第3話

「現在では、男女ともに十八歳からだな。以前は女性が十六歳だったが、成人年齢の変更とともに変わったらしい」


「そうか。となれば、僕は十八歳だから結婚できるとして、貢はどうだ? 十八歳だったっけ?」


 貢は、僕の質問に対して表情を変えずに答えた。無表情のまま、真っすぐと僕の目を見つめながら。


「――さあ? 何歳なんだろう」


「おかしな奴だな。自分の年齢も覚えてないのか」


「社会人になると、時折分からなくなるらしい。学生と違って、学年とかないからね」


「お前はまだ高校生だろうが。僕と同じ、ぴちぴちでフレッシュな若者だよ」


「言葉選びが壊滅的だな。魚と果物かと思ったよ。未錐には、俺がマグロかりんごに見えてるのかな」


「意地の悪い幼馴染に見えている。にやつきやがって、そんなに僕をからかうのが楽しいのか?」


「おやおや。その言い草はまるで、未錐は楽しくないみたいな言い方だな。俺と一緒にくだらない話をするのが好きなくせに」


「……否定はしない」


 まあ、こいつの存在に救われている部分は確かにある。


 恋人は当然で、僕には友人もいない。変に斜に構えた態度が嫌われているのかもしれないけれど、明確な理由は判然とはせず、何度か会話をした相手でも、自然と皆僕から離れていった。


 だから、他人の中で唯一僕の側にいてくれる貢は、僕を孤独という闇から救ってくれている。


 こいつがいなければ僕はきっと、心を閉ざして自室にずっとこもり続けていたことだろう。どこにいっても、誰からも相手されず興味も持たれず、ただただ自分は嫌われているのだと、それを感じ続けるだけの人生を生きていけるほど、僕は強くなどない。


「話を戻すが貢。お前は結婚式をするなら和式と様式、どっちがいい? 僕は様式の方がなんとなく、結婚式だっていう感じがして好きなんだけど」


「俺も様式の方が好きだけど、なあ、未錐。それは俺とお前の話をしているんだろう? だったら、残念ながらそれは実現出来ないぞ」


「――? お前が、男だから、ということか?」


 同性同士の結婚は、まだ日本では認められていない。だから、僕と貢が結婚できないと、こいつは言っているのだろうか。


 だったら、同性婚が認められている国に国籍を移して結婚するだけの話だ。僕と貢の愛は、国を超えているだろ!


「いやいや、そういう話じゃなくて。根本的な話だよ」


 そう言って貢は、いつの間にか辿り着いていた河川敷を走り始めた。途中でぴたりと足を止めて、僕に振り返る。その時の貢の不思議そうな表情の理由が、僕に分かるまで、まだ少し、時間が足りなかった。


「俺とお前が愛し合っていることは事実としても――、結婚するんだ?」

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