第8話 水曜日が逝ってしまう……

俺はベッドの中でスイちゃんの体を抱きしめていた。


「行かないで、水曜日」


ギューっ。


「スイちゃんともっといたいぃぃぃぃ……」


体の震えも涙も止まらない。


「行かないで、水曜日」


カチッ。


23:50。


俺の腕をすり抜けたスイちゃん。


「お時間ですね。ご主人様。永遠の別れではありません」


「あうっ……」


「1週間待てばまた会えますよ。会えない時間が長ければ会えた時の喜びも増えるものですよ」


俺のほっぺにキスしてきたスイちゃん。


「木曜日なんていらない。ずっと水曜日でいいのに」


「そんなわけにはいきませんよ。ご主人様」


とてとて。


押し入れの前に向かったスイちゃん。


スッと押し入れを開けた。


しゃがんでこっちを向いて正座した。


「それでは……また一週間後もスイのことを愛してくださいね、ご主人様」


スッ。

押し入れが閉じられた。


「水曜日ロスだ……」


かつてこれほどまでに明日が怖いと思ったことなんてあるだろうか。


いや、ない。


月曜日よりも怖いぞ。木曜日が。


カチッ。


日付が変わった。


しばらく布団のなかでスイちゃんの体温の残滓を感じていた。


それからしばらくして押し入れが開いた。


00:05のこと。


コツコツ。


足音を鳴らして押し入れから女の子が出てきた。


金髪ツインテールキレイな女の子だった。


「あらら……」


俺を見て気まずそうな顔をしている。


「水曜日を返して」


「あの、気持ちは分かるけど、他の曜日の話はとりあえずやめてくれるかな?私は木曜日」


「……」


「うーん……」


女の子は押し入れを開けて猫耳を取り出してきた。


「にゃーん」


そのまま歩いてくるとベッドの前で服を脱ぎ始めた。

そして布団に入ってきた。


そして、そのまま俺を、むぎゅーっと抱きしめてくれた。


顔をおっぱいで挟んでくれた。


「水曜日ロスなのは分かるけどさ。今は私の事見てよ?ね?私だって脱ぐと凄いんだよ?」


あったけー。


「ふへへ(木曜日ちゃんも悪くないなぁ〜)」←超単純


木曜日ちゃんは頭を撫でくれてた。


「そうそう……金曜日直前には木曜日ちゃんいかないでって言わせてあげるから、覚悟しててね」




俺は最初はおっぱいに挟まれて安らかに眠りにつく事ができた。


しかしそれは最初だけだった。


夢を見た。


『主殿。特訓の時間でござるぞ』


俺は自宅の庭にいてほむらに剣の稽古をつけられる夢を見た。


筋トレ……正拳突き、その他もろもろの護身術などを叩き込まれる最悪な夢だった。


こんな夢を見ながら思ってた。

もっとほかの夢はないのか?


こう、今まで出てきた女の子とハーレムえっちするような夢とか、ないんですか?


そうですか……。


でも、なんだか少しだけどちょっぴり強くなれた気がした。



翌日。


朝起きると俺の事を木曜日ちゃんが見つめていた。


「おはよっ、来夢くん」


ピトッ。


俺の唇を人差し指で押してきた。


「おわっ!」


人の顔が目の前にあったから、驚いた拍子で俺はベッドから落ちそうになっていた。


パシっ。

その腕を掴んでくれた木曜日ちゃん。


「危なかったね」

「ありがとう」

「さてと」


木曜日ちゃんはベッドから出た。


「学校まで行こっか来夢」


どうやら今日はエスコートされそうな雰囲気だった。


家を出ると木曜日ちゃんはやっと名前を名乗る。


「私の名前はミカンって言うの、よろしくね来夢」


「あ、うん」


「気軽にミカンって呼んでね」


そんなミカンと歩いてると道行く人達がみんな振り返っていた。


「すっげぇ、美人」

「なにあれ?どっかのモデル?」

「すごいスタイルいい〜」


男女問わず全員が多少なりはミカンに目をやっていた。


(たしかに俺目線でもすっごいスタイルいいんだよなぁ〜ミカン)


そう思いながら見ているとミカンは笑顔を向けてくれた。


「どうしたの?来夢」

「キレイだなって思って」

「えぇ、お姉ちゃん嬉しくなっちゃうな〜」


俺の手を握ってくるミカン。


「う、うわっ!」


いきなり握られたからビックリした。


「かわい〜♡」


俺の様子を見てそんなことを言っているミカン。


やはりミカンはお姉さんタイプの女の子らしい。


「ねぇねぇ、来夢。今日デートしない?」

「え?デート?」

「うん。今までのお子ちゃまたちだと来夢とデートなんてしなかったよね?」


俺は過去の女たちを思い出していた。


たしかに、スイちゃんとはそれっぽいことをしたけど、他の子達とはデートなんて呼べるようなものはしていなかった。


「その顔だとしてないみたいだね。だからお姉さんとデートしよっか来夢」


つーっ。


俺の胸に指を当ててそのままへその方へとスライドさせていった。


「もちろん、来夢が望むなら……そっちだって、ね?」

「いや、でも俺はスイちゃん一筋だから……ははっ。」


「放課後くらいまでにはぜったい、ヤリたいって言わせてあげるから、ね?」


ウィンク。


スイちゃんとは全然違うタイプの魔性の女ってやつだった。


俺たちは学園まで歩いてこれた。


そのとき、ミカンは言った。


「先に教室入っててくれる?来夢、ちょっと用事が」

「用事?」

「ほら、私昨日裸で寝てたじゃん?それでちょっと調子が」


お腹を抑えてそう言ってたミカン。


「あぁ、ごめん。空気読めなかった。うんこしたいならそう言ってくれたらいいのに」


「じゃ、そういうことで」


ミカンはトイレの方に向かっていった。


ちなみにミカンは容姿はかなり目立つ。


そのせいで周りの生徒からすごい目で見られていた。


「今の子めっちゃ綺麗だなー」

「ほんとモデルさんみたい。すごいなー」


そんな声。


俺は他の奴らの視線から逃げるように教室へと向かっていった。


教室の中に入ると、さっそく俺に視線が集まる。


集まる視線は期待していたようなものばかりだったけど、すぐ、落胆に変わった。


「今日は連れてねぇのか」

「今日はどんな子連れてくるのかなぁって思ったけど」

「ま、あんな陰キャじゃ毎日毎日日替わり美少女なんて無理だよなぁ」


そんな会話が聞こえていた。


俺は自分の席に向かっていくことになった。


一時間目のために教科書を机の上に出していたら。


ザワザワ。

教室の中が騒がしくなり始めたが、俺は興味がなかったので会話内容には耳を傾けなかった。


教科書を出し終わった時俺の机に陰が落ちた。

誰かが立っているようだ。


顔を上げると、この前俺を見つめていたクラス内カースト上位の女が立ってた。


「おはよう。来夢くん」


ザワザワ。


「おい、女帝があの陰キャに話しかけたぞ」

「どうなっちまうんだ、いったい」

「女帝ってたしか読者モデルとかなんかやってんだろ?なんであんな陰キャに」


教室は緊張感で張り詰めていた。

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