第11話 夢追い人は唐突に
ポーファとガードがネトワ学園に入学して、約一ヶ月。
オリギネットとの一件以降は妙な連中に絡まれる事もなく、ポーファは比較的平穏な学園生活を過ごしていた。
そんな、とある休日の昼下がりのことである。
「俺さー。吟遊詩人になろうと思うんだよね」
自身で作ったパンケーキを食後のデザートとして摘みながら、セクレトがそんなことを言い出した。
ちなみに、その直前に吟遊詩人について話していたなどという事もない。
実に唐突な言葉であった。
「はぁ?」
眉を顰め、疑問の声を上げたのはガードである。
「にーちゃん、またいきなり何を……」
「凄くいいと思います!」
しかし、質問の言葉は半ばまで出たところでポーファの弾んだ声によって遮られた。
「セーくんの歌声……きっと、皆魅了されること間違い無しです!」
胸の前で手を合わせ、うっとりとした表情で言うポーファ。
既にここに一名、まだ歌声すら聞いていないにも関わらず魅了されている者がいるようだ。
「おっ、やっぱり? おっしゃ、そんじゃいっちょやってみっか!」
セクレトも、かなり乗り気な様子だ。
「お、おぅ……」
そんな呟きを漏らすガードは、後にこう語る。
これはもう僕が何を言っても止まらんやつだな、って思った……と。
「ていうかにーちゃん、楽器なんて出来るの?」
早々に説得は諦めたらしく、ガードの質問は既に「やる」体のものとなっていた。
「あぁ、リュートならそれなりに出来るぞ」
と、セクレトは手の平大の石を取り出してパキッと割る。
すると割れた石の上、宙空に『穴』が出現した。
空間魔法を付与した、使い捨ての魔石である。
以前、入学式の際にステンチグリズリーを取り出すのに使用したのと同じものだ。
そこに手を突っ込むセクレト。
次に抜いた時、その手にはリュートが握られていた。
一つで並の騎士団員の月給くらいの価格はする魔石を楽器を取り出すためだけに使ったことに、やはりこの場で言及する者は誰もいない。
座ったままでリュートを膝に載せ、セクレトはポロンポロンとそれを爪弾く。
なかなかに様になっていた。
「流石セーくん! お上手です!」
「そんなもん、いつやってたの? 僕らと暮らし始めてからは、弾いたことないよね?」
ポーファが手放しで褒め称え、ガードが疑問の言葉を重ねる。
「学園生時代に、ちょっとな。何を隠そう、ネトワ学園軽音楽部の創設者にして初代部長とはこの俺のことなのだ!」
ベベン!
セクレトが、自らの言葉に効果音を付けた。
ネトワ学園には、『部活』という活動単位が存在する。
といっても基本は生徒同士が有志で集まったものであり、学園が解放している施設を個人的に利用しているだけに過ぎないわけだが。
それでも、多数の人数を抱える『部』の長ともなればそれなりに一目置かれるようになる。
セクレトが挙げた軽音楽部などは、その最たるものだ。
「そうだったんですね……クラスでも、何人か軽音楽部に入っている人たちがいます」
ポーファが、感心の表情に。
「なんとなく、僕の中ではチャラい人が多いイメージなんだけど……にーちゃんも、あんな感じだったわけ?」
ガードがやや微妙な表情となる。
「全然チャラくはなかったぜ? 創設当時のメンバーは木管楽器とか金管楽器とか、あと打楽器とかで構成されてたし」
「それ吹奏楽じゃない? どこが軽いの?」
「俺の態度かな……」
「やっぱりチャラかった……」
「チャラいセーくんも素敵だと思います!」
「お、おぅ……」
割り込みで賞賛をぶっ込んでくる姉に、ガードの表情がますます微妙なものとなった。
「まぁ別に、好きにすればいいと思うけどさ……」
次いでそれを半笑いに変化させたガードは、どうやら我関せずの姿勢を決め込むつもりのようだ。
「よーし、そうと決まれば早速動き出しましょう! 私は会場を押さえますので、ガーくんは宣伝を! セーくんは本番に備えてバッチリ練習しておいてください!」
もっとも、ポーファによって速攻で当事者サイドに引っ張り出されたが。
「……ですよねー」
予想していたことではあったらしく、ガードの反応は笑みの種類を苦笑気味に変化させただけであった。
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