第12話 お友達が出来たようです
「まあ、あなたが噂のアルバート殿下の婚約者なのね。光魔法の持ち主だとは、初耳ですわ」
「あ、それが、属性が変わってしまっていたので、私もこの学園に来て初めて分かったので…」
「そうなのね。これから同じ授業を取るのですから、仲良くしていただけると嬉しいですわ」
少しつり目の気の強そうな赤い瞳に、紫がかった黒い髪。意志の強そうな口調なので、普段なら接点のなさそうな人だが、真っすぐ私を見つめる目に悪意は感じられなかった。
「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
2年生の先輩の見学をした私たちは、授業後は残りの1年生2人とも合流して一緒にランチを取った。同学年の子と話すのはキャサリン殿下以外初めてだったため、最初は緊張していたが途中からは打ち解け楽しいひと時を過ごすことが出来た。
「では、これからよろしくお願いいたします」
二人は伯爵家の娘で、アデラ様とソフィア様。優しそうな子達で、引き籠り姫と陰で噂される私にもとても親切にしてくれた。
嬉しそうに報告する私に、キャサリン様はため息交じりにダメ出しをした。
「確かにいい子たちよ。でもね、打算なしに会話できるほど、社交の世界は甘くないわ。ディール公爵家のベアトリス以外は、気をつけて会話した方がいいわ」
「ベアトリス様はいいの?」
「ええ、あの子は私の従姉妹なのよ。少しきつい性格だけど、嘘がつけないだけで悪いことはしないわ」
「アデラ様とソフィア様は?」
「そうね、悪くはないと思うけど、第二王子の婚約者のクリスに近づきたいのかも?と、疑ってはしまうわね。実際、それを抜いてもあなたに近づくメリットは多いのよ」
スコット侯爵の溺愛する娘、長男のアレン兄様は今のところ婚約者が決まっていない。それらの条件は貴族令嬢にとって魅力的なのだそうだ。
「そうだね…いい子だと思うけど、一応気をつけるわ」
「そうね、そうしてくれると助かるわ。アル兄様が心配性だから、クリスが悲しい目にあったら怒り狂いそうで、面倒なことは避けたいのよ」
「そんなこと、ないわよ。大袈裟よ」
「そういうことにしておいてあげるわ。知らぬは当事者たちだけなのだけどね…」
生暖かい視線で微笑まれたが、きっとキャサリン様は知らないから…私たちは契約上の婚約者で、そこに愛や恋がないことを。
光魔法はいくつかの使い方が出来るが、一番代表的なものは癒しだろう。軽い怪我ならすぐに癒せるし、病気も寿命に関わるものでなければ、ある程度癒すことも出来るらしい。聖女の文献は希少で、王家で所有しているものと神殿で管理しているものしか残っていないそうだ。
神の愛し子ともいわれ、聖女が現れた国は繁栄を約束されると言われていたり、聖女の癒しは死者以外なら治療できるとされる記述まであった。
今日は、学園が休みでアルバート様に誘われて王宮に来ていた。聖女に関して、何も知らない私を心配して王家所有の文献を見ないかと誘ってもらったのだ。
「詳しいことは、王家の所有する文献にはあまりないんだ。神殿が管理する文献も閲覧できるといいのだが、聖女のことを調べていると知られれば、余計な詮索をされる可能性もあって、少し待っていて欲しい」
申し訳なさそうに眉を下げるアルバート様に胸がきゅんと鳴った。誤魔化すように私は慌てて頷いた。
「ありがとうございます。アルバート様がいてくれて心強いです。今はこの文献を見せていただけただけで充分です。光魔法すらわからない私に、色々教えていただいて助かっています」
アルバート様が口に手を当てて俯いてしまい、私は何かあったのかと首を傾げた。
「かわ、…いや、これくらい、婚約者として当然だよ。兄上に君を渡すわけにはいかないし、些細なことでもバレないように情報を収集するのは必要なことだよ…」
「はい、そうですね。成人までですが、よろしくお願いいたします」
「…君はどうして、隣国に留学したいんだい?魔法なら我が国でも十分教育してあげられるはずなのに…」
「そ、それは、運命の人が隣国にいるような気がして、えっと、…」
急に理由を聞かれて、咄嗟にいつも心で唱えていたことを口走ってしまった。
「運命の人……それは具体的に誰のことを指しているのかな?」
アルバート様の声が、気のせいか低く、空気まで凍りそうな雰囲気だ。
「あ、いえ、具体的にいるのではなくて、私がそう思っているだけです。この国の貴族は一夫二妻制ですよね。私は小さい頃からその制度が苦手で、隣国の一夫一妻制に憧れを持っていまして、それで留学を心の支えにしていたと言いますか…」
「一夫一妻制…確かに、隣国はそうだったね。それで隣国に行きたいと…」
「すみません。大した理由ではなくて…」
「いや、理由を聞けて良かったよ。今後の対策にもなるしね」
「対策?」
「そうだね、いい国にしたいじゃないか」
「流石です。いつも民を思っているなんて」
「ははは、まあ、民に変わりはない、か」
王宮の書斎から出て廊下を歩いていると、向かいからギルフォード殿下とミリアンナ様が歩いて来た。王宮にまで?婚約者ではない女性を招くなんて、それは色々と醜聞になるのではないだろうか?
「やあ、クリスティーヌとアルバート。ここで会うとは、何かあったのか?」
「兄上、今日は学園も休みですので婚約者と会っていることに特に理由などいりませんよ。お互いの親睦を深めているのです」
「ふん、相変わらず独占欲を隠さないのだな」
「そんなつもりはありませんでしたが、クリスに対する愛が出ていましたか?」
アルバート様は、にっこり微笑みながらそう言った。くっとギルフォード殿下が唸ったが、隣のミリアンナ様が何故か私を睨んでいたので、そちらの方が気になった。
「殿下、お部屋に行きませんか?珍しいお菓子があるとおっしゃっていたではないですか?」
「…兄上、婚約者でない女性と部屋に入るのですか?それは、」
「うるさいぞ、分かっている。部屋には侍女も従僕もいて、決して二人きりではない。心配ならお前たちも来ればいい」
「それは遠慮しておきますよ。折角の休日なので、私はクリスとゆっくり過ごしたいですし」
「ふん、そうか」
機嫌を悪くしたギルフォード殿下はそのまま通り過ぎて行った。ミリアンナ様はチラリとアルバート様を見てから、慌ててギルフォード殿下について行った。
「すまないな。兄上には困ったものだ。最近は誰の言うことも聞き入れなくて、側近も両陛下も困っているんだ」
「そうでしたか…ミリアンナ様はどう思っているのでしょうか?婚約者のおられる殿下と親しくするのは、彼女にとってもいいことではないと思うのですが…」
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