第11話 平和が一番です
帰宅後着替えをして、ベスの入れてくれた紅茶を飲んでいると、お父様が私の部屋を訪ねてくれた。
「どうしたんだい?夕食までに会いたいなんて、珍しいことを言うから、心配になってすぐに来てしまったよ」
「ありがとうございます、お父様。実は、今日魔力判定がありまして…」
「ああ、昔母がクリスティーヌを連れて神殿に行っていたね。確か、水―――」
「聖女でした」
「……えっと、水属性では?せ、聖女??」
「はい、聖女です。学園創設以来初めてだと、学園長先生がおっしゃられていましたが、もしやスコット侯爵家の傍系に聖女がいたことがあったり?」
「ない、いないよ、流石に…聖女は突然降臨するのだと、そう聞いている。血で継承するのではなく、神が愛した子である、とは聞いているが、まさかクリスティーヌが…?そうか、これほど可愛い子供なのだ、神も愛するのは間違っていない、だが…」
少々、いや、かなり混乱したお父様が変なことを呟きだしたので、私は早々に要件を伝えることにした。
「お父様。落ち着いて聞いていただきたいのですが、当分の間、私が聖女だという事実は秘密にしておきたいのです。色々とややこしいことになりかねませんし、平穏な学園生活を送りたいので。そこで、お父様にも協力をしていただきたくて、それでお話したのです」
「…すまない。驚きすぎて取り乱してしまった。そうだな、聖女となれば国や神殿が介入してくるかもしれない。今は第二王子殿下の婚約者だが、聖女ならば第一王子殿下の婚約者にするべきだという声も上がる可能性がある。それはクリスティーヌも?」
「絶対に嫌です!!」
「そうか、そうだな。それに最近の第一王子の評判はなぁ…。わかった、出来るだけのことはしよう」
お父様に協力すると約束してもらえ、ホッとして息を吐きだした。ずっと聖女だと言われてから落ち着かなかった。アルバート様も絶対守ると言ってくれたが、契約上の婚約者を頼っていいのか、やはり遠慮があった。お父様は血のつながった身内だ。何かあれば全力で守ってもらえる安心感があった。
「お母様には言わない方がいいだろう。彼女は心配性で嘘が下手だからね。アレンとミランダには言っておきなさい。学園で何かあった時に一番に駆け付けるのはあの子たちだからね」
「はい、お父様。ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」
「可愛い娘のためだ。迷惑ではないさ」
「ありがとう。お父様」
「そうか、魔力判定で聖女だと…」
アレン兄様は深刻に考えて黙ってしまったが、ミランダ姉様は嬉しそうだ。
「凄いことよ。さすが私の妹よ。可愛いクリスティーヌが聖女だなんて、言われたら納得したわ」
「そんな、聖女なんてどうしていいか、不安しかありません。ただでさえ、体調を崩しては寝込むのに、聖女だなんて言われても、困ってしまいます」
「そうだな。我が家にとっても聖女という存在が諸刃の剣になる可能性があるな。第一、ギルフォード殿下が聖女に目をつけないわけがない。今でもクリスティーヌを狙っている様に思うのに…」
「今でも…?」
「ああ、今でもギルフォード殿下はクリスティーヌが気になっていると思う。だから僕にも声をかけ、様子を聞かれることもある。婚約者のジョセフィーヌ嬢とは上手くいってないのは有名な話だし、件の男爵令嬢は婚姻できる家柄ではない。ジョセフィーヌ嬢と婚約解消となれば、弟の婚約者を差し出せと迫らないとは言い切れない。残念なことにね」
「まさか、そこまでですの?学園内ではその男爵令嬢と、人目も気にせずお付き合いをされていますわ。ご本人はあくまで友人だとか言っていますが、信じている方なんていませんわ」
「ははは、そうだね、困った事にねぇ。そんな方に可愛い僕の妹を差し出すことは出来ないよね。是非ここは時間稼ぎをして、アルバート殿下に頑張ってもらわないとね。そのために聖女というのは言わない方がいいと僕も思うよ」
「はい、今日私の属性判定に関わった方たちには、学園長から緘口令が出され、今のところこの事実がどこかに漏れることはないと信じるしかないですが…」
「そうか、皆に公開されない形で属性判定されていたのは、本当に助かった。僕の時は皆の前でやっていたんだよ。最近、個人情報は厳しく管理されるべきだという風潮になっていて、属性判定も個室で一人一人されるようになったんだ」
次の日、少し緊張しながら登校したが、特に聖女が現れたという噂は聞かず、ホッとしながら教室に向かった。
「おはよう、クリス。今日から属性別の授業がありますよ。クリスは何属性だったの?先生が慌ててどこかに行ってしまって、クリスも学長室に行っていたでしょ?」
「え、ああ、そうだったね。水属性だと思っていたんだけど、光属性だったみたいで、ちょっと確認に時間がかかったのよ…」
「そうでしたの?属性変化はよくあることみたいですし、光属性は珍しいから確認がいるのかしらね。でも、光属性は少人数なので、学年関係なく一クラスしかなくて、例の女生徒と同じ授業になりますわね…」
「え、もしかして、例の男爵令嬢ですか??」
「そうよ、ギル兄様は希少なモノが好きでしょう?彼女のことを聖女だと思っているのよ…」
1年程前に剣の授業で負傷したギルフォード殿下を、たまたま通りかかった男爵令嬢が光魔法で癒やしたらしい。そこからダントン男爵令嬢ミリアンナ様と親密になったのだそうだ。
たまたま通りかかったと言っているが、その時彼女は教室で授業中のはずで、どうしてそのタイミングで都合よく通りかかったのか、当時から物議はあったようだ。
聖女という言葉にドキリとしたが、その事よりこれから光魔法の授業の度に、ミリアンナ様と顔を合わせると思うと少し気が重くなった。光魔法と聖女の魔法がどう違うのかもわからない、未知の世界だから細心の注意が必要だろう。
「光魔法を教えるマリア・ジョーンズです。1年生、今年は4名ですね。希少な属性なので、学年別ではなくまとめて私が担当になります。属性変化がない限りは6年間私が担当予定なので、よろしくお願いしますね」
綺麗なプラチナブロンドの髪を緩く編んでまとめ、薄い紫色の瞳をした25歳くらいの綺麗な女性だ。聖女がいるとしたら彼女のような人ではないだろうか、そんな清浄な空気をまとっていた。
「1年生は今日が初めての授業になるので、それぞれの学年の先輩が何をしているのか、とりあえず見学してください。2年生以降の生徒は、課題をクリアできるよう練習を続けて、1年生に説明をしてあげてくださいね」
1年生は女生徒ばかり4名で、同じクラスの子はいなかったので、私は2年生の先輩が何をしているのかを見学することにした。
「ご一緒してもいいかしら?」
2年生の先輩方が集まっている方へ行こうとすると、隣に同じ1年生の子がやって来た。特に断る理由もなかったので、私ははいと答えた。
「私はディール公爵の娘で、ベアトリスよ。お名前を聞いてもいいかしら?」
「はい、スコット侯爵家のクリスティーヌと申します。よろしくお願いいたしますわ」
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