口を動かす動作もかわいい。
彼は常にかわいい。
「うん。魅惑的だったから。でも、ごめんね。起こすつもりはなかったんだ」
「いや、トラ丸にお尻を掴まれた時に起きたから、それは別にいいけど……」
彼はクワッと大きな欠伸をして寝返りを打った。
まだ眠いようだ。
スヤァと瞳を閉じて二度寝を試みている。
あるいは既に半分、夢の中にいるのかもしれない。
バイバイ、彼の癒し系むっちりスケベなお尻。
ようこそ、彼の……
これ以上、ここに言及するのはやめておこう。
興味はあるが、流石に真昼間からは揉めない。
何より、彼も寝てるし。
眠っている時に弄んでいい所じゃない気がするんだ。
代わりに、私の方に体を向け、くの字になって寝転がる彼の魅力的な腹チラに夢中になった。
真っ白いお肌にちょっとだけ見えるへそ。
スウェットで隠された彼のセクシーな腰を想像すれば顔がニッコニコになる。
私の趣味は彼にセクハラをすることだ。
彼が体勢を変えたのをきっかけに別室へ行ってしまったトラ丸の代わりに、己の身体を彼の懐へとねじ込む。
眠っているおかげで体温が高いのだろうか。
非常に温かい上に、頭上から聞こえてくる寝息や私を包む彼の柔らかな体で身も心も癒される。
スウェット越しの胸に顔を埋めて堪能し、それから……
穏やかで幸せな休日が今日ものんびりと続いていく。
彼と猫との癒し時間 宙色紅葉(そらいろもみじ) 週2投稿中 @SorairoMomiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます